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報酬と依頼

 翌日、アルリアとともにギルドへやってきた。受付へ顔を出すと、ギルドマスターから話があるということで、応接室へ通された。三日前に訪れたばかりの応接室、やはり背筋が伸びる。。


「緊張してる?大丈夫、たぶんいいお話よ。」

「心配とかはしてないんですけどね。何となくこの部屋の重厚感に押されていると言うか。」

「この部屋、普通は来客用だもんね。会議室とかのほうが気は楽かも。」


 そう言ってアルリアが微笑んでくれるおかげで、緊張していたのはどこかへ行ってしまった。


「おはよう、待たせたねぇ。」と、カイリオンが入ってきた。


「おはようございます。先ほど着いたところです。」

「早速本題なんだが、昨日軽く触れた通り、ユウタくんの納めてくれたルミオグラフに対して与えられた魔力は、想定よりもはるかに大きかった。」

「はい。」

「これまでの他のルミオグラフと比べても、その評価は5倍以上。君のものは、ただの記録の域を超えて表現として認められている。」


 これまで聞いたことを含めても、この世界では写真はあくまでも記録のためのメディアと捉えられ、写真表現という概念が新しいものとして見られているのだろう。


「今回、王国からも報奨金が出ていて、ギルドからの報酬も合わせて750ソルが支払われるから、後で受付でもらっておいてくれ。アルリア、君にも報奨金は上乗せされているぞ。」

「え、私にも。いいの……?」

「なんたって、君が写ったルミオグラフが半数ほどを占めているからな。君にも出るのがスジだ。」

「ありがたく受け取らせてもらうわ。」


 750ソル。おそらく日本円にして75000円ほどの価値があるだろう。正直、100ソルもらえたらめちゃくちゃ嬉しいなと思っていたから、驚きで何も言えなかった。最初の日、写真を撮ってお金をもらえるなんてプロになったみたいだと思ったけど、この額は本当にプロフェッショナルな感じがする。


「よかったね、雄太。王国から報奨金が出るなんて結構なことだよ。」

「はい。あの、ありがとうございます。すみません、なんかびっくりしちゃって言葉が出てきませんでした。」

「今回の報奨金は、今後も頑張ってくれという意味が強いと思ってくれ。毎度は出ないと思うが、ギルドからの報酬はできるだけ多く出せるようにしたいと思っている。」

「ありがとうございます。身に余る光栄です。」

「君の今後の活躍を楽しみにしているぞ、ユウタ・シラサキ君。」


 プレッシャーはもちろん感じるけれど、突然やってきた見知らぬ土地でこれだけ認められ、仕事の道筋が見えているのはありがたいし頑張りたい。

 そのあとカイリオンからは、臨時の任務が僕たち二人に発行されているから、それも受付で聞いておいてくれと言われ、彼は部屋を後にした。



 言われたとおりに受付へ行くと、今日もまたフェリンが対応してくれた。


「はい、まずはユウタさんの報酬からですね。こちら750ソル、お確かめのうえ、こちらの受領書にサインをお願いします。」


 渡された紙袋の中身を確認すると、100ソル紙幣7枚と10ソル硬貨が5枚。紙幣が存在するのは少し予想外だなと思いながら、受領書にどうやってサインしようかと迷う。


「あの、アルリアさん。」

「どうしたの?」

「この世界の文字、書けないんでした。」


 翻訳魔法が効いている間は、書いてある文字の意味を知ることはできる。でも、それは読んだり書いたりするとなると話が変わってくる。


「あ、でも多分、手で書いたという事実があればいいから、自分で書ける文字で書いたらいいと思うわ。フェリン、それでいい?」

「えっと、故郷の文字でいいかってことですよね?それで大丈夫です。」

「わかりました。」


 本当にそれで大丈夫か、この世界に存在しない文字を書いて問題にはならないのだろうかとも思ったけど、この二人が大丈夫というならとりあえずいいのだろう。少し崩し気味の楷書でサインした。


「これで、大丈夫ですか?」

「はい。たしかに直筆でいただきましたので大丈夫です。いやぁ、全然読めませんね。」


 そう言ってフェリンは笑いながら受け取ってくれた。アルリアは僕の書いたサインを神妙な顔で見ている。


「アルリアさんにも報奨金が出ていますので、月末のお支払いに反映しておきますね。」

「ええ、ありがとう。」

「あと、お二人に任務が出ていますので、こちらお受け取りください。」


 渡されたのは、少し分厚い依頼書。タイトルは「ゼフィラ主水源 記憶収集・調査・記録」となっている。


「普段はほかのパーティーにお願いすることが多いんですけど、今回はマスターの意向でお二人にお願いすることになりました。アルリアさん、これ行ったことありましたっけ?」

