ハム
スクーターで毎日通勤する俺にとって、梅雨と秋の長雨は「敵」だったりする。
特に梅雨は「蒸し暑いのに雨具着用を強いられる」わけで、雨具を外した後は「雨なのか汗なのかもうわからんが、とにかく濡れている」という状態に陥る。
研修生にとってもこの時期、屋外研修設定の有無は「分かれ目」でもあり、俺は「この時期は、屋内設備だけでカタが付く研修」によせることにしていた。
…梅雨末期の「蒸し風呂みたいな空気」は、学食の中まで押し寄せる
俺は手拭いで汗をぬぐいながら、おかず配膳列に並ぶ。
後ろからやってきた研修生は、まるで梅雨明けしたかのような笑顔を見せながら「はよざまっす」(ホントそうにしか聞こえない)と声をかけてくれる。
「おはようございます…今日も天気悪いねぇ…」と返事をすると
「先生、今回のカリキュラム……神すぎません?」
いきなり褒められる…「いや、なんで?」と思い、研修生の言葉を待つ。
「ほかの研修なんて、季節とかあんまり考えてないけど…先生のは、梅雨時とか屋内だし、8月前半とか設定がないじゃないですか!」
………いや。
「先生、よく言ってますもんね! 相手に動いてもらうには『共感』させて『納得』させないとダメだって!」
……だから。
「うちの上司も言ってましたよ!あの人はホントに現場の気持ち、人の気持ちとか、よくわかるから、研修も楽しくなるよって!」
…俺はただ、去年の資料をみて、ちょっと微調整しただけなんだよ。
その場を逃げ出したくなる衝動にかられながらも、俺はかろうじて踏みとどまった。
そして、朝400円の「一汁三菜」、今日の献立を現物で確認する。
『今日の献立』
主菜:10cm四方のハム。焼いてないヤツ。厚さは「USB-Cの端子並み」
副菜①:オニオンレタスミックス(オニオンレタス千切り。ふつうの量)
副菜②:里芋(500㎖ペットボトルのキャップサイズ)二個と、油揚げ3~4枚(HDMI端子の金属部分サイズ)
………この四角いの…すっごく薄いけど…ハムなの?
……したら、この野菜たちは、ハムと一緒に?
…いやいやいや、これさ、ハムサンドの中身バラしたやつだろ!
俺の視界がまたじわっと狭まる。
正真正銘…病気ではない。
職人芸レベルの薄切りハム(しかも焼いていない)への怒りが、俺の血圧を「ほおむらん!」レベルで押し上げているだけだ。
北関東では、これを「主菜」として祭り上げるのか?
そもそもこれって、12枚切りミミなしパンにはさむやつだろ?
違うおかずだ主菜だというならば、なぜ火を通さない…だいたいいまは梅雨時だぞ?
ここまでくると、薄切り界隈でも次に弱いクラス…まさかキサマ「薄切り四天王第三位」とでも名乗るつもりか?
俺は「もう何も信じられない」という感覚にとらわれ、しょぼんとしながら白米列に並ぶ。
…これ、いくら何でも少ないな
おかずを見てそう思った俺は、配膳担当のオッサン(推定70歳)に「ご飯普」…刹那にドン!と置かれた茶碗を手にしながら…「通盛りを二つ」、とつぶやいた。
…オッサンの手が止まる。
…東南アジア女性二名は「フタツフタツ」と繰り返す。
オッサンは、俺をじろっと見ながら「だったら大盛りって言えば」と軽くイヤミを言いながらも「はい、普通盛二つ!」とにこやかに二つ目を出してくれた。
…あの「筑波山」「桜島」より、絶対に少ないな
俺はちょっと安心しながら、東南アジア女性がよそってくれた汁椀を受け取り、着席した。
このおかず量だと、さすがに少ないのか…研修生たちの「お替りください」がいつもより多い。
俺の後に並んでいた研修生も「白米を二つもらう」で解決を図ったりしているようだ。
…俺には「対納豆ヒミツ兵器(改)」がある。
…なめたけご飯だけ、で、考えても秀逸。
ハムサンドの中身になんか、絶対に負けない、と思いながら汁椀を手に取り、一口すする。
……あれ?
…んん?
汁椀の中身…「コーンポタージュ…しかも、相当ぬるめ」だった。
…これしいれでぱんがたりないかわすれたかしただけだろおいっ
あまりの怠惰さに直面したせいか…脳の震えが…本当に止まらない。
どう突っ込んでいいかも…わからない。
いや、クリームシチューでご飯、だってまぁ選択の余地はあるわけで…でもさ、これさ…
なんとか完食した俺は…学食を立ち去る。
その際に入り口に張られた「お知らせ」が目に飛び込んでくる
…おわび 来月から価格改定 400円→415円(以降、値上げ理由が書いてあるが、興味なし)
窓の外は、相変わらずの梅雨模様。
だが、俺の心には「梅雨末期のゲリラ雷雨」が訪れた。
…値上げでいいからさ、もう少し、こうさ…
遠くで雷が鳴った。
たまに出るんです、うちの学食。「どう見ても、パン用でしょ?」ってやつが。朝だけではなく、昼だって平気で「パン用」が無造作に現れます…油断も隙もありません




