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78、斎藤と5人の星々

「ご注文はお決まりですか?」


「私オムライス、美味しくなる魔法付きで」


「さ、斎藤さんの前では勘弁してください……」


「むぅ、残念、じゃあ普通にオムライスで、あとコーラ」


「私もオムライスとコーヒーで」


「かしこまりました。店長に休憩の許可貰ってきますね」


しばらくしてケチャップで「くおんさま♡」「さいとうさん♡」と書かれたオムライスと飲み物が運ばれてくる。

斎藤の方にはきっと裏で沢山ラブ注入されてるに違いない。


「お待たせしました、ではお席失礼します」


斎藤と久遠が横に並び、対面に美空が座る。


「ソラ、あれからどうしてたんだ?以前はスーパーでバイトしてると聞いたが」


今では敬語が板についた斎藤だが、久遠に会うまでは普通に若い男らしい口調だった。

今でも友人や昔の同僚などにはそう話す。

かと言って久遠に遠慮があるわけではない。尊敬のあまり自然に敬語になってしまうのだ。


「スーパーではメガネかけて変装してたんですが、誤解も解けたのでもう一度アイドルをやってみようと思ったんです。みんなにも声をかけて、仕事してる子もいたけど掛け持ちでいいのならって。でも斎藤さんはアパートからいなくなってて、連絡もつかないし……」


「あの時は全て捨てるつもりで、スマホは解約してデータも消したから……すまない」


「いえ、その後すぐエタプロにいるって分かったので。次期当主の久遠様がヨーチューバーになると従妹から聞いて、見てみたら斎藤さんが出てて心底驚きましたよ、しかもすごい怖がってて」


「あーうん、そこは忘れて?」


斎藤の生存と居場所は確認できた。

しかしエタプロは子役事務所。

大人の自分たちでは入れない。

それに義理堅い斎藤は、恩を返すまで絶対自分たちのためにエタプロを辞めたりしないだろう。

ならば自分たちだけでやるしかないと決意したスターリーステラ。


しかしそう簡単には行かなかった。

自分たちは殆ど斎藤に頼り切りで、何をしていいのかさっぱり分からなかったのだ。

色んなプロダクションに売り込んでみても、誤解とはいえ一度は炎上したアイドルだ、どこも採用には慎重だった。

美空だけなら、というところもあったがステラの5人でなければ意味が無いと断った。


そして上手くいかず露頭に迷っていた時、声を掛けてくれたのが地下劇場の支配人だ。

元ファンだという彼は、ステラがもう一度歌ってくれるならと格安でライブをする許可をくれた。


それからしばらくはフリーでやってみようと、手探りながら地下劇場でライブする日々を送っていたのだが……。


「そんな訳でライブ費用のためにここでバイトしてるんです。ここは地下アイドルが多く働く場所で店長の理解もあるし、アイドルオタクも多くて宣伝にもなるし、ここからファンになってくれる人もいるんです」


「そうだったのか……」


「でももうダメかもしれません、私ももう二十歳過ぎましたし、他の4人も最近集まりが悪くて……もう私が最後の一人?みたいな、あはは……」


「ソラ……」


うーんと考える斎藤。

なんとかしてあげたいが……。


「親族ならツクヨミプロには頼まなかったの?」


コーラをチューチュー飲みながら久遠が尋ねる。


「あーその……ツクヨミプロの社長って、私の母なんですよね……」


「ええ⁉」


「それなら、って事情があるからこうなってるのよね」


「ええまあはい、といってもそんなに複雑な話じゃなく、私が意地を張ってるだけなんですけど」


芸能関係の親を持った美空は、当然将来芸能人になるつもりで励んでいた。

社員には蝶よ花よともてはやされていたが、同期には大したことないと陰口を言われ、次第に自分が本当に実力で評価されているのか分からなくなった。

思いつめた美空は家を飛び出して他の事務所でデビューしたのだ。


「他社でデビューして人気が出た時は嬉しかったけど、結局それも斎藤さんのおかげで……結局自分の本当の実力ってこの程度なんです……」


「卑屈ねぇ」


「ソラは自分が思ってる以上に才能あるアイドルだ。でなければ俺が手伝ってもあそこまで人気はでない」


「そうだそうだ!」「ソラは最高のアイドルだ!」「お、おい……」


後ろで耳を澄ましていたファン達が我慢できずに声を上げる。


「みんな……」


「これだけ熱心なファンがいるなら実力の証明なんて充分だと思うけどね。あとは事務所に全部任せればいいのよ、どんなに才能があっても、人間一人の力でトップアイドルになんてなれるわけないんだから」


「そうだ、タレントの魅力を最大限引き出して、適切な場所を用意し、多くの人に広めるのが俺たちの仕事だ。顔が良くてパフォーマンスも完璧で、自己管理自己プロデュースが出来る人なんてこの世にい……ないこともないが滅多にいない」


久遠とか割とそうだと気付く斎藤。


「そうそう、本当に実力がないなら事務所の力使ってもダメだしね。だからあなたの実力はもう充分証明したわ。あとは使えるものはなんでも使って、存分に自分を魅せてやればいいのよ」


