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プロローグ:夢の呼び声

 僕は、昔から同じ夢を見る。

 夢の中の僕はいつも知らない場所を彷徨(さまよ)っている。周りの風景から察するに、どこかの遺跡(いせき)なのだろうとは思う。

 壁や床は石やレンガ、土などといった僕が見知ったものではなく、つるつるとした不思議な触感のものだ。ゆらゆらと青白く通路を照らす壁に埋め込まれた明かりも、僕が見慣れた蝋燭(ろうそく)松明(たいまつ)によるものではない。

 静寂の中には何によるものなのか、ジジジジという無機質な音が断続的に響いている。その中を僕はコツコツと靴音(くつおと)を立てて歩いていく。

 同じような風景の続く通路を進む途中、いくつかの扉があった。一体どういう仕組みになっているのか、僕が近づくとどれもピピっという音を立ててひとりでに開く。

 長く複雑な通路を抜けて、その遺跡(いせき)最奥(さいおう)の扉をくぐると、そこには大小様々なサイズのガラスのようなものが壁のそこかしこに貼り付けられた部屋があった。

 一番大きなガラスの下には、金属でできた箱のようなものがいくつもあって、古い時代の文字が大量に刻まれている。いずれにせよ、箱にも特に仕掛けがあるわけではないのか、僕が手で触れてみても沈黙を貫いたままだ。

 部屋の中央には(ふた)がガラス張りの(ひつぎ)のようなものが鎮座している。その(ひつぎ)の中には僕と同じくらいの歳の長い黒髪の少女が眠っていた。

 僕が少女のことをよく見ようと(ひつぎ)を覗き込もうとすると、僕の頭の中へ知らない女の子の声が響く。

『私を……私を、見つけて……!』

 祈るような切実なその少女の声を聞くと、なぜか僕はいつも胸を締め付けられるような気分になる。

「君は……」

 夢の中の僕は彼女の言葉に応えるように何かを口にする。

 しかし、いつもそこで僕が何と言ったのかわからないまま、夢は終わる。

 今日も僕は、えもいわれぬ無力感を噛み締めながら目を覚ました。

 夢の名残が朝の気配に上書きされていくのを感じながら、僕の変わらない一日は始まっていく。

 窓の外から聞こえてくる朝の街の明るい喧騒(けんそう)が、今日も僕――トゥルク・ツェイラーの現実はここにあることを教えていた。

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