アルリアとの出会い
「ーーーー!ーーーーーーー!!」
大きく張り上げた女性の高い声が耳に飛び込み、意識が浮上した。
「ーーーー!!!ーーーーー!!」
再び鋭く語りかけられ、声のする方へと視線を送る。
ぼやけた視界には、小さなランタンと、それを掲げる少女の白い指先。琥珀色の光が彼女の輪郭を浮かび上がらせるたび、淡い銀髪が夜気を払い、宝石のような瞳がこちらを射抜く。
「ーーー!!!!!ーーーーーーーー!!!!?」
全く聞き馴染みのない言語。けれどその切迫は、理解できずとも伝わる。少女の手は、腰に携えた刀のようなものに添えられている。このままでは本当に人生が終わってしまうと感じ、背中を冷たい汗がつたう。
「待って、待ってください!Wait Wait!」
とっさの日本語と英語が口をついて出る。
すると少女は一瞬まばたきし、訛った調子で問い返した。
「マっtェ……?くdアさぃ……?」
日本語だ。妙に不自然な発音だが、確かに通じている。
同じ世界ではあるのだろうか。いや、だとしたら刀を向けられようとしているのは異常か。
「日本語がわかるんですか?」
「ニホンゴ?ニホンゴが何なのかはわからないけど、私はヒイヅルクニの出身だから、東の島国の言葉なら話せる。」
ヒイズルクニ……。日出ずる国ということだろうか。この世界でもどうやら同じ言語を持つ東の島国があるらしい。
「怒鳴りつけるような真似をしてごめんなさい。魔物かと思ったの。ここ一帯で魔力の歪みが観測されたから、偵察に来ていたのよ。」
「魔物?僕が?」
「ええ。人に化けるような知能を持った魔物なら厄介だから。」
魔力、魔物。ここまでいろんなことがあったからか、不思議とスッと飲み込める。今立っているこの場所は、自分が知っている世界とは理が違うみたいだ。
「とはいえ、魔力の歪みがあった場所にいたあなたには、事情を話して貰う必要がある。」
「はい。」
「あなたは旅人?」
「いえ、旅人というかなんというか、たぶん違う世界から飛ばされてきた、的な。」
「……。訳ありのようね。とりあえず、朝を待って一緒にギルドにいきましょう。」
先ほどまでの緊張感はもう和らぎ、彼女は優しい表情で語りかけてきた。
「私はアルリア。アルリア・ルスティリア。あなたは?」
「白崎雄太といいます。」
「シラサキ・ユウタね。あなたと私は少し縁があるかもしれないね。」
そう言ってアルリアは微笑む。その声は澄んだ響きを持ち、緊張しきった僕の心を柔らかく照らすようだった。
「縁、ですか?」
それ以上の説明はなく、彼女はただ夜風にその星空のような髪を揺らすのみだった。