「斎藤さん、久遠様……」


「だからあなたはさっさとツクヨミプロに戻りなさい」


「う……でも母が許してくれるかどうか……」


聞いたところ別に喧嘩した訳ではなさそうだが、自分から飛び出した手前戻り辛いのだろう。


「まあ気まずいならうちのママが声をかければ一発だから」


あれでも月詠家の当主の娘、一族内ならかなりの発言力がある。

それでなくても一部では崇拝までされてるし多分いけるはず。


「ママ……って伊波様⁉あの方を頼るなどとんでもありません!」


「うーん、私もすぐ社長を頼るのは気が……」


能力がトンデモすぎて、簡単に頼ってはいけない神のような扱いを受けがちな母だが、なにも常に予知しているわけではない。

普通の相談なら別にいくらでもすればいいのだ。

と気軽に考え久遠はスマホを取り出す。


「まあまあいいから……あ、ママ?」


さっそく母親に繋ぐ久遠。

突然の展開にあわあわする美空。

こうなってはもう止まらないと合掌し目をつむる斎藤。


「はぇ⁉……あーうん、うん……あ、それいいね、うんわかったーよろしくねー……」


ふーっと若干疲れた顔で通話を終える久遠。


「さて美空」


「はハイ!」


「いつでもツクヨミプロに戻ってこいだって、なんと偶然うちのママ、ツクヨミプロの社長とお茶してたみたい。流石の私も変な声出たわ」


「ええ⁉」


「流石でございます社長」


より深く頭を下げる斎藤。

軽く相談するつもりだったのにもうすでに答えを持っていた社長、相変らず滅茶苦茶である。

社長に頼ればどんな難題も即解決するのだろう。


(でも社長には気軽に頼れない、恐れ多い何かを感じるんだよなぁ……。)


近しい親族や久遠はまったく感じていないが、一般人は伊波から答えを得ようとすると、何故か相当な覚悟が必要なのであった。


「それで斎藤」


「ハ!」


「ツクヨミプロに部分的に出向よ、プロデューサーとしてね」


「はい?」


「斎藤は私のマネージャーだからあげられないけど、プロデューサーとしてウチから向こうのスタッフに指示を出す形ならいけるでしょう?」


ブラックな昔の会社時代の斎藤は、マネージャーというよりほぼプロデューサーであった。

これからはプロデュースに専念し、久遠につく時だけマネージャーをすればいいだろう。

久遠はプロデュース自分でするし。


「え、えーと、マジですか?自分がプロデューサーに?うーん……似たようなことはしてたので出来なくはないと思いますが……」


「斎藤さんがプロデュースしてくれるんですか⁉」


外部からプロデューサーを呼ぶのも珍しくない。

斎藤はリモートでツクヨミプロのサブプロデューサーやマネージャーを手足のように使えばいいのだ。

伝説のマネージャーのやり方を学べるのなら、向こうにもプラスなはずだ。


「というわけでよろしく」


「えーっと、はい……」


「やった……!」


簡単そうに言うがものすごく大変だと思う。

斎藤が色々考えてたプランが崩れていく。


「それと美空、斎藤」


「「はい」」


「二人でステラのメンバーを説得して、全員連れてくることが条件よ、いいいわね?」


「はい!斎藤さんがいるなら絶対説得できます!」


「はい……」


やはりこうなったか。

細部は違うが久遠の言った通りになった。

というより久遠がこうなるよう動かしたということか。

未来予知とは違うが、久遠が宣言し実現させるなら、それはもうほぼ予言なのだ。

久遠にはその力がある。


(しかし久遠様は希望のあることしか言わない)


いつでも前向きで楽しい事が大好きな久遠は、ネガティブな予言などしないだろう。

だから斎藤は、多少仕事が増えて寝る時間が減っても、久遠の仕事にどこまでもついていこうと思うのだ。


それに、今回のことは斎藤にとっても良い話だ。

ステラのことはずっと気になっていた。

贖罪をしたい、もう一度彼女達を輝かせてあげたいと。

それが自分の手でできるのなら、最良の展開だ。


(まあ体力的な心配はあるのだけれど)


いざとなったら例の歯を携帯しようと斎藤は決めた。


「……よし!ソラ、また一緒にがんばろう」


「よろしくお願いします!斎藤さん!ありがとうございました!久遠様!」


「マジでステラ復活⁉」「まだ確定じゃないみたいだけど」「俺ら何でも協力するから!」「よかったねソラ!」「生久遠ちゃんのお嬢様モード、カリスマ凄いな……」「なんだかわかんないけど久遠ちゃんありがとう!」


聞き耳を立てていたファンや仲間のメイド、理解のある店長も立ち上がり、全員でおめでとうと拍手を送る。

頑張り屋な美空は、こんなにもみんなに愛されていたのだ。それこそアイドルに必要な素質だろう。


久遠は暖かい光景にうんうんと頷きながらも、

(ゲ〇ドウポーズからの拍手って、ちょっと面白いな)

と場違いな感想を抱き、少し笑った。



こうして斎藤と5人の星々の熱い青春アイドルストーリーが始まった。

愛と勇気と希望、努力友情勝利のそれはそれは語り甲斐のある素晴らしいお話なのだが、それは久遠の物語とは別のお話。


「なんで?教えてよ」


「恥ずかしいので勘弁してください久遠様」


ただこの半年後、ツクヨミプロダクションからとあるアイドルグループが復活。敏腕プロデューサーの元、快進撃を続け数年後、果たせなかった夢を叶えたことだけは、ここに報告しておこう。

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