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82、保護者説明会

ざわざわ……


白鳥幼稚園の小さな体育館に集められた保護者達は、不安そうに周りの人達と話しあう。


「一体なんの招集かしら」


「全学年を一斉にとは、初めてではないですか?」


「園全体に関わるってことよね……」


『本日はお集まり頂き大変ありがとうございます。ただいまより保護者説明会を始めさせて頂きます』


ざわめいていた保護者たちはその一言で静まり返り、聞き逃すまいと耳を澄ます。


『本日お集まり頂いた目的は、今度行う幼稚園行事の説明のためです。まったく新しい試みのため、皆様に直接お伝えしなければと思った次第です』


「教頭先生だわ」


「いつも強気なのに、今日はやけに腰が低いわね」


「新しい試みってなにかしら」


「私たちに負担が来ないといいけど」


『それでは今プロジェクトのプロデューサー、天原久遠さん、説明をお願いします』


そう言うと壇上に久遠が現れ、教頭からマイクを渡される。


『えー改めまして、プロデューサーの天原久遠です』


その瞬間ザワリと会場が湧く。


「久遠ちゃんだわ、相変わらず綺麗な子ねぇ」


「プロデューサー?」


「ドラマ見た?うちの子も憧れちゃって……」


『本来こういった事は園長先生にお願いしたい所ですが、直前に倒れられたので、企画実行を担当する私が代わりに説明いたします』


「まあ、園長先生大丈夫かしら」


「もうお歳ですし、心配だわ」


「実行委員さんと言う事かしら?久遠ちゃんはほんとしっかりしてるわねぇ」


園長先生は私の報告を聞いたら「うっ!」と急に胃に手を当て動かなくなったのだ。

一応霊力で治したが、安静にして寝かせておいた。

園長先生もけっこうな歳だから、持病の癪か何かだろう、無理はして欲しくないものである。

彼にはこの後インタビューとか要人との会談とか控えてるし、体は大事にして欲しい。


『この度私たち園児は、ミュージカル公演をすることになりました、演目はライオンクィーン』


「ミュージカル?」


「ライオンクィーンですか!私見たことあります、良い選択ね」


「簡単にアレンジするのでしょうけど、できるのかしら?」


「でもきっと可愛らしいのでしょうね、楽しみだわ」


『ただの園児が行うミュージカルではありません。大きな劇場で大々的に行い、プロの劇団員に協力してもらい、CMもバンバン流し、チケットも販売する収益を得る本格的なミュージカルです』


お遊戯会とはまったく違うという意識を徹底させる。

これはプロが行う公演なのだ。


「え?」


「どういうこと?」


『皆さんは私の【子供の内からお金を稼がせるべし】という考えを支持してくれたものと思います。その考えに基づいたのが今回のミュージカルです。何日もかけ準備して、この大仕事を成功させ報酬を得た時、子供たちは思い出と共に大きな自信をもつことが出来るでしょう』


それもこの私との共演なのだ、一生の自慢になるに違いない。


「あ、あの話ね!」


「私あの話を聞いていたく感心しましたよ」


「私も子供時代に自信があればと何度思ったことか」


「なるほどそれで……確かに園児に物作りは難しいですが、歌や踊りなら出来そうかも」


『そういうことです。というわけで本プロジェクトを支えてくれる劇団員の先生方を紹介しておきましょう』


そう言って6人の男女を壇上に招く。


『初めまして、フリーの舞台役者、柿沼です』


6人順番に挨拶をしていく。

柿沼さんは最初に声を掛けたリーダー的な人。

他の人も似たような経歴の昔の仲間だそうだ。


『彼らには演出を考えたり、園児に踊りの指導をしたりセットの作り方を教えたりする他、敵役として舞台に上がってもらいクオリティを底上げしてもらいます』


ちょっと無茶ぶりかな、とも思ったけど、ライオンクィーンは何度も演じた彼らの十八番だ。

それほど負担にはならないだろう、暇そうだし。


「優しそうな方々ね」


「お忙しいでしょうに……きっと子供が大好きなのね」


「敵役ということは、味方は子供たちがやるのかしら」


『主役は僭越ながらこの私がやらせていただきます』


「まあ当然ね」


「うちの子は張り合わなくてよかったわ……」


「他の子ならともかく、久遠ちゃんはねぇ」


『そして主人公の幼馴染と友人2人は園児の中からオーディションで決めたいと思います』


「「⁉」」


120人も園児がいるのだから、だれかしら上手い子はいるだろう。

それに原作でも子ども役は子役がやってるから、多少拙くても問題ない、最悪音源使えばいいし。


「で、でも久遠ちゃん含めプロばかりよ?多少上手くても浮いてしまうんじゃ……」


「いえ、うちの子は久遠ちゃんに憧れて演技を頑張ってるの、これはチャンスよ」


『保護者の皆さんには、オーディションの通達と、ご家庭でのご理解と協力をお願いします。具体的にはお迎え時間を少し遅らせたりなどですね』


「まあそれくらいなら」


「遅らせる分にはいくらでも……」


『公演は2ヶ月後。会場は月詠劇場を六日間の予定です』


「六日間も?」


「月詠劇場は大きいわね……」


『なおこのプロジェクトにはツクヨミグループと高天原グループが後援に付き、チケット販売やグッズ開発、ライブビューイングと幅広く展開されることが決定しました』


「ツクヨミと高天原⁉」


「ほら久遠ちゃんって……」


「ああ……」


「な、なんだか思ってたより規模が大きくない……?」


「大きいってレベルじゃないわよ!」


『更には各芸能関係から政府関係、教育関係経済関係その他各所に非常に注目されていて、既に各放送局や新聞社から取材のオファーが沢山きています』


「どういうこと⁉」


「そ、そんなのにうちの子が?」


「ちょ、ちょっと今回はオーディションやめておこうかしら」


『当日には総理とその日来日予定の某国大統領、そして天皇陛下にもご臨席頂くと先ほど御連絡がありました』


「…………」


「…………」


「…………」


(((そりゃ園長先生倒れるわ)))


会場の気持ちは一致した。


『えーそんな感じで、思ったより大事になってしまいましたが、ご理解とご協力をお願い申し上げます』


なんか知らん間にそうなってたんだよね。


「え、ええ……」


「全力で協力したしますとも……」


「何をすればいいのかわかりませんが……」


『あ、そうそう、子供たちには報酬を支払う予定ですが、貯金や回収などはされないようにお願いします。自分が働いて欲しいものを買う、この行為で本プロジェクトは完成しますので』


初めて得た報酬で自分の望みを叶える、これが大事だよね。


「そうね……」


「そういえばそんな話だったわ……」


「こんな話になってもブレないわね」


「流石久遠ちゃんね」


「奥さんオーディションどうします?」


「一応やらせてみようかしら……」


「うちは受かってもヘマが怖くてとてもとても……」


「なんだかドッと疲れたわ……」


「幼稚園の保護者説明会でする話じゃありませんでしたね……」


こうして最後の根回し、保護者への説明も終わり、本格的な準備が始まるのだった。


(よし、絶対成功させるぞ)


そういって気合を入れる。

まあ多少?大事にはなったけど、私たち演者のやることは変わらない。

偉い人の相手は偉い人(園長)に任せておけばいいのだ。


そうだ!

園長は癪持ちのようだから今回のお礼として念入りに回復させてあげよう、ちょっとやそっとでは倒れないように。


うんうんお年寄りには長生きしてほしいしね、流石私ナイスアイデア!


よーし私も明日からの稽古がんばるぞいっと。



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