魔法と魔力
夜闇の中にランタンの灯り。ひとりだったときの不安感は和らぎ、今は目の前の美少女と二人きりの世界にいるような気さえする。
アルリアの横顔は、月に照らされた夜桜のようだった。
「不安?」
「さっきまでよりはだいぶマシです。」
「異世界から来た人……過去にいくつか例があったと聞いたことはあるけれど、今では滅多にいないわ。」
「でも、本当にそうとしか言いようが無いんです。カメラを覗いていて、気がついたら違う場所に立っていて……。」
「疑っているわけではないわ。あれだけ大きな歪みは転移魔法では考えられない。なぜ言葉が通じるのかはわからないけど、ヒイヅルクニにはピンときていないようだし。」
「魔法があるんですか?」
「あるわよ。普通に。東の方では神術とか霊術、流派によっては妖術とか言ったりもするわね。魔力への解釈の仕方は色々あるけれど、本質は同じものと考えられているわ。どれも聞いたことがない?」
「そんな不思議な力をそもそも知らないです。」
「やはり、違う世界から来ているのは間違いなさそうね。魔法は基本的には誰でも素質があるものだから、あなたにも使えるかもしれないわよ?」
「使えるものならぜひ使ってみたいですね。」
この世界には、魔力や霊力と呼ばれる力が存在する。それはすべての生き物や物体に宿るものらしい。音楽を聴いたり、景色を眺めたりすると、その力はより多く得られる。そして、何かを想像したり創り出したりする時、あるいは魔法という形で世界に干渉するとき、その力を消費するのだとアルリアは教えてくれた。
アルリアは魔力がかなり多い方らしく、魔法ギルドに所属をしていて、王国騎士団協力員として守護警備の仕事をしている。魔力の流れを読むことも得意ゆえ、今回の偵察をお願いされたという話だった。
そうやってアルリアにいろいろな話をしてもらっているうちに、安心したのか眠たくなってきてしまった。彼女の声はとても透き通った声で、心地よい高さで、たまに現れる音の芯に惹かれる。
「眠いの?」
「はい、すみません。」
「どうして謝るのよ。眠っていいわよ。大変な目にあったんだもの、疲れてるでしょ。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、少しだけ休ませてもらいます。」
いろいろ話してもらっておいて寝るのもどうかなと少し思ったけど、それどころではないくらいの眠気に襲われている。目を閉じれば、疲労感が心地よく、すぐに意識は遠のいていった。