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86、ライオンクィーン 1

舞台が暗転し、舞台右端にスポットライトに照らされた一人の老婆が現れ、遠吠えのような声で高々と歌い始める。


すると何処からか太鼓のリズムが鳴り響き幕がゆっくりと上がる、そこには大きな太陽と雄大な草原が舞台一杯に広がっていた。そして沢山の動物たちが次々と登場し、母なる大地を讃歌する。


動物のように見えたのは小さな子供たちだった。

子供たちは動物の着ぐるみを着る、または背景と同化するようなスーツを着て、その場合は手に鳥や小さい動物の模型を持っていた。


重なり合うコーラスと動物の鳴き声と共に、子供たちは各々の動物を模した動きをし、オモチャの鳥の羽ばたきはまるで本物のように見えた。

この日の為に作り、練習した成果を大きな舞台で披露する彼らの顔は誇らしそうであり、楽しそうでもあった。


やがて夕日をバックに王であるライオンが赤子を抱いて現れると、全ての動物が2人を祝福するように囲み踊り舞う。

これは王女シンの誕生を祝う祭典なのだ。


(なんて壮大なオープニングでしょう)


今日のためにアニメ版を視聴し事前知識は万端なわたくしでしたが、舞台を見るのは初めてで、その余りの迫力に圧倒されてしまいました。


太鼓のリズムと遠吠えのような知らない言語が、ここは原始のサバンナだと教えてくれます。


やがてオープニングの祭典が終わり暗転すると大きな拍手が鳴り響きます。

わたくしも自然と拍手をしてしまいました。


「ははは、幼稚園が主催するクオリティではないですな」


「まるでブロードウェイを見てるようデース」


総理と大統領がこそこそと感想を言う。

やっぱりすごいんだ。

わたくしはもう胸がドキドキしてこれからが楽しみでなりません。


暗転が開けると、そこには敵役の叔父、カースが悪態をついています。


『クソッ!あのガキが産まれなければ次の王は俺様だったというのに……!』


叔父は現王の弟で第一王位継承者でしたが、シンが産まれたことで二位に下がったことが不満でした。


『カース!なぜ式典に来なかったのだ!』


王様であり兄であるムファーサがカースを叱ります。


『これはこれは兄上、おや?今日でしたっけ?すっかり忘れていました』


カースはワザとらしく謝ります。


『カース、私に逆らうのか?』


『まさかまさか、俺には智恵があっても腕力はない。王に逆らうなどとんでもありません。では俺はお辞儀の練習でもしておきましょう、失礼兄上』


『カース……』


王様もすっかりふてくされたこの弟に、つい甘い対応を取ってしまいます。

それがこの国の災いになるとも知らずに……。


「大人の役はプロの役者がやっているから、流石に安定しているね」


「迫力が違いマース」


また総理と大統領です。

どうやらこの2人が今日の実況と解説をしてくれるようです。


舞台に目を向けると王様と、少しだけ成長した王女のシンが草木や虫に扮した園児たちと共に戯れています。

シンはフードの無いパジャマのような着ぐるみに、ライオンの耳とヒゲを付けたとってもかわいい女の子でした。


(あの子が久遠さん……なんて可愛らしいのかしら!)


そう思ったのはわたくしだけではないようで、興奮した観客席から拍手が鳴り響きます。


『ごらんシン、この広い草原の全てが我々の王国だ』


『わぁー!これ全部?』


『ああ、そしていずれお前のものになる』


王様はサバンナを見渡せる丘の上にシンを連れ出し、王としての心構えを教えます。


『ふーん、よくわかんないや!』


でもシンはまだ幼く、王様の言葉よりも遊ぶことで頭が一杯です。


『シン!今日は何処へ行くの⁉』


『今日は象の墓場だよ!』


『お嬢様がた!あそこに近づいてはなりませぬ!』


やんちゃなシンは幼馴染のライオン「ララ」と遊びまわり、執事で教育係のライチョウ「サズー」のお小言を聞き流してイタズラばかり。


遊んでいたと思ったら急に何処からかバックダンサーの子供たちが現れ歌と踊りのパートが始まり、かと思ったら普通に会話が始まったり、歌と踊りを交えながら草原や森を駆け回るシンはイキイキとして本当に楽しそう。


