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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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短編小説

借金の保証人

作者: とり
掲載日:2025/09/28


「せやから金持(かねも)ちになっててな」


 高校の帰り道、クラスメイトのF(エフ)はそう言った。

 Fと僕とは別段(べつだん)仲がいいわけではない。たまたま帰る方角(ほうがく)が同じだったのと、『なんとなく』という感覚(かんかく)から、下校は二人(ふたり)でいっしょに、というのが慣例化(かんれいか)していた。


 僕はFの言葉にムリやと答えた。だって不景気だし、僕にそれほどの将来性はないし、そこまで努力(どりょく)家になったつもりもないし、努力(どりょく)したところでどうにかできるものでもないし。


 できない理由はいくつでも()げられる。

 やろうとする理由はひとつも挙げられない。


 そもそもなんで僕が金持ちになんてならなきゃいけないんだ? と(かんが)える(だん)になって、僕はFの話していたことを何ひとつ聞いていなかったことに気付いた。

 最後以外は。


「おまえオレの話聞いてへんかったやろ」

「うん」


 横からF(エフ)のニキビ(づら)指摘(してき)されて、僕はうなずいた。

 Fはまあいつものことやなと言って、もう一回(いっかい)話し始めた。


「オレ、大人(おとな)んなったらたぶん借金(しゃっきん)する。あそびか生活費に困ってかは分からんけど……そもそもがカネのない(いえ)やしな、人並(ひとな)みにかせげるヤツになれるかどうか自信(じしん)がない。せやから借金(しゃっきん)するやろなーって予想立ててんねん。ほんでそん時に、おまえに保証人(ほしょうにん)になってほしいって言うたんや」

「絶対イヤや」


 半分(はんぶん)本気(ほんき)、半分テキトウに僕は言った。


 Fの心の(うち)は分からない。だけど僕は自分(じぶん)の心の(うち)なら言語(げんご)化することができる。(こえ)には出さなかったけれど。


 たまに、動画とかで借金の保証人に友人(ゆうじん)をたずねる(さい)に、「どうしても、キミにしか頼めなくて」なんて、涙を流して土下座までしてみせて、いかにも親友(しんゆう)ぶった態度で恥知らずが押しかけてくるシーンを見かけるけれど、僕はそれに対していつもこう思う。


 『こいつは相手のことを一切(いっさい)友人だなんて思っちゃいないな』


 あたりまえだ。


 「百円(ひゃくえん)()して」ってレベルじゃない。

 金融(きんゆう)会社から利子(りし)つきで大金(たいきん)を借りる際に、「わたしが払えなかった場合、あなたが肩代わりをしてください」という図々しい文言(もんごん)に、OK(オッケー)署名(サイン)をくれと言っているのだ。


 泣き落としとセットで出て来る科白(せりふ)に、「子供が難病(なんびょう)をわずらって、どうしても大金が必要で」なんてのがあるが、そんなものは募金(ぼきん)で集めていただきたいし、なんならそれはヒトの命を(たて)にして金銭(きんせん)をせしめているという名目で、『脅迫罪』に該当し、警察に突き出してやってもよいのだ。


 僕はF(エフ)に対して、(たい)した思い入れはない。

 Fもボクに対して、さしたる思い入れもないだろう。


 僕は将来、Fが借金のことでたずねてきたら、先の理屈をぶっつけて、()いかえしてやろうと心に決めた。

 あんまりしつこかったら、警察に通報しようとも(ちか)った。


 『借金の保証人になってくれ』なんてふてぶてしいおねがいは、僕だったら『どうでもいいと思っている人間(にんげん)』に対してする。友人だと思っている人間には絶対しない。



 F(エフ)訃報(ふほう)が入ったのは、高校を卒業してから二十年(にじゅうねん)後のことだった。


 四十代手前(てまえ)同窓会(どうそうかい)

 手頃(てごろ)な価格の居酒屋で、とりあえず集まった面々(めんめん)と酒やジュースを飲み()わして、空気がほだされ会話が増えてきた時だった。


「おまえ知らんかったん?」


 かつて陸上部のエースで、成績も(つね)に上位五位以内という文武(ぶんぶ)両道だった男子生徒のBは、ビールで()った顔を一気(いっき)()めたものにした。


「おまえFといっつも一緒(いっしょ)で、仲良しやったのに。ホンットなんも知らんの?」

「うん」


 僕はうなずいた。

 Fとは『いつも』一緒(いっしょ)だったわけではないし、仲良しだったわけでもないけれど、それらを否定するのは後でもできる。


 Bは、いろんな人を見まわして「せやかてなあ~」と言った。

 他の旧友(きゅうゆう)たちは、男女共に、()けた顔をわけ知り()(くも)らせた。


 Fは借金(しゃっきん)を作ろうとしたらしい。


 そのために、高校時代の同級生をひとりひとりたずねて、動画とかでたまに見るような泣き落としと土下座をやってみせていたそうだ。


 Fが借りようとした(がく)については不明である。誰も言おうとしなかった。

 けれど借金はえてして増える。利息によって。雪だるま式に。


 だからみんな金は借りたがらない。

 他人(たにん)の借りた金のケツ()きなんて、言語道断(ごんごどうだん)だ。


 とうぜん、かつてのクラスメイト達はFを追いかえした。

 半分(はんぶん)以上が家庭を持っていたし、僕のような独身(どくしん)であっても、とても他人のめんどうをみるだけのよゆうはなかった。


「Fのやつ、おまえのとこには行かんかったんやな」


 Bは、どこか優越感(ゆうえつかん)のある横目で僕を一瞥(いちべつ)し、やはりどこか得意気に言った。


「自殺したんやで、Fは。自殺。見たわけやないけど、変死(へんし)やてどっかで聞いたしな。生活苦に()えかねて……なんかなあ」

「さあ」


 僕はFの死因(しいん)について、なんの興味もなかった。


 ただ金持ちになっておけばよかったと思った。







 ※この物語はフィクションです。



 読んでいただいて、ありがとうございました。


 そして【評価ひょうか】(もしくは応援おうえん)、【リアクション】をしてくれたかた、ご感想かんそうを書いてくれたかた、ありがとうございました。















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― 新着の感想 ―
予想外の結末にゾクりとしました。 淡々と現実を書き、よけいな感傷描写が無いのも良いですね。 だからこそ最後の一行が印象深く残ります。
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