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街へ向かう

 朝日が瞼に焼きつくような感覚で目を覚ます。目を覚ましても自宅のベッドではなかった。それでも、不思議と「ここでよかった」と思えた。


 隣には、眠りにつく前と同じようにアルリアがいた。刀の鞘を抱え、僕と同じ木にもたれかかって眠っている。アルリアの髪は月光のような、すこし青の波長を持った白。横顔はすっきりと整っていて、あまりの美しさに見とれてしまう。


「んっ、んん……」

「おはようございます。アルリアさん。」

「おはよう。起きてたのね。」


 寝顔をじっくり見ていたことはギリギリバレていないように見えた。彼女の瞳は満月の夜空のようなブルー。星の輝きのようにキラキラしている。瞳まで美しいなんて、どうなってるんだ。


 寝起きを見られたくないのか、その後なかなかこちらを見てくれないアルリアだったが、僕のお腹の鳴る音で手打ちとしてくれたようだ。空腹をごまかすくらいにしかならないけど、と乾パンのような携行食料をくれた。どんなもんかとにおいをかいだりしていると、大丈夫よと言わんばかりにアルリアが一口かじった。


 一瞬の朝食を済ませて、街に向かって歩き始める。この場所の空気は日本よりは少し乾いていて、でも爽やかな感じがする。まるで風が歌っているようで心地よい。


「今いる場所は、ヒイズルクニからどれくらい離れているんですか?」

「とても遠いわよ。向こうは極東と呼ばれていて、ここは西側の王国エリソル。今向かっているのはゼフィラという街よ。」

「ゼフィラ……。どんなところですか?」

「よく風の街って言われるわね。あと、芸術と魔法の街とも。」

「芸術と魔法……。いいですね……。」

「私はすごく好きな場所。表現をする人が集まっているから、魔力に満ちていて、その魔力を活かして魔法の研究も進んでる。」

「それは、ワクワクします。」

「ユウタもきっと気に入るわ。」


 そうして楽しみな気持ちになりつつ歩いていると、山間の道を抜けて、街の姿が見えてきた。風の街というだけあって、大きな風車も見える。


「あなた、こちらの言葉はわからないのよね。」

「東の言葉になる前の言葉はさっぱりわからなかったですね。」

「いずれは自分で使えるようになってほしいのだけど、翻訳魔法をかけてあげるね。」

「そんな便利な魔法があるんですか。」

「受け取った言葉を意味そのものの単位の魔力に分解して、それを再解釈するの。」

「わかるようなわからないような。」

「言葉にも、その言葉の意味にも魂みたいなものがあって、それの取り扱い方みたいなものかな。」


 言霊、とはちょっと違うか。


「ノメンオルアルリアヅィス。」

「え?」


 急に呪文みたいな言葉を聞かされ、魔法を使い始めたのかと思ったけど、ちょっと違うみたいだ。 


「今の言葉、わからないよね。じゃあ今から魔法をかけるよ。」


 そう言って彼女は、なにか呪文のような言葉を紡ぎ始めた。呪文もあるんだな。


「これでできたはず。もう一回、聞いてね。ノメンオルアルリアヅィス。」

……(私の名前はアルリアです。)


 なんというか。一拍遅れて意味が脳内にやってくる感じ。そういえば途中アルリアって言っているな。魔法に頼りながらも頑張れば言語習得もできるかもしれない。26歳から全く知らない言語……。いや、全く知らない世界に来てるんだから歳とか言っている場合ではないか。


「どう?わかった?」

「はい、わかりました。」

「この魔法、自分の話す言葉を相手に伝えることもできるから街の人とも会話できるようになるわ。」

「助かります。ありがとうございます。」

「まぁ、私が近くにいないとだめなんだけど。」

「え、そうなんですか。」

「あなたは今日から私の付き人になるしかないね。」

「何でもお手伝いできることはさせていただきます。」

「ふふ、期待してる。」


 そう言って微笑むアルリアは、空の青を纏って綺麗だった。今後も彼女が行動をともにしてくれるならありがたい。というか近くにいるだけで元気をもらえるというか、心が軽くなるから嬉しい。


 ゼフィラまではもう少しみたいだ。


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