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講師、学食に現る

俺は52歳。

身長180cm、体重110kg。

そして今は、某電気工事会社が「北関東の地方都市に持つ、企業内研修所」に常駐する講師だ。


四月。

桜の花びらが強風に巻かれ、地面を転がっていくような季節に、俺はこの研修所への異動を命じられた。

しかし勤務先は、自宅から電車で3時間。

関東南岸にある自宅から、研修所が存在する北関東の地方都市まで、通えるわけがない。

俺は単身赴任を会社に願い出て、社宅扱いで小さな仮住まいを手配してもらった。


研修所の勤務は、とにかく規則的だ。

例えるなら学校のような規則正しさで、時間が“ピシャッ”と決まっている。

もっとも学校と違うのは、


生徒は大人なので、基本的に問題は起きない(本人の出来不出来とはまた違う)

クレームを入れてくるモンペが襲ってこない(親は来ないけど、研修生所属箇所の上司が押しかけてくることはある)


このあたりだろうか。


「まさか俺が“ハンコを押したような勤務”をする日が来るとはな…」…俺は朝の廊下を歩きながら、毎日のようにそう思う。


かつての俺といえば、


残業は“人には言えない”レベルの時間数

夜勤は“翌月病院に行け”と言われるほどのシフト

生活リズムは“外れしか出ないガチャを延々回している”


そんな無法地帯のような働き方をしていた。

それが今はどうだ。

まるで時計の秒針のような規則正しさで出勤し、講義し、巡回し、終われば帰る。


単身赴任の不便さや、資金面不安を武器にして、俺は朝と昼の学食利用を会社に認めさせた。

朝400円、昼600円。研修生は実質無料でも、講師の俺は給与天引き。

でも、1000円で朝昼飯が揃うのはありがたい。


学食のスタイルは「一汁三菜」。


主菜1品(数量限定)

副菜2品(お代わり自由)

ご飯(お代わり自由)

汁物(お代わり自由)


納豆、ふりかけ、味付け海苔…このあたりも自由に取れるので、400円としては破格だ…文句は言えない…本来なら。

しかし、どれだけ安くても「これはおかしいだろ」と思う日はやってくる。


『今日の献立』


主菜:笹蒲鉾(たった1枚)

副菜①:長芋ワサビマヨネーズ和え

副菜②:豆腐の白和え


……さっ…ささかまぼ…こ……?


俺の視界がじわっと狭まる。

別に病気というわけではない。

ただ、笹蒲鉾への不満、悲しみ、怒りが胸に湧き上がり、それが俺の血圧を押し上げ…視界を狭めるのだ。


北関東では“朝食の主菜”として成立するのか?

俺の知っているささかまぼこは、


酒のつまみ

わさび醤油

夜の相棒


こういうやつだ。これなら納得だし、心底うまい、と思う。

それが…朝の白米の横で平然と鎮座している。

わさび醤油すらつかない。

長芋のワサビマヨネーズ和えで“代用されている気分”になるのも腹立たしい。

四方八方、逃げ道なしである。


仕方ないから“納豆”で逃げよう……と思うのだが…この学食、なんと薬味が一切ない。


ネギなし

たれ以外の追加もなし


代わりに置いてあるのは、正体不明の醤油が一本だけ。

「納豆で逃げる」すら許さないストロングスタイルである。

さらに悪いことに、俺の体格を見た配膳担当のオッサン(推定70歳)が、これでもかと白米を盛ってくる。

いや、“盛る”というより“押しこむ”という表現が正しい。


ドンッ!

ドンッ!

ドォォォォォォォン!


茶碗が悲鳴を上げる音が聞こえそうなほど白米を詰め込み、しゃもじで叩いて均したうえで、さらにその上に小さな山を築く。

控えめに言って「仏壇のお供えご飯(どんぶり版)」である。


主菜が薄いのは我慢できる。

副菜が淡いのも仕方ない。


だが筑波山のミニチュアみたいな白米を前に、納豆に薬味がないという仕打ちは、さすがに受け入れがたい。

俺は、味付け海苔二袋とふりかけを3種類で筑波山を平らげたが、心は完全に折れていた。


(……明日は絶対に薬味を持ち込む)


そう静かに心に誓いながら、学食を出たその瞬間、強風が吹きつけ、桜の花びらが一斉に舞い上がった。

春の風が俺のメタボな腹を揺らしながら、どこかへ連れていこうとでもしているようだった。

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