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鶏肉とカシューナッツ炒め~プレミアム版~

この夏…40℃に手が届く最高気温を幾度も経験した。

帰宅時、スクーターで街を走ると、体温越えの熱風が体にたたきつけられる…それはもう「ジェットバスに入っている気分さながら」だった。


「今日の最高気温は…と32℃か」


これが「今日は涼しい、と周囲の人は言う」北関東の初秋…「俺は認めん」と思いつつ、実習室の空調を24度急冷設定にしてまわった。

今のところ、研修生から熱中症患者は出ていないが、まだまだ油断は禁物だ。


食堂へ向かう途上で、研修生を見かけるたびに「おはようございます」と声をかける。

応答内容には個人差はあるものの、基本的に健康状態に異常はなさそうだ。

俺は安心しながら食堂へと入っていった。


なんと一食415円もする「一汁三菜」、今日の献立を現物で確認する。


『今日の献立』

主菜:いわゆる「中華料理で見かける、鶏肉とカシューナッツ炒め」のようなもの

副菜①:コンビニあたりでよく見かける、だし巻きたまご形状のもの

副菜②:出現率が週二回はあるキャベツミックス


鶏肉とカシューナッツ炒め…俺にはちょっと重いかな、とも思うが、若い研修生たちは喜んでいる。

「今日は当たりだな」

「ごはんにのせて、丼みたいにしようかな」

口々に食事について語っている。


…若いっていいなぁ


香り的には「甘い、よりも、ピリ辛」が強そうな鶏肉とカシューナッツ炒め、食欲減退の際に白米を食べてもらおう、という運営会社の心遣いがうれしい。

俺は、特に視界も狭めることもなく白米の配膳列へと進んだ。


配膳担当のオッサン(推定70歳)に「おはようございます」と言おうと口を開きかけた…その瞬間にドン!と茶碗を置かれ…「挨拶くらいさせてよ」と声が漏れる。

「いやもう、センセ、目立つからさぁ、来たらもう盛る準備とかしちゃうんだよ(北関東風)」と、悪気のない笑顔を見せる。

東南アジア女性スタッフは、透明感のある中華風スープを椀に注ぎ「ドゾー」と微笑む。


…まぁ、仕事っぷりはホントにいいんだよな


俺は、妙に感心しながら席に着いた。


研修生と他愛もない話をしながら、早速「鶏肉とカシューナッツ炒め」を食べてみる。

やはり予想通りピリ辛寄り、カシューナッツの食感もとても楽しい。

彩りのピーマン類も、目で食欲をそそってくれる。


…これは飯がはかどるなぁ


研修生たちも「鶏肉、いいっすよね!」「ご飯にたれをベチャベチャ塗りたくって食べるのがイイ!」と、大喜びだ。

俺は喜んでる研修生の姿を見て、目じりを下げる。


俺はなおも「鶏肉とカシューナッツ炒め」に手を伸ばす。

鶏肉がいい、という研修生の言葉…どれほどだろうな…と思い、口にする。


…おお、カシューナッツとピーマン、これも香ばしい感じでうまい


俺はさらに「鶏肉とカシューナッツ炒め」に手を伸ばす。

鶏肉がいい、という研修生の言葉…どれほどだろうな…と思い、口にする。


…カシューナッツがやたら多い


俺はとことん「鶏肉とカシューナッツ炒め」に手を伸ばす。

鶏肉がいい、という研修生の言葉…どれほどだろうな…と思い、口にする。


…カシューナッツばっかり


ほとんどカシューナッツ…たまにピーマンが顔をのぞかせる程度。

肉と言えば…ちぎれかかった鳥皮の一部と、肉のかけらが申し訳程度に顔をのぞかせているだけ。


不審に思った俺は、そっと隣席の研修生に尋ねてみた。

すると「いや、そんなことないですよ、ちゃんと鶏肉ありますよ」と、実際に鶏肉を見せてくれた。


…いや、俺の皿は、どう見てもカシューナッツが主役、カシューナッツ100%炒めっぽいんだが。


俺の視界…ここでじわっと狭まった。

北関東では「鶏肉とカシューナッツ炒め」の鶏肉がこんなに偏るものなのか?

だいたい「鶏肉とカシューナッツ炒め」なら、鶏肉そこそこ入るもんだろう?

鶏肉が入っていない「鶏肉とカシューナッツ炒め」なんて、大佐専用の赤いモビルスーツのツノがないのと同じだろう!


…偶然とはいえ、俺の皿にだけ鶏肉が入っていない、なんてことが本当にあるのか


向かいの研修生がぽつりと言った。


「センセ、もしかして…ナッツ好きなんじゃないですか?なんか、そういう顔してますよ」


…いったいどんな顔なんだよ


皿の上の「ツノなしカシューナッツ炒め」を呆然と見下ろしていると、研修生たちは、俺の皿をのぞき込み笑っている。

「先生、それ、当たり、ですよ。鶏肉よりナッツのほうが高いっすから」と別の研修生が、横から茶々を入れてくる。

「プレミアムっすよ、これ!」と、真剣な表情で…でも、目が笑っている研修生もいる。


…なるほど、そういう考え方もあるのか。


確かに、鶏肉よりカシューナッツのほうが原価は高い。

つまり俺の皿は「ツノこそないが、原価的には大佐専用」ということになる。


「いやいや、騙されんぞ、俺は!」


そう言うと、研修生たちは一斉に笑った。

その笑い声を聞きながら、俺もつられて口元が緩む。


…ま、いいか、もう


俺は「ツノなしカシューナッツ炒め」を完食し、学食を出る。

今日もまだ日差しは強く、影の色も濃い。


「いつものスーパーで、唐揚げでも買って帰るか」と空を見上げてつぶやいた。

まれにですが「異常なくらい、何かが偏る」おかずに当たります。もちろん、とんでもなくいいほうに当たることがあったりもします。生姜焼きなんか、豚肉だらけ、とか。(タマネギの風味も好きなので、あんまり極端なのはまた困るけど) 研修生には「プレミアじゃないっすか!」って言われて…お、おう…とか思いましたが…「いややいや、騙されんぞ、俺は」  味はちゃんとしてるので、奇跡にな頼りさえなければ、と思っています。

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