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97、閑話 久遠と政治ニュース

「はい皆さんこんにちは、お昼のニュース『お昼だより』の時間です!今日のコメンテーターはなんと、今話題沸騰の天才子役天原久遠ちゃんに来ていただきましたー!」


「天原久遠でーす、宜しくお願いします!」


「他はいつもの面々でーす」


「いや適当!」


常連コメンテーターの芸人さんがツッコみ笑いが起きる。


「あはは、緊張してるけどがんばります」


「しっかしこんな幼女がニュースて、大丈夫なんか?」


「大丈夫ですよ、普段からニュースよく見てますから」


「へー感心やね、アメちゃんあげるわ」


「わーいありがとうございまーす」


今日の私のお仕事はお昼のニュース番組のゲスト出演だ。

こんな幼女をコメンテーターに招くなんて何考えてんだと思うが、全てはあの「バトロン」効果である。

あの番組に出て以来、ニュース系番組から度々ゲスト出演してほしいとオファーが来るようになったのだ。

いわく面白くなりそうだからと。


しかし私は全て断っていた。


だって、私がニュース番組に出ると大変なことになりそうだから。


最近特に思うのが『扇動』の才能のヤバさだ。

私には人をその気にさせやすい才能があるらしく、煽ったり励ましたりするとみんな凄い乗り気になってくれるのだ。


他にも演技に説得力が増したり、宣伝に効果的だったりとなにかと役者向けの才能で便利ではあるのだが、問題は私がネガティブ発言をした時だ。


もし私がSNS等で「このお菓子、不味くない?」とか「このお店でトラブルがあった」とか発信したら最後、ファンは暴徒、いわゆるファンネルと化しそのメーカーや店舗が廃業するまで叩かれかねない。


もちろん影響力のある芸能人ならその辺を気にするのは当然ではあるのだが、私の場合はもっと気を付けなければいけない。


もし私が道を間違えたら、私は最悪の扇動者として世界に混沌をもたらす存在になるかも知れないのだから。


とは言え自重し縮こまって生きるのも私らしくない。

使いようによってはこの才能は人を幸せにし、この世界をよりよくすることも可能なのだ。

なので私は極力世の為人の為を心がけて全力で生きていくと決めている。


しかしニュースはなぁ……。

試しにオファーに応えて今日は出てみたわけだけど、どうなることやら……。


スタジオでは殺人事件や物価状況、クリスマスの話題など様々な情報が紹介されている。


「久遠ちゃん大丈夫か?退屈やない?」


「いえ全然、面白いですよ。あ、パンダかわいい~」


芸人さんが何かと気を使い話題を振ってくるので、私は無難なコメントを返す。

ちなみにスポンサーがツクヨミなので多少の無茶は許される。


「続いては裏金問題です」


来た。


政治なー。


私はとりわけ政治に興味がある訳ではないが、興味が無いなりに思うことがある。

いつまでくだらない足の引っ張りあいしてるんだ、さっさと仕事しろ、と。


そんなこと私が言ったら政府が大混乱になりそうだから言わないけど、そのことで世の中が良くなるなら一言言ってもいいかもしれないと葛藤を抱えていた。

しかしバランスが大事だ。あまり激しく批判すると国民が暴徒化し、国家転覆し私が王として担ぎ上げられるかもしれない。


まてよ?それもいいかも……。


いやいや何を言ってるのだ。そんなものに興味はない。

私は役者と商売でトップをとるのだ。


そんなことを考えてる最中でも、映像の中ではくだらない話をグダグダと続けていた。

あ~、一言いたい、庶民が思ってることを代表して言ってやりたい。

でも言ったら暴動が起こるかもしれないし自重自重……。


「ったく早く解決して欲しいもんやなぁ、久遠ちゃんもそう思うやろ?」


「ええ、ほんとくだらないですね」


あ、言っちゃった。


「え?」


「裏金とかどーーーーでもいいです。ちょっとへそくり貯めてただけじゃないですか、みんなやってますよ、それをいつまでもグチグチネチネチと。犯罪じゃないんですよね?だから人間性とか善性を武器に攻撃してる。犯罪なら審議せずに裏でさっさと逮捕したり除名したらいいんですよ。国会は政治を議論する場であって、人間性とか道徳とかをあげつらって糾弾する場じゃないんですよ、学級会じゃないんですから。むしろこんなことで議会を止めることの方が罪が重い、その損害の方が裏金より金かかってるんじゃないですか?」


