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81、準備と根回し

「演目どうしようかなー」


幼稚園で演劇をすることになり、そのプロデュースを任された私。

いや、厳密にはそこまで任された訳ではないけど、やり方は任せるみたいなことを言ってたので私の好きにすることにした。

とにもかくにもまずは演目決めからだ。


「なるべくモブが沢山出て、話が園児でも分かるものとなると中々……」


まずシェイクスピア等の古典はダメだろう、演劇では定番だが難しすぎる。

うちの組に限ってはベルばらとかアーサー王物語とか出来そうだが、今回は他の組も参加するのでダメ。

となるとやはり童話とかになるが、それではお遊戯会と変わらない。

お金を取って芸を見せるからには、大人でもしっかり楽しめる内容とクオリティである必要

がある。


「むむむ……」


「ごきげんよう久遠。何かお悩み?」


「あ、先生、おはようございます」


今日は月に一度の日向先生のレッスンの日だ。

まだそんなに数を熟したわけではないが、先生のレッスンは今のところこうしてお茶を飲んで雑談をしていることの方が多い。


実演を交えながら先生の武勇伝を聞き、トラブルの対処法や、効果的なテクニックを教えてもらうのだ。

基礎は出来てるうえ、記憶力が異常な私にはこの方がいいだろうとのこと。

大女優日向ウズメの人生自体が面白いことに加え、私が知らない技を沢山知れて大変有意義な時間である。一応残った時間で普通に演技も教わる。


「今度幼稚園で演劇をすることになりまして」


「あら懐かしい。私もやったことありますよ、確か白雪姫。姫役を巡って友達と喧嘩したりねぇ、でも今は姫が何人もいるんでしたっけ?あなたなら問題ないと思うけど?」


「実はですねぇ」


かくかくしかじかと私は幼稚園劇団公演をプロデュースすることになったと説明する。


「そ、そう、相変わらず奇想天外なことを考えるのね。でも面白そうじゃない」


「ええ、それで演目をどうしようか悩んでて。モブが沢山出て、大人も子供も楽しめるもので何かありませんか?私演劇はあまり詳しくなくて」


「あの子は映像一本でしたからね……でもそういうことなら打ってつけのがあります」


「え?どんなのですか?」


「ミュージカルです」


「ミュージカル?」


ご存じ歌って踊る演劇の一種である。

なるほど確かに、主演が歌い始めるとどこからともなく大量のダンサーが現れるシーンを見たことがある。


「でも幼児にミュージカル独特の歌は難しいのでは?」


「コーラスは既成の音源を流せばいいのよ。流石にソロは演者が歌った方がいいけど、そこはプロがやるのでしょう?」


「音源!その手がありましたか、これなら園児たちはセリフを覚える必要もないし、踊りに集中できますね、問題は私がミュージカル経験がないことですが」


一応歌と踊りのレッスンは受けているが、ミュージカルとなると全然知らない世界だ。


「私が軽く教えてもいいけど、専門家を呼ぶならその人に聞いた方がいいかもしれないわね」


「そうですね……そうします、それで演目はどうしましょう」


「モブが沢山出て大人も子供も楽しめるミュージカルと言えばあれしかないわね」


「あれとは?」


「ライオンクイーンよ」


……またライオンか。


―――――――――――――――


ライオンクイーンとは

叔父の陰謀によりライオンの国を追い出された王女が外の世界で成長し、叔父の圧制に苦しめられた国を救うため立ち上がるお話である。


登場人物?は全員動物という設定で、動物の耳を付けたり、動物っぽい動きや鳴きまねをしたりと確かに子供受けもよさそうだ。

それに主人公の幼少時代から始まるため、子役の出番が多いのも特徴だ。


そんなわけで演目も決まったので、さっそくその道のプロに頼むことにした。


「かくかくしかじかでこういう企画をしています」


「いいよ」


即決。


「最近演劇業界はどこも不景気でね……そういうことなら是非ともやらせて頂きたいよ」


すすけた背中で遠い目をする元劇団員。


彼は日向先生に紹介してもらった舞台役者である。

ライオンクイーンで有名な「劇団季節」の元団員で、今はフリー。

叔父役を始め複数の役を長年演じたこともあり、この劇を知り尽くしている男だ。


「他のキャラや演出、美術の人とかも心当たりがあれば紹介して頂きたいのですが」


「みんな暇してるからいいよ」


どんだけ仕事がないんだこの世界。


「この企画が上手くいけば、新たな活躍の場ができるかもしれませんよ」


「おお、それはいいね。では業界の未来のため、全力で頑張らせてもらうよ」


本気の目だ。

相手が幼稚園児だからと手を抜くことはなさそうである。


「よろしくお願いします」


―――――――――――――――


「久遠様、会場が取れました」


「え、よく取れたね」


劇場というものは1年前から抽選会を行い予約するのが一般的だ。

アニメや漫画のように、急に思いつきでライブ開催したりは普通できないのである。

私と斎藤はどこか偶然キャンセルがないか、根気よく探すつもりだったのだが。


「月詠劇場です。丁度再来月が空いてると社長が」


「あ、うん、なんか察した」


ツクヨミグループが所有する劇場でキャパは2,000人。

かなりの大劇場を6日間。

埋まるのかこれ?

私は500席くらいのつもりでいたんだが、なんだか心配になってきた。

私やプロがいるとは言え、幼稚園の出し物だぞ?


始めは私の属する年少組だけで行う予定だったが(私の英才教育を受けてるため)、上の子にも経験させてほしいとのことで、年長組、年中組、年少組と分け、一日交代で2回転、6日間連続公演することになった。

当然私たちプロ組は全日出ずっぱりだ。

メインがプロだけというのもあれなので、一部の役はオーディションでもして園児に任せてもいいかもしれない。


―――――――――――――――


「って感じで今度舞台することになってさー。みんな来てくれる?」


私のチャンネルでも宣伝宣伝。


【絶対行きます!】


【ついに東京さ行ぐ時がきただか】


【6日だと12,000席?チケット取れる気がしないんだが……】


【めっちゃ楽しみ!】


「あははありがとー、会場ちゃんと埋まるかなぁ」


【無用な心配してる】


【絶対戦争だろ……】


【6日間じゃ全然足りないと思う】


登録数100万人いるから、ここの住民たちの1割だけでも来てくれれば助かるんだけどなー。


―――――――――――――――


「くーちゃん、今度の舞台ツクヨミグループがスポンサーになったから」


「高天原もスポンサーになったよ」


「え?」


一社でも充分すぎるのに日本トップ企業が同時に?


「スポンサー席として200席はツクヨミが確保したわ、全然足りないけどこれ以上は無理だって。社内で頑張った人にチケットプレゼントって言ったら、社員全員やる気出して大変なことになったみたいよー。外れても全員自腹で来るでしょうね、社内では今くーちゃんブームだから」


「うちも200席確保して似たような感じ、もう争奪戦だよ。久遠のことはもう社員全員に知れ渡ってるから、みんな来たがるんじゃないかな?」


どちらも社員推定100万人の大企業。

それが全員来たいという。


「CMとかも任せなさい。特集も組んでー、円盤とか配信販売も視野に入れた方がいいわねー、あ、グッズも作りましょう」


「絶対キャパ足りないから、地方の空いてるシアターでライブビューイングもするべきかもね。せっかくなら文化庁とか要人も呼んでさー、国家事業にしちゃおうよ」


そう言ってなんだかとんでもない話を当然のようにする父と母。


……あれ?


なんだか私が思うより大変なことになってない?


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