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89、ライオンクィーン 4

『ティモシ、フンバ、起きて?』


『うう~んなんでぇ……ってライオン!』


『うわぁ!』


『落ち着いて私よ、ララ』


『なんでぇあんたか』


『ララ様どうかしたの?』


『シンが何処にもいないの、貴方たち知らない?』


『あんたと一緒じゃなかったのか?』


『僕らも知らないよ』


『いったいどこに……』


『ララ様』


困惑する3匹の前にマントヒヒのシャーマンが現れます。


『ラフィカ!』


『女王はお帰りになった』


『なんてこと!信じられない……』


『おいおいどういうこってぇ』


『お帰りになったって、何処に?』


『シンはカースと戦いにいったの』


『カース?』


『叔父さんのカースよ、シンはカースを倒して、女王になるために国に帰ったのよ!』


『『……!』』


――――――――――


『……帰ってきた』


シンは一人、ライオンの王国に戻ってきました。


土地は荒れ果て、ヒューヒューと虚しい風が吹き抜けます。


『シン!』


『ララ!』


『戻ってきてくれたのね?』


『ああ、過去はまだ痛い。でもここは私の王国だ、私が戦わずして誰がやるんだ』


『俺たちも仲間にいれてくれぃ』


『なんなりとお申し付けください。女王さま』


『ティモシ、フンバ……ありがとう、着いてきて!』


こうしてシンと仲間たちは、カースと決着を付けるために王国へ足を踏み入れます。

しかし王国の中は飢えたハイエナがうろつき、かつての姿は見る影もありませんでした。


『ひぃっ、俺っちはハイエナが大嫌いなんでぃ。こんな土地の女王になるってのかい?』


『でも私の故郷だ』


『故郷だってさ』


『へっ、なら仕方ねぇな』


(素敵な仲間たちだわ)


「いよいよクライマックスですな」


「ラストはやっぱりヒーローがパンチで悪を倒すに限りマース」


『ティモシ、フンバ、エサになってハイエナたちをひきつけてほしい』


『おおぃ何言ってんでぃ!』


『ええ~』


(仲間を餌に⁉)


『へっ、しゃあねえなぁ……おおーいここに食べごろの猫とイノシシがいるぜ~♪』


『美味しいよ~♪』


(やるんだ!すごい友情です!)


