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VS「黄色い牛めし屋」

梅雨明け十日とはよく言ったもので、この数日は最高気温が軽く30度を突破している。

朝7時で28度を超えることも珍しくなく、テレビでは連日のように「熱中症」の話題が流れている。


……こんな暑いさなかに屋外研修は、どう考えても無理筋だよな。


そう判断した俺は、午前を「屋外設備実習」、午後を「該当設備の理論を座学で行う」という構成にし、熱中症予防を図っていた。

少し早めに実習室へ入り、空調を24℃急冷にセットしてから食堂へ向かう。

食堂では、研修生たちが「おはまっす」「ざっすぅ(としか聞こえない)」「っす」と声をかけてくる。


……「ざっすぅ」ね。

……「っす」ね。


と思わないでもないが、気は持ちようだ。

挨拶すらできない人間も少なくないこのご時世、これも時代なのだと思い、気にせず「おはようございます、今日も暑いよねぇ」とにこやかに返す。


そして、いつものようにホットケースからおかずをを取り出し、「一汁三菜」の今日の献立を現物で確認する。


『今日の献立』


主菜:ソーセージ(単3電池サイズ)×2本・ただしコゲコゲ

副菜①:目玉焼き(というより蒸し焼き) 1つ

副菜②:キャベツミックス(普通盛り)


ボリューム感はあまりないが、朝定食らしいと言えば、朝定食らしい。

人によっては「こういうのでいいんだよ、こういうので」と言うタイプの、まさに「絵に描いたような朝定食」メニュー。

見た目は「黄色い看板の牛めし屋」で出てくるアレにそっくりだ。


……そうそう、こういうのでいいよ、こういうので。

……えーと。

……これ、415円だよな?


俺の視界が、またじわっと狭くなった。

もちろん熱中症ではない。

あの牛めし屋のほぼ同様の定食は「牛小鉢までついてワンコイン以下」なのに、こちらは「小鉢なしで415円」ということに気づいてしまった俺の怒りが、ひたすら血圧を上げているだけだった。


価格改定受けてこれか?

ソーセージは、見事なまでの単3電池サイズだぞ?

しかもコゲコゲだぞ?

目玉焼きに至っては「あの牛めし屋のは、ちゃんと焼いた香ばしさが白身の縁にある」のに、こちらは「どちらかというと蒸した感じ。下手すると平らなゆでたまご」じゃないか!


ただでさえ暑い朝、俺はちょっとした怒気によりさらにアツくなるが…「もういい」とかぶりを振りつつ、冷静さを装い白米列に並ぶ。

ふと見ると…研修生の食欲も落ちているようだ。


「ごはん、小盛りで…」

「ごはん、一口だけ…」


という声がちらほら聞こえる。


俺は通りすがりの研修生に「食欲ないのは仕方ないけど、研修始まる前に冷水を少し飲んでおいてね」と声をかける。

熱中症対策のキモは「朝食を抜かない」「水分の事前摂取」…現場環境はもっと厳しいことも考えると、生活指導も俺の役目だ。


配膳担当のオッサン(推定70歳)は、今朝も元気にリズミカルに配膳をしている。


「お」ドン、と白米普通盛りを置く「はようございます」…もう、挨拶すら成立しない。

こんなもんか、と思っていると、オッサンは「熱中症対策、うちもしてっからね?(北関東風)」とにやりと笑う。


…どういうことだろうか


「まぁ、先生、食べたらわかるよ」とさらにニヤリとする。

汁物を盛っている東南アジア女性も「ワカル、オイシイ」と屈託のない笑顔をみせる。


…もう、嫌な予感しかしない。


定食の盆をもち、いつも座っているあたりに向かって歩いていると、茶碗を持った生徒とすれ違う。


「おっさーん、おかわりー」

「ボクも願いします」


食欲減退の研修生ばかりではなく、食欲旺盛な研修生もいるようだ。

そんな彼らを見て「元気いいな」と心強くも思う。これなら「熱中症リスクは少し下がるかもな」と思いながら食事を取る。


…ソーセージをひと口かじった瞬間


舌がビリッとしびれるほど辛い。

チリなのか、ペッパーなのか、その正体はわからない。

ただひとつ言えるのは、ソーセージ、とことん辛い。単3電池レベルなのに、爆弾級。

一口食べただけなのに、汗が噴き出る。


ここまでくると「朝食」ではない。最低でも「懲食」だ。


そりゃ、ごはんなんか、いくらあっても足りるわけがない。

暑さで食欲がなかったはずの研修生たちが「ごはんおかわり!」「あ、俺も!」「大盛り!」と次々お代わりを要求する。

白米列は「お代わりラッシュ」が発生し、オッサンと東南アジア女性が大活躍している。


……なるほど。


オッサンの言った「対策」とは「辛さで白米を食わせて水分量とエネルギーを確保する」という、力技熱中症対策ということか。

いや……方法として正しいかどうかはともかく、効果は抜群だ。


オッサンと東南アジア女性のほうに視線を送ると…二人とも静かにサムズアップ


辛さで汗がにじみ、そして冷房の風がやけに心地よく感じる。

俺は、熱さと辛さと呆れの中で、白米をかき込みながら静かに思った。


…俺もお代わりしてこよう

うちの学食は、意外とローテーション間隔が広いうえに、組み合わせを変えて出すことや「昨夜残った素材を朝に回す」なんてこともあるんで、当たりはずれはともかく、バラエティに富んでいます。

ですが「黄色い牛めし屋」っぽいのは…直観的ですが…月に1度は必ず出ます。

最初は喜んでたんですが…よく考えたら「牛小鉢」つけて500円切れるんで…むう…とは思っています

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