「2回くらいヘルプでついて行ったことはあるわ。メインで行くのは初めてだけど。」

「よかったです。なかったとしてもアルリアさんなら問題ないですけどね。距離がありますので、泊まりになるかと思います。前金が70ソルずつ出てますので、ご準備にお役立てください。」

「わかったわ。期限は?」

「10日になってます。向こう数日は天候が安定するらしいので、早めに向かわれるといいかと思います。」

「ありがとう。そしたら、明日には出発するわね。」

「承知いたしました。お気をつけて行ってきてください。」


-

 依頼を受け取り、内容を確認するために待合スペースのテーブルを陣取る。かなり使い込まれているテーブルは、硬めの木材でできていて手触りがいい。テーブルにはギルドの規約や、魔法使いへ向けた最新情報が記された冊子が置いてある。


「今回の任務、ちょっと大変よ。一泊か二泊、野営することになるわ。」

「足を引っ張らないように頑張ります。」

「そんなに気張らなくても大丈夫よ。内容としては、山の方から街に引いてある水路があるんだけど、それを辿っていって、いくつかある合流点の様子を見るのと、ルミーでの記録、あと記憶の収集。」


 水路の様子を見るというと、インフラの点検的な側面もあるのだろうか。記憶の収集があるにしても、魔法ギルドの仕事というよりは水路の管理をしている団体の仕事のような気もする。


「最終地点になるメインの集水井には、ゼフィラの水源を司る神がいるの。その神は対話に積極的なタイプだから、多分、話をすることになるわ。」

「神様と対話ですか……。緊張しますね。」

「基本は私が話すから大丈夫よ。何か聞いてみたいこととかあったら教えてね。」

「分かりました。考えておきます。」

「今日はこのあと、街で買い物をしましょう。あなたの普段使うものと、今回の任務の買い出しにね。」

「はい!服を買わないとなと思ってました。」

「じゃあ、とりあえずこれ読みましょう。」


 そう言うとアルリアは、椅子をこちらに近づけてきて、横に座り、分厚い依頼書を一枚めくる。午前の陽光に照らされた彼女の髪が、ふわりと揺れて、銀白の光が視界を覆う。それに気づいてか気づかずか、彼女が髪を耳にかけると、ほのかに甘い香りがした。耳にかけた髪が、するりと指の間を滑り落ちたけれど、彼女の手元の書類はよく見えるようになった。

 依頼の概要はさっきアルリアから聞いた通りで、道中で風景を随時撮影してほしいということが追記されている。また、地図と水路網図が添付されていて、水路網図には観測ポイントが記されている。


「こういうのって、設備専門の人が調査するのではなくて、魔法ギルドがやるんですね。」

「正しくは“魔法ギルドも”やるって感じね。水路の水の流れの記憶も大事なものだし、さっき言った神とのコミュニケーションも私たちの大事な役目。王国の土木の人たちも定期的に設備の点検はしているから、私たちのする調査は予備的なものになるわ。」

「ダブルチェックってことですか。水は生命線ですもんね。水源の神様とはどんなことを話すんですか?」

「水脈に異変がないか聞いたり、山全体のこととかを教えてもらう感じね。あとは、街のことをポツポツと尋ねられたりもするの。」

「街のこと尋ねられるんですか。」

「そう。彼は水脈のすべてを知っている。それは街へ流れ込んで、水道の末端まですべて。でも、その一歩先のことは全くわからない。街の中まで自分の感覚が通っているのに、その少し先がわからないものだから、知りたくなる。」

「なんというか、もどかしそうです。」

「そう、だからいろんなことを聞いてくるから、答えてあげる。そのためにも依頼書には街の近況なんかも添付されているわ。」


 彼女のその言葉に、つい水路網図をじっと見つめてしまう。紙の上に描かれた線は、まるで血管のようだと思う。街の生命を支えてくれている心臓が、意思を持つなら、その指先にあるものに触れたくなる。その気持ちに答えるのが僕達の役目なんだろう。


「さ、そろそろ行こっか。」とアルリアが立ち上がるので、依頼書の冊子を閉じてアルリアに続く。


「買い物ですね。」

「うん。あなたの服、選んであげるね。」

「え、選んでくれるんですか。」


 服にそんなにこだわりがあるわけではないから、選んでもらえるのは助かるけど、なんだかくすぐったい感じがする。


「普段着る服と、街の外に出る時の服、あとカバンと靴もいるわね。」

「楽しみにしてます。」


 彼女が楽しげに笑うから、思わず肩の力が抜ける。

 そうして僕たちはギルドを後にし、街へ繰り出した。



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