85、刹那殿下の初公務
※この物語はフィクションでありファンタジーな日本が舞台なので細かいことは気にしないようお願いします。
「殿下、こちらへどうぞ」
「はい」
黒服のSPに案内されわたくし、刹那は劇場2階の特別席に腰を下ろす。
下を見ると沢山の人達がガヤガヤと楽しそうに自分の席を探しています。
「わたくしも皆と同じでいいのに」と言ったら、逆に迷惑になると言われてしまいました。
今日は今話題のミュージカル「ライオンクィーン」の初日公演日。
何でも社会的にも文化的にも意義のある催しだとかで、わたくし達皇族にも声がかかったとか。
本来わたくしに公務はまだ早いけれど、主演でありプロデューサー?の天原久遠さんはわたくしと同じ4歳だということで、特別におじい様おばあ様と一緒に参加が許されました。
天原久遠さん。
月詠家の次期当主だという。
月詠家には先祖代々お世話になっていて、我が家にも何人か月詠家の使用人がいるし、今日の護衛も月詠家の人間が数人就いています。
「久遠さんとは仲良くしなさい、将来きっと貴女を助けてくれますから」
おばあ様から何度もそう言われました。
久遠さん、一体どんな子なんだろう。
仲良くと言うけれど、わたくしとお友達になってくれるのかな……。
「ねえ、貴方は月詠家の分家なんでしょう?久遠さんってどんな方なの?」
「久遠様は大変素晴らしい方です。歴代最高の霊力と才能を持ち、それなのに勤勉で努力家で、まだ幼いながらすでに頭角を現し誰もが次期当主と認めております」
「はぇ~」
わたくしにも霊力はあるけど、まだ練習を始めたばかりだし、文字も計算も最近覚えたばかり。
そんな方とわたくしが仲良くなんてなれるのかしら。
「殿下も十分に聡明で才がおありですよ。ただあの方は色々チートなので……」
「チート?」
「いえ、何でもありません」
チートってなんだろう。
この様子では聞いても答えてくれないでしょう。
わたくしは諦めて、頂いたパンフレットに目を通す。
漢字はまだ読めないので写真だけを見てるけど、写真の中の久遠さんや子供たちはとっても楽しそう。
いいなぁ、わたくしもこんな風に……。
「ご無沙汰しております両陛下、本日はよろしくお願いします」
「やあ宗方君、今日は楽しみましょう」
「宗方さん、お久しぶりですね」
そういって現れたのは身なりの良いおじいさん。
確か総理大臣の宗方さん、がおじい様とおばあ様に挨拶をして後ろの席に座る。
「大統領もどうぞ」
「ドーモデス」
大統領だという外国の人が私の後ろに座る。
ふふ、ドーモデスだって、わたくしが正しい日本語を教えてあげようかしら。
それにしても体が大きくて存在感のある方ですね。
「ニッポンの教育のターニングポイントにナルと聞いて、楽しみにしてマース」
「ははは、私もですよ」
「…………」
ちなみにおじい様の隣りには白鳥幼稚園の園長先生という方が座っていて、先ほどからおじい様の質問攻めを受けています。
おじい様は好奇心旺盛で質問魔なの。
わたくしから見てもガチガチに緊張していて大丈夫でしょうか。
「オー!ニンジャリトルガール⁉」
パンフレット読みを再開したところ、後ろから見ていた大統領が突然声を上げてビクっとします。
「ソーリープリンセス。その子はSNSで話題のニンジャリトルガールではないデスカ?」
「忍者?この子は今日の主役の天原久遠さんです」
「オー、我が国では今その子の話題は大変ホットなのデス!」
「ん?ああ天原久遠ちゃんですね、天原家も月詠家も日本政府は大変お世話になってるから、その縁もあって今日見に来たんですよ」
そういって総理が大統領に英語で色々説明する。
「センキュームナカタ!これで今日のSNSは大バズリだ!」
大統領は相当なSNS廃人のようです。
それにしても……。
「総理も久遠さんを知ってるんですか?」
「これは殿下、ええもちろんです。月詠家の次期当主が決まった時に現当主から連絡がありましてね、その頃から存在を知っていたので実はけっこう古株なんですよ」
そう言って自慢げに古参アピールをする総理。
「あの子のブログに初めてコメントしたのは何を隠そう私でしてね、久遠ちゃんから直々に『初コメントありがとうございます!これからも応援よろしくお願いします!』って返信が書かれた時は嬉しかったなぁ。そんなずっと応援してた子が舞台でしょう?いやーなんとしても来たかったから官僚に色々無理言っちゃいましたよ、大統領も来日予定だったし。でも結果的に大正解でした、外国でも人気なんて流石久遠ちゃん!」
「は、はぁ」
さっきは両家との付き合いで見に来たと言ってませんでしたか?
どうやら総理はかなりの天原久遠ファンのようです。
「やあ宗方、盛り上がってるね」
「む、天原か」
「あたしもいるよ」
「これはこれは月詠の。その節はお世話になりました」
高天原グループの総帥と月詠家の当主が揃って登場です。
「両陛下、ご無沙汰しております」
「月詠当主か。今日は孫の活躍を楽しみにしているよ」
「はい、きっとご期待に添えるでことでしょう」
「琴さんお久しぶり、後でお話しましょう?」
「ええ皇后さま」
「両陛下、ご挨拶させて頂きます」
「天原くん、久しいね。しかし月詠の能力と天原の才能を継いだ子ねぇ……その、大丈夫なの?世界征服とか狙ったりしないよね?」
「大丈夫です陛下、最初に常識人の霊が憑りついた事が幸いし、非常に真っ当に育っております」
「能力的には可能かも知れませんが、今のところ人の為に尽くすことができるとっても良い子です、今のところ」
「まあ大丈夫だと思うけど、しっかり教育しておくれよ?日本、いや世界のために」
「「もちろんです」」
「う”ッ!」
そんな会話を聞いていた園長先生が突然胃を押さえて苦しみだします。
「すみません持病の癪が……!今日はこれで失礼いたしま」
「おや大丈夫かい?」
そう言って月詠当主が園長先生を霊力で回復させます。
あれ効くんですよねぇ。
「ほらこれで大丈夫さ、せっかくの教え子の晴れ舞台、癪なんかで見れないのは可哀そうだからね」
「ありがとうございます……」
園長先生は持ち直したようです、良かった良かった。
「しかし天原、まさか久遠ちゃんがお前の孫とはなぁ」
「ふふふ、うらやましかろう宗方。そう言えば始めに久遠のことを教えてくれたのはお前だったな」
「くそっ!めちゃくちゃ羨ましい……!」
「ニンジャミュージカルナウ……っと」
大人たちは皆顔見知りのようで、わいわいと楽しそうです。
『ただいまより白鳥幼稚園園児によるミュージカル、ライオンクィーンが始まります。携帯の電源はお切りになり、お席について今しばらくお待ちください』
ブザーが鳴り開演のアナウンスが流れる。
あれほど騒がしかった会場はサッと静まり返り、わたくしもパンフレットを閉じる。
さあ、いよいよ舞台の始まりです。
わたくしはワクワクと幕が上がるのを待つのでした。
85話にしてついにヒロイン登場!
(百合ではありません)
(ファンタジーの日本です)