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87、ライオンクィーン 2

後半の幕が上がるとそこは何もない寂れた荒野でした。


真ん中で誰かが倒れていて、それをハゲタカがついばもうとした瞬間、小さい二匹の子供がやってきて大声で暴れます。


『こらーーー!このハゲタカめ!』


『こっから出て行けー!』


逃げ出すハゲタカ。

子供の一匹、イノシシの「フンバ」が倒れていた子供、シンに近寄ります。


『クンクン、ティモシー、この子生きてるよー』


もう一匹の子供、ミーアキャットの「ティモシ」を呼びます。


『ああン?どれどれ……クンクン、クンクンクン……ってこれライオンじゃねーか!うわぁぁ逃げろ!』


『まだ子供だし大丈夫だよ』


『大丈夫なわけあるか!食われちまうぞ!』


『見てよ、こんなにかわいい。それに一人ぼっちだ。ねえ、この子飼おうよ』


『バカ言うんじゃねえよ!すぐ大きくなって餌にされちまうよ!』


『そしたら味方になってくれるかもよ?』


『そんなわけ!……いや待てよ?ライオンがお供ってのも悪くねぇ』


『でしょ!』


そういって二匹はシンを起こします。


『ううん……』


『起きたかい嬢ちゃん』


『大丈夫ー?』


『うん……大丈夫……』


目を覚ましたシンは立ち上がり、フラフラと歩き出します。


『どこ行きやがるんでい』


『わからない……』


『行くところはあるの?』


『どこにもない……』


『そっかぁ、アタシらと同じだねー』


『え……?』


『アタシらも行くところがないんだ、ね、何を悩んでるの?あなたのハートを食い荒らしてるのは、何だい?』


『食い荒らすだってよ!奴を餌にするものなんていないんだぜぇ、奴らがみーんな!餌にしちまうからよぉ!ヒャハハ!』


『……言えない』


『何をしたんだい?』


『ヒドイこと……』


『アタシらに出来ることはあるかい?』


『過去を変えることができる?』


『そういう時はね、アタシの相棒はこう言うんだ、「背中に過去を向けな」ってね』


『違えーよこのドシロートが、こう言うんでい、「過去に、背中を向けなよ」ってな!』


『そうそれ!』


『……』


『悪いことが起きたらもうどうすることも出来ねぇ、そうだろ?』


『うん……』


『そうじゃねえんだよなぁ。世間に見捨てられたら、世間を見捨てりゃいい』


『そう、なの……?』


『ああ、だから後に続いて言って見な、ハクーナマタータってな』


『ハクナマタタ?』


『ハクーナマタータ、気にするなっていう意味だよ』


『ハクーナマタータ』


『そう!ハクーナマタータ!』


『ハクーナマタータ……ハクーナマタータ♪』


こうしてシンは二匹のかけがえのない友と出会うのでした。

何があっても気にしない、ハクーナマタータの精神と共に、三匹は一緒に暮らすことになります。


(ハクーナマタータ!原作でも一番好きなシーンです、この三匹の友情がいいんですよねぇ)


友情とはなんて尊いんでしょう。


「友人役は園児たちからオーディションで選んだらしいよ」


「上手デスねー」


プロの子役かと思いましたが、なんと普通の子供たちでしたか。

もちろん一番上手いのは久遠さんですが、他の子も十分上手です、

特に……


「特にあのティモシ役。ものすごく役に合っている、なんという三下感だろうか」


「ベストオブ三下デース」


(天性の三下ですね……)