2匹は逃げ出し、見事ハイエナを釣りだします。


『ララは囚われているライオンたちを開放して。私はカースと決着をつける』


『ええ、気を付けて、シン』



そして舞台は決戦の地、王の丘へと移ります。


『サラ!』


シンの母親で元王妃ですね。


『なんなのカース』


『狩りの当番はどうなっている、だれもいないではないか』


『もう食べるものもないの、獲物も寄り付かないわ』


『きちんと探していないだけだ』


『カース、もうダメ。残された道はただ一つ、この王国を出ていくことだけよ』


『ここは動かん』


『なら私達は死ぬだけだわ』


『それでもかまわん』


『っそんな!』


『俺は王様だ!好きなようにする!』


『ああ、カース。あなたにムファーサ王の英知の半分でもあれば』


『俺はムファーサの10倍も素晴らしい王だ!』


カースが元王妃に手を挙げようとしたその時。


『やめろ!』


『お前は……まさかシン⁉』


『シン⁉生きていたの?』


『お久しぶりです母さん、でも詳しくは後で』


シンが母親を助けだし、優しく逃がします。


『おおシンよ、生きていたのだな、また会えて嬉しいよ』


『カース、よくも王国をめちゃくちゃにしてくれたな、お前に王の資格はない、さっさと退け』


『まあ待てシン、もちろんそうしても良い。だがハイエナたちはどうする、彼らは俺を王だと思っている』


『私たちは誰も貴方を王とは認めていないわ。シンこそが正統な女王よ』


ララが囚われていた大勢のライオンを連れて現れました。


『やあララ帰ってきたのか、さあこっちへおいで』


カースはこの期に及んでもヘラヘラと余裕の態度を崩しません。


『決めるのはお前だカース。王位を退くか、決闘か』


『暴力は嫌いだなぁ、身内の死の責任を負うのは嫌なもんだ、なぁシン、そうは思わんかね?』


『そんなことは、私の中ではとっくに済んでしまったことなんだカース』


『フン、家臣たちはどうだ?真実を知っているのか?』


『それは……』


『何の話?』


ララとライオンたちがざわめきます。


『ムファーサを殺したのはシン、コイツだ!』


『そんな!ほんとなの?』


『……あれは事故だ』


『ムファーサの死はお前の責任だ!お前は罪人だ!この王殺しめ!』


『ち、違う!』


カースは動揺するシンを崖の縁まで追いつめます。


『ククク、前にもこんなことがあったなぁ、いつだったか……ああそうだ』


『ぐあ!』


カースがシンを倒し足蹴にします。


『シン、死ぬ前に俺の秘密を教えてやろう』


『くっ……』


『ムファーサを殺したのは、この俺だ!……っ』


その瞬間シンはカースの腕に噛みつき体勢を入れ替え、逆にカースを崖際に追いつめます。


『ヒッ、ま、待て!』


『本当のことを言え、皆の前で』


『ク、ククク……ああそうだ、王を殺したのは……この、俺だーーっ!!!』


その時カースから黒い霧が吹き出て、舞台を染めます。


太鼓が鳴り響き、不吉な低音の音楽が流れ、照明が激しく点滅します。


そして霧が晴れた時、そこにいたのか禍々しい姿をしたカースでした。


『カース!』


拳を光らせたシンがカースに殴りかかりますが、片手で止められてしまいます。


『ククク、王の力か。だがその力を持っているのはお前だけではないぞ!』


そう言うカースの手は、黒く光っていました。


(そんな!カースにも王の力が⁉)


「あれはどうやってるんだろうね?」


「盛り上がってキマシタ!」


『なんだと!クッ……!』


『そらそらどうした!その程度で王を名乗るつもりか!』


あんなに弱そうだったカースがシンを圧倒しています。

今まで実力を隠していたのでしょうか。


『俺こそが真の王だ!いずれはハイエナ共も駆逐し、民を従え他国に侵略し、覇王となるのだ!』


『う、うう……』


絶体絶命かと思われたその時。


『『シン!』』


『ティモシ、フンバ……』


ハイエナを振り切った友が駆け付けてきました。


『シン!大丈夫⁉』


『ララ!』


ララも加勢します。


『シン様!我らが女王よ!』


宰相のサズー、シャーマンのラフィカ、王国の民たちがシンを応援しています。


『みんな……私は負けられない、この国の女王は、私だ!』


その瞬間、シンの全身が王の力をまとい黄金に輝きました。


金色のオーラに包まれたその姿はまさしく百獣の王ライオンです。


(霊力って色変えれるんですね)


「ええ……?」


「Foooo!漫画みたいデース!流石漫画大国ニッポンデス!」


『皆が私を女王と認めてくれている。カース、王を退け』


『く、くそ、何故お前ばかり愛されるのだ!俺は、俺だって……!うおぉぉ!』


カースは黒い王の力で攻撃をしますが、シンの黄金の輝きの前では無力でした。


『クッ、何故だ……っ』


先ほどと同じく崖の上で倒れ伏すカース。

シンはトドメを刺そうと拳を振り上げます。


『ま、待て、俺の負けだ、降参する。なんでもするから許してくれ』


情けなく命乞いするカース。


『……ここから立ち去れ、ここから出ていき二度と戻ってくるな』


それは以前カースがシンに放った言葉でした。


『ああ、わかった、わかったよ。ここから出ていく……』


カースはゆっくり立ち上がり、のそのそと立ち去ります。

シンはそんなカースに目を向けず、崖の向こうを眺めたまま。


『仰せの通りに……へ・い・か!』


突如カースが振り返り、背中を向けているシンに襲い掛かります。


『⁉』


しかし切り裂いたと思っていたシンは、霧のように消えてしまいました。


『残像だ』


一瞬のうちにカースの後ろに移動するシン。


『や、やだなぁ陛下、冗談ですって冗談』


『残念だよカース』


『へ、へい、ぐああぁぁぁーーー!!!』


拳が激しく輝き、シンが爪を振り降ろすと巨大な光の斬撃がカースを切り裂き、崖の上から吹き飛ばします。


「ワッツハプン⁉」


「派手だねぇ」


「い、今消えませんデシタ⁉っていうかあれは空蝉の術では⁉それにあの光は⁉」


(今のは月詠忍術の技の一つ、「残月」ですね。わたくしの護衛も鬼ごっこの時使ってきてよく騙されます。あれイラっとするんですよねぇ)


