魔法ギルド
ゼフィラの街の中は程よく賑やかで、そして活気に満ちている。緑豊かな公園が点在し、彫刻や噴水が街の景観を彩っている。ギターのような弦楽器を弾いている人や、街中でスケッチをしている人もいた。常に爽やかな風が吹いていて、風車や風向きを見るための旗も多く見られた。
街の守衛の門では身分証も無いため怪しまれたが、アルリアのお陰で無事通してもらえた。芸術家が多いという特性上、流れ者も多いらしく、それでも魔法ギルドが強力なため治安はものすごく安定しているということだ。
アルリアの任務報告と、僕の身分証を発行してもらうため、真っ先に魔法ギルドへ向かった。ギルドの建物は想像より大きく、堅実で重厚な佇まいが印象的で、どちらかというと役所という雰囲気を醸している。
「お帰りなさい、アルリアさん。そちらの方は?」
「ただいま。ちょっと訳ありなの。応接室って使える?」
「確認しますね。ギルドマスターも呼びますか。」
「ええ、お願い。」
なんと、ギルドマスター様が登場するらしい。通された応接室は、身分の高い人を通すこともあるのか、豪華な作りとなっていた。
待っている間、アルリアは僕の持ち物が気になったみたいだ。
「それ、光の絵を描く道具?」
カメラのことだろう。こちらの東方の国では写真という言葉はなく、どちらかというと光画の概念が近いようだ。
「そう、写真を撮る道具です。カメラって呼んでるんですけど。」
「カメラ……。こっちではルミーって呼ばれてるわね。私の国では光画機。」
「ルミーってちょっと可愛いですね。」
「響きがちょっとかわいいよね。」
「そのルミーって普通に手に入るんですか?」
「ちょっと高いけど売ってるわよ。薬式と魔法式があるけど、魔法式のほうが楽ね。あなたのそれは使えないの?」
薬式はいわゆるフィルムみたいなものだろう。魔法式は、魔力でなんとか記録するのだろうか。魔力の使い勝手の良さがすごい。僕のデジタルカメラは、バッテリーがなくなれば終わりだろうし、そもそもデータを処理するパソコンもプリンターもないのでは、撮るだけでそこから何もできない。
「使えはするけど、使えなさそうです。」
「よくわからないけど、それなら私の魔法式ルミーを貸してあげるわ。」
「ありがとうございます。嬉しいです。」
「ユウタはきっといい光画を描くのでしょうね。」
「僕のが動くうちに、異世界の風景を見せてあげますよ。」
そういうとアルリアは目を輝かせて喜んでくれた。それはもう瞳が流星群のようだった。
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ギルドマスターにはアルリアから事情を説明してくれた。対外的には異世界から来たことはぼかして、東方の国から何らかの魔法事故で飛ばされてきたと言うことで処理することになった。僕の身分は魔法ギルドに旅人として登録してもらい、アルリアの付き人になることが条件になった。
「この世界では光画を魔力に変えて、神へ捧げる儀式がある。ぜひ君の光画をギルドに納めてくれ。もちろん報酬は出る。」
と、ギルドマスターに頼まれた。写真を撮ってお金を稼げるならもしかしてプロということか?まさか異世界でプロカメラマンになるなんて。
「もちろんお納めさせていただきます。どんな写真がいいとかはあるんですか?」
「街の風景でも外の風景でも、人物でもなんでもいい。美しければ美しいほど、神から授けられる魔力も大きくなる。ただ、美しさの基準は人によって異なるから難しいがな。一応、アカデミアの審査員の審査をもとに報酬額は出されるようになってる。」
アカデミアというのは美術大学みたいなものだろうか?
「アカデミアはね、ゼフィラ・アルティス・アカデミアって言って、魔法と芸術の研究教育期間なの。王立で権威ある大学よ。」
「それはもう信用するしか無いですね。もちろん疑う気があるわけでは無いですが。」
そうして、身分と一応の仕事を与えてもらうことができ、当面生活することはできそうだ。魔法ギルド経由で寄付をするとアカデミアの施設の利用や講義の聴講ができるらしく、当面はギルドが特別に利用許可を取ってくれることになった。ここまで至れり尽くせりだと、逆に怖いくらいだ。でも、ありがたく利用させてもらうしかない。