(すごい、これがミュージカルなんだ)


こんなにワクワクしたのは初めてです。


「久遠ちゃんの演技が上手いのは当然として歌もすばらしいね。ミュージカルは初めてのハズなのにしっかり対応してきてる。それに幼馴染のララも素人のハズなのにかなり上手い。よっぽど練習したんだろうね」


「ダンサーの振付もよくアレンジされてグッドデスね、子供らしさが生かされてマス」


やがてシンとララは叔父のカースにそそのかされてハイエナの巣に迷い込み、食べられそうなところをムファーサに救われます。


激しい太鼓と照明の動きでとってもハラハラしました。


『父さん、ごめんなさい……』


『お前にはガッカリしたぞシン』


流石に落ち込むシンにムファーサは叱りつけます。


『ボクは父さんのように勇敢になりたかった!父さんのように強くて何も恐れない王に!』


『勇敢と無謀は違うのだ、それに私にも怖いものはある』


『父さんが?』


『私はお前を失うのが恐ろしい、だからもう二度とするな』


『父さん……ねえ父さん、何処にもいかないで、ずっと一緒にいてよ』


『……あの星を見よシン。歴代の王は星となって我々を見守ってくれている。もし私がいなくなっても私は星となってお前をずっと見守るだろう、それをいつか必ず思い出すんだ』


『父さん……』


『おまえーはー女王にーなるのだー♪』


うう、結末を知っているだけに感動します。

時折り挟む歌と踊りがその場面をより深く印象付ける、これがミュージカルなんですね。


『でも僕になれるかな……』


『シン、お前には聖なる力が宿っている』


『これのこと?』


そう言うとシンの手が淡く光ります。


(あ、あれは霊力……!)


弱弱しい光ですが不思議と暖かく、明らかに普通の光ではありません。


『それこそが王の力だ。その力を使いこなし、民を導くのだ』


『うん、分かったよ!』


「ホワット?なんだいあの光は?VFX?それにしてはなんだかミステリアスな感覚が……」


「あーうん、変わったトリックだねぇ、あはは(霊力って一応奇跡の力なんだけど、ただ光らせるためだけに使う所が久遠ちゃんなんだよなぁ)」


(れ、霊力をこんな堂々と使っていいんでしょうか……)


しかも原作にはこんなシーンはありません。

つまりこれはこの劇のオリジナルで、原作と全てが同じと言うわけではないということ。

先を知っていても楽しみになってきました。



やがて物語は進み、叔父のカースが本格的に動き出します。

サバンナの厄介者のハイエナと手を組み、シンを危険な場所におびき出したのです。


『叔父さん、父さんは本当にここにボクを呼んだの?』


『ああそうさ、素敵な贈り物をするためにね。俺はお前の親父を呼んでくるからここで未熟な遠吠えの練習でもして待ってな』


『未熟な遠吠えか……』


そうしてシンは一人、拙い遠吠えの練習を始めます。


(ああ、ダメよシン……!)


『ククク、あのヌーの群れを見な、カースから合図があったら奴らを追い立ててシンを襲わせるんだ』


『あんだけいるんだ、一匹くらい食べてもいいだろう?』


『駄目だよ、カースからの合図を待つんだ』


2匹の卑しいハイエナはカースが王になったら好待遇を約束されていました。


『合図だ!さあ行けヌー達!』


『ブモーー!』


舞台に煙が上がり、沢山の子供たちが大きなヌーの仮装をして現れます。


『ヌーの大軍だ!』


必死に走るシンと、それを追うヌーの群れ、音と光と煙で物凄い迫力です。


『も、もうだめだ……』


『シーン!!!』


諦めかけたその時父ムファーサが現れます。


(ああ……!)