「ク、クレイジー……やはりニッポンには忍者がまだいるんデスネ……」


『ぐ……く、くそう、まだ、まだだ……』


崖の上から落とされたカースでしたが、彼はまだ生きていました。

優しいシンは、仇と言えども叔父は殺せなかったようです。


『やあカース、無様だねぇ』


カースの部下のハイエナたちがやってきます。


『お、俺を助けろ!友達だろ⁉』


『友達?ハッ!お前はアタシらを利用するだけで、友達だなんて思ったこと一度もないだろう』


『そうだそうだ、むしろ敵だと言っていたな』


『た、頼む、餌もちゃんと用意するから……』


『餌だぁ?餌なら目の前にあるじゃないか、なあみんな?』


『ああ、美味しそうなライオンだ』


『やめろ、やめ……ぎゃぁああああ!!』


暗転。


誰よりも愛を求めたカース。

真の友情を育んだシンとは違い、卑怯で傲慢なカースは結局何一つ手に入らず、孤独な最後を迎えるのでした。


(わたくしもカースのようにならないよう気を付けましょう)


「なかなか教訓のある話だね」


「子供たちにはピッタリデース」


ドンッ


『時は満ちた!』


ラフィカが杖を大地に突き、オープニングと同様声を上げます。


シンは王の丘の上に立ち、ラフィカから王冠を授かり遠吠えを放つと沢山の動物たちが集まり、歌い舞い踊ります。


戴冠式です。


象にキリン、シマウマにヌー、ウサギや狼。

もちろんその中には、親友のティモシとフンバもいて楽しそうに踊っています。


ララは女王の近くにいて、これからも一番の臣下としてシンを支えてくれるのでしょう。


40人の園児全員による壮大なエンディングミュージカルは、広大なサバンナを照らす黄金の太陽に照らされ、幸せな王国の未来を象徴していました。


こうして幕は降ろされ、ライオンの女王の物語は終わりを迎えました。


「ブラーーボーーー!!!!」


バチバチバチバチ!!!


大統領を筆頭に客席の全員が立ち上がり、会場は割れんばかりの歓声と拍手拍手拍手。

こんな拍手は今まで聞いたことがありません。


(でもほんと素晴らしかったです……!)


もちろんわたくしも立ち上がって、感涙しながら全力で拍手を送ります。


しばらくすると再び幕が上がり、久遠さんを中心にララ、ティモシ、ブンバ、大人たち6人が手をつなぎ並び、その後ろにはズラッと園児達36人が並びます。


カーテンコールです。


久遠さんたちが礼をすると、再び、さっき以上の拍手が響きます。

「くおんちゃーん」と叫ぶ声もチラホラと聴こえます。

久遠さんたちも手を振り何度もお辞儀をし、アンコールに応えていました。


「いやー素晴らしかったですな」


「サイコーでした!ムナカタ、今日は連れてきてくれてありがとう」


「いえいえ、まあこれがどう影響するかはしばらく後の事ですが、この様子なら心配ないでしょう」


「この後は会食ですが、ニンジャガールはくるデスカ?」


「まだこのあと5日もありますからね、それに仲間と過ごしたいでしょうから、無理は言えませんよ残念ですが、ええ非常に残念ですが」


(会食に久遠さん来ないのですか……)


密かに楽しみにしてましたので、しょんぼりします。


「変わりに園長先生を呼んでますから、質問があれば彼に」


「ツーショット撮ってバズりたかったのデスガ、無念デース。じゃあ園長と撮ってSNSにあげマース」


(わたくしも園長先生に久遠さんのことを沢山質問いたしましょう)


こうしてわたくしの初公務は終わりました。


(久遠さん、貴方のご活躍を楽しみにしてますわ、だって……)


わたくし、すっかり久遠さんのファンになりましたもの。


(いつかお会いする時がきたら、その時はわたくしのお友だちになってくださいませ)


とりあえずわたくしは、護衛に久遠さんグッズを全種類買ってくるようお願いするのでした。


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