「く、久遠ちゃんどうしたの?」


自重さんが羽を生やしてパタパタと飛んでく音がした、まってー。


「議員の失言とか不倫とか学歴詐称とかも心底どーでもいいです。芸能人だってすっぱ抜かれても番組止めたりしませんよね?それと同じです。貴重な議論の場でどうでもいい個人攻撃して、それで私たちの給料増えるんですか?批判するなら政策批判をしてください、もちろん理にかなった内容で。こんなくだらないことばかりやってるから政権とれないんですよ」


我が国は自由国民党が実質一党独裁状態で、様々な野党がその牙城を崩そうとしのぎを削っている。

本来であれば適度に政権が交代した方が健全ではあるが、どの党も変な方向に力を入れ一般市民とソリが合わず、結局自国党が一番マシということで交代が起きないでいる。


その最たるものがこの足の引っ張り合いだ。


野党議員が与党議員を引きずり下ろすべく、少しでも弱みを見せるとヒステリックに延々責め立てる。


「1番になるために上を落とすっていうのがそもそも間違いなんですよ、そんなことしたって2番目が優れてるとは誰も思わない。1番になるには真に国民が望む仕事を真面目にやればいいんですよ」


議員のスキャンダルは一部の人が喜ぶかもしれないが、所得が増えたり物価が下がったりした方が万人が喜ぶはずだ。


「まあ確かになぁ、でも今までこれでやってきたからねぇ」


「アホですね。それで政権取れてないんだから間違いだと気付くべきでしょう、頭いいんだから。それにその方法で1番になっても、2番に落ちた元1番が仕返しにもっと激しくやり返してくるに決まってます、それくらい幼稚園児でも分かることです」


過去に攻撃しまくって一度悲願の政権交代を果たしたが、苛烈な仕返しにあい速攻で取り返されたことがあった。

あれは酷かったとタケルの記憶が言っている。


「あれは当時の政策が悪かったような……?てかよく知ってるね」


他の政治寄りのコメンテーターはドン引きしているが、庶民寄りの芸人さんは話に付き合ってくれている。


「どんな政策であれ基本は日本を良くするために考えられたものです。それを歪めるのがネガティブキャンペーンというもの。どんな優れたものでもケチが付いたら人は批判の目を向けますからね。もし誰にも攻撃されず、ポジティブな意見ばかりならその政策は受け入れられたでしょう」


「ふーむ」


「ようは愛され力が足りなかったんですよ」


「ふむ?」


「見当違いの方向に吠えまくる野犬が愛されるわけがないんですよ。国民が求めているのはそう、番犬。大きい体で包容力があり普段は理知的で穏やか、でも敵が来たときは勇敢に戦う、そんな頼りになる相棒こそが目指すべき姿なのではないでしょうか。モフモフで癒されますし」


「急に幼女に戻るやん」


ふう、言いたいこと言ったら大分落ち着いてきたな、いやまだ言いたいこと沢山あるけど流石にな、自重さん戻ってきてー、パタパタ。


スタジオの様子は、感心している人や目をつむって考えている人、楽しそうな人愕然としてる人様々だ。


「えーっと、これが今の4歳児が政治に対して思ってることでしたー。政治家さん、しっかり仕事してくださいね!」


「そんな4歳おるかい!」


芸人さんがツッコむ。


「ふう、台本通りにできました?」


「この幼女、これ全部ヤラセでしたで通そうとしとる……⁉」


ヨシ!これで今回の話は私と芸人が台本通りに進めたコントだと思うに違いない。


「えーっと、CMの後はお天気でーす……」


ちょっと言いすぎたかもしれないけど、暴動とか起きないよね?






後日。

国会議事堂は数十万規模の民衆に包囲され、連日超大規模なデモ活動が行われた。

リアルでもネットでも私の意見に賛同する者は増え続け、今の政争の体勢や煽るニュースは大炎上。

こんな状態では今までのやり方では支持を得られるはずもなく、特に攻撃的だった野党は解体に追い込まれるのだった。


その後は非常に真っ当な議論のみになり、たまに不正議員がいつの間にか消えていたりとくだらないニュースは大幅に減った。

いずれは真っ当な党が立ち上がり、健全な政権交代が起きるだろう。


そんな変化をテレビで見ながら私は思う。


「やっぱニュースに出るのはよくないわ」


世の中はちょっと良くなったけど、影響が大きすぎてやっぱり自重しようと決めたのだった。

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