『こっちだ!お前はここに隠れていろ!』


『でも!』


小さな横穴にシンを押し込め、一人戦うムファーサ。

しかしいくら最強の王でも、暴走したヌーの群れには敵いません。


群れから逃れるために崖を登る王でしたが、あと少しという所で崖の上にカースが現れます。


『ククク』


『カース!弟よ!力を貸してくれ!』


『クク、王様……万歳!』


『カーーース!!!』


カースはムファーサを蹴り飛ばし、群れの中に放り込みました。


『さようなら兄上』


(そんな……!くぅぅ、なんて憎たらしい男なの……?)


…………


全てが終わったあと、シンは穴から出てボロボロになった王の亡骸に近づきます。


『父さん、目を開けてよ……』


王は応えません。


『誰か助けて!父さんを助けてよ!誰か……!』


(なんて悲しい叫び……)


わたくしは先ほどから涙が止まりません。

会場でもすすり泣く声が聴こえます。


シンの慟哭が響く中、現れたのは白々しくも沈痛な顔をしたカースでした。


『シンよ、とんでもないことをしてくれたな』


『叔父さん』


『お前が愚かにもヌーを呼び寄せたからこうなったのだ』


『でも、これは事故だ……!』


『ふん、誰がそれを信じる。お前の母さんにもそう言えるのか』


『それは……』


『王が死んだのは全てお前のせいだ、民もお前を許さないだろう』


『ボクは、どうしたら……』


『立ち去れシン、ここから出ていき二度と戻ってくるな』


『…………わかった……』


そういってシンは、この王国から走り去るのでした。


『ククク、はぁーーーはっはぁ!これで俺が王だ!』


(お、おのれカース……!シン!騙されちゃダメよ!)


その後、王国では王の葬儀が行われ、民は悲しみにくれました。

そして、新たな王としてカースが立ち上がるのでした。



『これにて前半を終了します。ただいまより20分間の休憩を挟んだ後、後半を始めさせていただきます』


幕が下り、休憩のアナウンスが流れたところで止めていた息を吐き出します。


「はぁ~」


すごかった……、泣いたり笑ったり、わたくしの感情はもうぐちゃぐちゃです。


「いやぁ素晴らしいクオリティでしたな」


「ここまでパーフェクトデシタ」


大人たちも明るい笑顔で感想を言い合います。


わたくしは何となく流れで総理と大統領の話に耳を傾けます。


「子供たちだけでこの再現度は確かに凄い、しかしいささか原作に忠実すぎる……」


「どうしましたムナカタ?」


おや?総理は少し納得がいかない様子です。


「あのエンターテイナーな久遠ちゃんが、ただの完コピで満足出来るハズがないと思いましてね」


「エンターテイナー?確かに前半はニンジャっぽくなくて少しガッカリでしたが」


「あのチラッとだけ見せた王の力……これはきっと後半にあっと驚く仕掛けがあるのでしょうね」


「オー、リアリィ?ニンジャ見れますか?ニンジャ」


古参ファンの宗方総理が勝手にハードルを上げていきます。

確かに少しは変えるだろうとわたくしも思いますが……、


(わたくしと同じ歳の子がそこまで考えているでしょうか?)


期待しすぎるのはかわいそうでは?

でも総理はわたくしよりも久遠さんのことをよくご存じです。

それによく見ると月詠当主や天原総帥も腕を組みニヤニヤしています。


(もしかして本当に?)


わたくしは今後の展開を予想しますが、原作通りのことしか思い浮かびません。


(とりあえず休憩にいきましょう)


そうして感想を言い合っているうちに、後半の幕が上がるのでした。




この辺原作ライオンキング見てないとわかりにくいかも知れぬ!

興味が湧いたら原作見てみよう(宣伝)!

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