8、宣材写真を撮ろう
「ところで楓さんはなんでここにいるの?」
「ママは社長だけど会社経営なんてしたことないから、実質的な運営は楓に任せようと思って。
楓はツクヨミプロでも働いたことがあるから全部任せて大丈夫よ」
「楓さんはツクヨミプロではどんな仕事をしてたの?」
「主に社長の秘書ですね。他にも様々な部署のサポートに入ったり色々、社長不在時の代理をしたこともあるので、業務は全て頭に入っております」
やっぱり忍者だし万能なんだろうか。
「そうなのよ、楓は凄いんだから。私がいなくても全部回るわ」
まあ母は超名家のお嬢様だし、働いたことなんてなさそうだもんね。
「何をおっしゃいます。伊波様は幼いころから先見の明がおありになり、よくグループの経営アドバイスをよくしておりました。その手がけた事業は数知れず、どれもが大成功を収め、収益を10年で5倍にした実績を持つ経営の大天才でいらっしゃいます」
ただでさえとんでもない額の収益だろうに5倍⁉
「いやねぇただちょっと思ったことを口出ししただけよ。それで成功するならそれは従業員の努力よ」
「こんなこと言ってますが99%は伊波様のお力です」
「まあ実際に会社を持ったことはないし、今回は頼むわよ」
「承知しましたが……思ったことややりたいことは遠慮なく実行してくださいね。
ここは貴方の会社なのですから」
「ピンときたらね」
そういえば母の実家は神霊を使って占いとかしてるんだっけ。
だとしたら母の直感もそういった類なのかもしれない。
なんにせよプロダクションは決まった。
いくら私が超絶かわいくて天才でも、事務所が無名じゃ埋もれるだけだと心配してたけど、
そんな心配は杞憂そうである。
「さて、事務所も建てたしくーちゃんは無条件で所属。となれば次はいよいよ……」
「オーディション!」
「その前に宣材写真の撮影でございます」
あーあったねそんなの。
タケルも撮ってたけど、奴は自分の容姿にコンプレックスがあったからあまり積極的ではなかった様子。
「じゃ、スタジオに行くよー。予約とってあるから」
「わたくしはまだやる事があるので、これで失礼します」
しかし写真か……。
いいでしょう。
この私の美しさ。
しっかりと写真に収め、天原久遠ここにありと世に知らしめて上げましょう。
私は洋々とタクシーに乗り込んだ。
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アタシの名前は有栖川蘭子。
このスタジオワンダーランドを経営する社長兼カメラマンよ。
趣味が高じてこうしてスタジオを立ち上げ、
コツコツと実績を積み上げた結果、
今では芸能関係の撮影も任されるほどに成長したわ。
その趣味とはズバリ美少女を撮ること。
今この時、もっとも輝かしい少女たる瞬間を写真に撮り、収集し眺めるのがアタシの趣味。
え?ヤバいって?全然ヤバくないわだってアタシ女だし全然セーフよ
それにお客さんだって満足してくれるしwin-winよ女に産まれて本当に良かった!
さて、今日はお得意様のツクヨミプロ、の子会社だという新事務所からのオファー。
なんでも子役専門だという。
普段アタシの仕事は予約半年待ちだと言うのに強引に割り込んできた。
まあ割り込まれた相手は何度撮っても納得がいかず文句ばかり言うアイドルだ。
原因はアタシの腕じゃなくてお前の顔だっての、300%は美化されとるわ。
そんな相手だったのでキャンセルとなりスッとしたが、次の相手はもっとわがままかもしれない。
なんたってあのわがままアイドルを黙らせるほどのわがまま子役様だ。
いいでしょう。
アタシの腕を見せてあげるわ。
少女は誰だってみんな私のアリス。
どんなわがままなアリスでも美しく切り取り、
アタシのワンダーランド(コレクションルーム)の末席に飾ってあげるわ。
アタシは手入れの終わったカメラを担ぎ、さっそうと現場へ向かう。
(まっててね、新しいアリスを連れてくるわ!)
壁一面に張られた美少女写真達に向けて、アタシは手を振るのだった。
「本日はよろしくお願いします!エターナルプロダクション所属、天原久遠と申します!」
「え?あ、はいこれはご丁寧に、本日カメラを担当する有栖川蘭子です……」
撮影スタジオに移動したら既に待っていた先方から挨拶を受ける。
利発そうなお子さんだ。
3歳と聞いていたが、必死に覚えたとかではなく、ごく自然に言い慣れたような挨拶。
しかもかわいい、超かわいい。
え?めちゃくちゃかわいくない?
え、撮っちゃっていいんですか?
お金払わなくていいの?
ほんと?
むしろお金貰える?
は!そうだ、アタシはカメラマンだった。
好きなだけ撮っていいんだ!
この仕事やってて良かった!
「蘭子さん、かわいく撮ってくださいね?」
挑戦的な目で見つめてくる久遠ちゃん。
その瞬間、アタシの背筋に電撃が走る。
『この幼女……測っている!』
自分の撮影の腕を見極められているのを悟ったアタシは、ゴクリと唾を飲み込む。
久遠がカメラの前に立つ。
蘭子は心の中で叫んだ。
ただのかわいいアリスではない。
これは……女王のアリスだ!
撮影スタジオが一瞬にして玉座の間に変わったように感じる。
失敗すれば自分の首が飛ぶ。
久遠の愛らしい瞳がまっすぐ蘭子を射抜く。
アタシは女王陛下の前に呼ばれたしがない街のカメラマン。
今日は陛下の外交デビューのための写真を撮るのだ。
アタシの写真の出来によってこの国の未来が左右される。
「やれる……アタシならやれる!」
アタシはかつてない緊張感でカメラを構えるのだった。