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食堂にて

 魔法ギルドの隣りにある食堂で昼食をとることになった。フェリンという先ほどの受付嬢も、タイミングが合ったということで同席になった。ギルド職員は割引が効くらしく、なんなら今日の昼食は経費で落とすからと奢ってくれた。


 食堂内には、風の力で鳴る楽器の音が静かに流れていた。風音楽器と呼ばれるそれは、どんな音が鳴るかは完全に風の気まぐれ。ゆるやかに和音が変化し、環境音楽のように店内を満たしている。人が演奏するタイプもあり、音楽家が演奏する日は、それ目当てで来る人で賑わう。自然が生み出す音楽から得られる魔力はけっこう大きいらしい。


「ワケアリさんは、なんとか丸く収まったんですか?」

「ええ、マスターがなんとかしてくれたわ。」

「よかったですね。それにしても、事故で飛ばされるなんて災難でしたね。」

「まぁ……最初は人生終わったかと思いましたけど、アルリアさんのおかげで、今はもしかするといいことだったのかなと思ってます。」


 これは割と本音だ。この世界は面白いし、美しいし、あとアルリアが可愛い。元の世界での自分は失踪したことになって、今ごろ警察に捜索されているのだろうか。会社にも親にも迷惑をかけてしまうな。そう思うと少し気持ちが重くなってしまった。


「ここから極東に帰るとなると、半年以上はかかりますよね?」

「いや、とりあえず帰ることは考えていません。」


 極東に行ったってそこは帰る地ではないわけだし。まぁ見に行ってみたい気持ちはあるけど。


「私の弟子になりたいんだって。」

「え?あ、はい、そうなんです。」

「アルリアさんの弟子ですか、大変そうですけど、いい経験になりますね、きっと。」

「がんばりますので、これからよろしくお願いします。」

「あら、急にかしこまっちゃって。精進あるのみよ。」


 ちょっと冗談っぽく、かしこまってみたら、ちょっと照れながらもノッてくれた。アルリアに弟子入り、悪くない。とはいえ彼女が何をしている人なのか、全貌はいまいち見えていない。


 運ばれてきた料理は、この街の定番らしい。エオルス・パイという野菜とハーブのパイは、数種類のハーブが織りなす爽やかな香りと、野菜の旨味と酸味が食欲をそそる一品。風の神エオルスの好物とされ、これを食べると加護を受けられるという。セットの肉が入ったスープは、噛むと旨味が出てくる少し硬い肉を細かく切って入れてあり、独特の香りのスパイスと合わさって美味しい。料理の美味しさを見るに、この街の文化レベルは相当なものと感じられた。


「ユウタさんは、やはりハグルマに?」

「そうね。彼はルミュフィストだから、オーナーにも気に入ってもらえるでしょうし。」


ルミュフィストはルミオグラフィストの略で、写真家を意味する。歯車とはなんだろう?


「私が住んでる歯車の館っていうアパートのことよ。いくつか条件があるけど、芸術家とか芸術系の学生はとても安く住ませてくれるの。」

「僕、芸術家でも学生でもないですけど大丈夫なんですか?」

「あら、ルミストは立派なアーティストよ?部屋も私が使ってる部屋を分けてあげるから問題ないと思う。」


 それは同居ということになるのでは?大丈夫なんだろうか、色々と。


「一緒に住むということですか?いいんですか?」

「歯車自体が共同生活スペースみたいなものだから大丈夫。」

「一緒に寝るとでも思ったんですかー?」


 フェリンがニヤニヤしながらからかってくる。それを受けてアルリアが鋭い視線を向けた。


「何をふざけているのよ。部屋じゃなくて物置で寝てもらうわよ。」

「それはちょっと体が痛くなりそうですね。」

 

 耳が熱くなるのを感じながらも、なんとか返事をする。いっそ物置でもいいけどと思ったけど、そんな事を言ったらそろそろアルリアが怒りそうだ。


「まぁキッチンは私と共用になるから、弟子として家事はやってもらうからね。」

「はい、喜んで。」

「出身が同じだからでしょうか、お二人はなんだか波長が合いそうですね。」


 フェリンとアルリアも多分仲がいいんだろうな。フェリンにも今後お世話になることになりそうだ。

 風が奏でる音楽と、爽やかで美味しい食事を楽しんだ後、僕たちは歯車の館へと向かうことになった。


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