83、園内オーディション
「はいじゃあ幼馴染のララ役をやりたいひとー」
「「はーい」」
説明会から一週間。今日はオーディションの日だ。
それまでは動画見せたり簡単なセット作ったり、歌ってみたり踊ってみたり、広く浅く舞台の雰囲気に触れてもらっていた。
その中で幼馴染のメスライオン「ララ」、友人Aのヤマネコ「ティモシ」、友人Bのイノシシ「ブンバ」をやりたい人はこうして集まってもらったのだ。
ちなみに審査員は私と元劇団員の柿沼さんである。
貸し切った教室に集まった数は……多い。
年長さん10人年中さん9人、年少さん30人。
というか私が所属する薔薇組の子は全員いる。
「なんでみんないるんだ、遊びじゃないんだぞ」
「くおんさま、我々騎士団を舐めてもらっては困りますな」
私をブス呼ばわりして真っ先に子分になった小太郎が前に出て言う。
「我ら全員くおんさまの持ってくる映画や舞台に何度も影響され、無数の役を演じてきた精鋭。どんな役でも熟して見せます」
そう言って頷く薔薇組の面々と、付き合いのあるお隣の百合組。
ごっこ遊びと違うんだが……
「よかろう、では薔薇組からきたまえ」
「はっ」
「久遠ちゃん普段どんな幼稚園生活送ってるの?」
異様なノリに困惑する柿沼さん。
「ちょっとごっこ遊びが好きなだけですよ、ベルばらとか」
「ベルばら⁉」
「じゃあまずスミレちゃんから」
「はーい」
「え!もうちょっと詳しく教えてよ!」
マイウェイガールのスミレちゃんも参加するのか、意外だな。
いつものんびりぽやぽやして私の癒しな彼女だが、どんなブームが来ても自分を貫いていたのに。
「『あなたは女王になるのよシン!』」
「え、上手い」
いきなり普段とまったく違う雰囲気で凛として主人公を励ますスミレちゃん。
ちなみにシンは私がやる主人公で、逃げ出した私を励ますのが幼馴染のララの役割だ。
「驚いた、すごく上手いね。動きもミュージカルのそれだ」
柿沼さんも驚いている
「え、なんでスミレちゃんそんなに上手いの?」
「えへへ、くおんちゃんの真似だよー。くおんちゃんすごいからスーちゃんも演技の練習したの」
「そっかー、じゃあスミレちゃんは採用で」
「ちょっとちょっと、まだ全員見てないから」
「はっそうでした、じゃあ次小太郎」
あまりの健気さに我を忘れてしまった。
恐るべしスミレちゃん。
「はい!ティモシをやります!」
ティモシはお調子者のヤマネコだ。
親分のように普段は振る舞うがビビりで、すぐシンの後ろに隠れたりと笑いを誘う江戸っ子口調の親友である。
「『奴を餌にするものなんていないんだぜぇ、奴らがみーんな!餌にしちまうからよぉ!』」
「めっちゃ上手いじゃん」
小太郎のクセにめちゃくちゃ上手い、というかキャラの三下感が小太郎に絶妙にマッチしてる。
「へへ、これくらいくおんさまの騎士なら当然ですぜ」
鼻の下を人差し指でこする三下ポーズがまた似合っている。コイツは天性の三下だ。
「この子も上手いね……久遠ちゃんは幼稚園で劇団でも作るつもりなの?」
「そんなつもりはありませんが……ごっこ遊びがこんな効果を生み出すとは思いませんでした」
「それほど役にのめり込んで遊んでたってことかな?」
「あ、私人を乗せるのが上手いらしいので、それかもしれないですね」
「あー確かに、現に僕もここにいるし。なるほどなぁ」
「じゃ、次ー」
こうしてどんどん進めていく。
薔薇組の面々は本当に全員普通に上手かった。
なんなの?ごっこ遊びのポテンシャルすごいな。
しかしまさか私の才能がこんな所で発揮されるとは思わなかったな。
これって私が軍隊式トレーニングの教官とかやったらどうなるんだろうか、とチラッと考えて封印する。
続いて年中年長組も見るが、こちらも上手い。
流石に年長の方が活舌もしっかりしてるが、年中も負けていない。
「ブンバやります!『ハクーナマタータ、気にするなっていう意味だよ』」
ブンバはのんびり屋で優しいイノシシだ、ヤマネコのティモシといつも一緒にいる。
この子もブンバののんびりとした喋りがよく表現できている。
「みんななんでそんなに上手いの?」
おかしくない?彼らとはごっこ遊びはしてない筈なのに。
「だってくおんさまみたいになりたいもん!ママにいって演技の教室に通わせてもらってるの!」
「ぼくも!」「わたしも!」
「そ、そうなんだ」
マジかよ、いつの間にそんなことに?
親御さんの間で子役ブームでも起きてるのか?
ていうか年上でも普通に様付けされてた。
「久遠ちゃん愛されてるねぇ」
柿沼さんがニヤニヤしてきてうざい。
しかし私は色々チートだから、演技だけやっても私のようになれるとは無責任に言えない。
でも演技の勉強が無駄になることはないし、きっかけは何であれこうして何かを始めるのは好ましい。
私はこの公演を通じて、子供達に努力をさせ、結果をだし、評価=報酬をもらい自信を付けさせるつもりだったが、いつの間にか努力をさせることには成功していたみたいだ。
「しかしこうなると誰にするか迷いますね」
「うーんまさかここまでとは」
園児で演技が上手い子なんて奇跡的に1人か2人で、悩む必要なんかないと思ってたのにこれである。
柿沼さんもお困りだ。オーディションは審査も大変だが選ぶのもまた大変なのだ。
「レギュラーを3人選ぶつもりでしたが、各学年から3人ずつ選んで、モブ役と同じように回しますか」
初日を年少組、2日目は年中、3日目は年長、と6日間で2回回す計画をオーディション組にも適用する。
まあ素の園児だと体力的にもキツイし、交代できるならその方がいい。
「そうだね、その方が収まりもいいし、お客さんも変化があって楽しいだろう」
「となると年長はあの子とあの子で……」
「年中はこの子かな……」
こうしてスミレちゃんと小太郎も含むメインキャストの9名が決まり、本格的な稽古が始まった。
私と彼らは土日も関係なくレッスンレッスンのレッスン漬け。
流石オーディションを受けるだけあって彼らのやる気は凄まじい。
私も天才だからとのほほんとしている場合ではない。
素人の彼らの方が上手いねと言われたら私の天よりも高いプライドがへし折れてしまう。
故に大人げなく知識とコネを総動員して関係各所に教えを乞うた。
慢心は天才の敵なのだ。
ちなみにそれ以外の園児達は踊りの練習の他、自分の衣装を作ったり、セットを作ったりして楽しそうだ。
プロの手助けがあるだけあって中々のクオリティに仕上がっている。
親御さん達も差し入れをしたり色々サポートをしてくれている。
園長は取材を受けたりサミットに参加したり教育委員会に呼ばれたりして最近見てないが、きっと頑張ってることだろう。
こうして秋も深まり、準備は着々と進んでいくのだった。