お調子者のティモシの感じがピッタシはまっています。

まあティモシも親分として良い所も沢山あるんですけどね。


『お腹空いたー、シマウマ食べたーい』


『そんなものはねぇよ!』


『いつも何食べてるの?』


『その辺の虫だよ』


『え……虫⁉』


『あはは、ハクーナマタータだよ』


『そっか!ハクーナマタータ!』


こうして三人で楽しく長い年月を過ごす内にシンは大人になる……はずですが大人に交代も出来ないので数年という設定のようですね。

シン役は久遠さんのままです。


明るい楽曲の後に場面は変わり、ここはライオンの王国。

王国は荒れ果て、ハゲタカが獲物を求め彷徨っています。


王となったカースは寝床で寝そべり、すっかりやる気を無くしていました。


『ああサズーよ、この虚無感はなんだろう』


『…………』


王の宰相であるライチョウのサズーは、今はカースに仕えているようです。


『俺は王となり、全てを手に入れた』


『そうですなぁ』


『なのに見通しは暗い、一体何を間違えた?』


『陛下、間違っているのはあなた自身です』


『俺には労わりがいる!』


『そうでござんしょねぇ』


『俺には必要なものがある!』


『迷いから覚めることです』


『何故みんなから好かれぬのだ!なぜ!ああ~、俺は王だぞ~♪』


全てを手に入れたハズのカースでしたが、ロクに働かないカースには誰もついてきませんでした。


『おいカース!約束が違うじゃないか!』


『肉もない水もない!王様ならなんとかしとくれよ!』


卑しいハイエナ達がカースを非難します。


『うるさい!俺を責めるのか!ああ~誰か愛してほしい~♪』


ハイエナもあきれ果て、去っていきます。


(なんて身勝手な王なのでしょう)


このどうしようもない男に追い出されたシンがかわいそうです。


『カース!今のあなたは王なのよ、もっとしっかりしてよ!』


幼馴染のララです。

原作では美しく成長してますが、可愛らしい子供のままです。

でも中身は大人のようで、喋り方が少し凛々しくなっています。


『ララか、美しく育ったものだ……いやそうだ!俺に必要なものは妃、そして子だ!ララ!俺の子を産め!』


『イヤ!』


「ララが幼児のままなので犯罪臭がヤバいですな」


「我が国だったら即逮捕デース」


よくわかりませんがカースに対する嫌悪感がより増した気がします。


『ああシン、一体何処へ行ってしまったの?死んでしまったなんてウソでしょう?戻りたい、何も考えずにサバンナを走り回ったあの頃に……ああ~あなた~がいれば~♪』


ここでララのソロパートです。

ララ役の女の子は堂々と切なく歌いあげます。

こんな大舞台で一人で歌うなんて、わたくしにはとても出来そうにありません。


「歌は音源を使うと聞いてたけど、普通に歌ってるね。しかし度胸あるなぁ」


「かわいらしい声デース」


よく考えると動きやセリフの演技だけでなく、歌も覚える必要があるなんてミュージカルって大変そうです。

きっと相当な努力をしたのでしょうね。


歌い終わると大きな拍手が鳴り響きます。


さて舞台はまたシンの元に帰ってきました。

すっかり仲良しの三匹ですが少しシンの様子がおかしいです。


『さて今日はここで寝るとすっかい』


『寝床もふかふかで虫も一杯だねぇ』


『うーん……』


『どしたい嬢ちゃん』


『なんだか落ち着かない……ここはやめようよ』


『なんだよ毛玉野郎、じゃあ何処がいいって言うんでい』


『もっと緑が一杯あって、とっても広くて、ワクワクして……』


(きっと王国を求めているのね……)


すっかり立ち直ったように見えて、やはり故郷を忘れられないのでしょう。


『どうしたんだいシン?アタシはここがいいけどなぁ』


『うーモヤモヤする……とにかくここじゃないんだ、他にしようよ!』


『やだね、行きたきゃ一人で行っていきな!』


『なんだよ!もう知らない!』


『あっ、ちょっとシン!』


そういってシンは飛び出して行ってしまいました。


『なんだよあいつ、結局あいつもライオンかよ、俺たちのこと見下してやがんでぃ』


『少し大きくなってお尻がムズムズしてるんだよ、すぐ戻ってくるさ』


『ケッ』


その時舞台が薄暗くなり細い煙がただよいます。


『ん?この匂いって……』


『げぇ!肉食獣だ!』


現れたのは大きなチーターでした。

二匹は逃げますが、あっという間に追いつかれ、小柄なティモシは噛みつかれてしまいます。


『うわぁぁティモシ!!』


『シーーン!!!助けてくれーぃ!』


『シーン!ティモシがー!』


(ああ!ティモシが食べられてしまう!シン!早くきて!)


大きなチーターに噛まれたティモシは絶体絶命です!


『ティモシを……はなせーー!!!』


『ギャウン!』


食べられそうになるその瞬間、一瞬でシンが現れ、チーターを舞台袖まで殴り飛ばしました。

突如会場に突風が吹きましたがこれは一体……?


『『シン!』』


『……』


照明に照らされゆっくりと立ち上がるシン。

その姿は立派に成長した気高いライオンそのもので……。


その拳は、何やら光輝いていました。



「ホワッツ⁉」



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