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76、専属マネージャーのホワイトな一日 2

斎藤は久遠を乗せた車を走らせ一路月詠家へ。

今日は道場の日だ。


「よく来ましたな久遠様。今日は新しい技を教えましょうか」


「ほんと?やったー!」


どう見ても忍者な師範と楽しそうに飛び回る久遠。

霊力を利用し人間離れした動きをする二人だが、その光景も日常となって久しい。

道場には他にも数十人の徒弟がいて、各々稽古に励んでいる。

霊力が無い人用の一般コースもあるので、斎藤も着替えてそれに参加する。

久遠についていくのなら体力は必須だと悟り、本気で体を鍛えることにしたのだ。


「あ、斎藤さんお疲れ様ッス、今日は俺と組みませんか?」


準備体操をしていたら道場にいた三日月竹丸が話しかけてくる。


「いいのかい?お手柔らかにお願いするよ」


「ッス」


彼は久遠の一の下僕だと言う。

似たような立場同士魅かれ合うのか、竹丸はこうしてよく斎藤の相手をしてくれる。


「でね、幼稚園ではいつも送迎がカオスでね」


「は~、流石久遠様っスね、意味不明っス」


竹丸、というか月詠家全体が大概意味不明だが、まあ今更ツッコむまい。

むしろ久遠に仕えるのなら全て受け入れ積極的に教えを乞うべきだろう。

斎藤は持ち前の勤勉さで、一般人でありながら忍びのワザを身に着けていくのだった。



そんなこんなで稽古を終え帰路につく久遠と斎藤、しかし汗はタオルで拭くくらいで流さない。

何故ならこれからが本番だからだ。


帰り道にあるスーパー銭湯に寄る二人。

無言で車のドアをバタンと閉め、スタスタと回数券で受け付けを済まし、男女別に別れる。

素早く服を脱ぎ、そそくさと洗い場へ直行、ここで初めてシャワーを浴びる。


(ああ”~、やはり運動後はスパ銭に限る)


久遠に付き合いスーパー銭湯に通ううちに、すっかりハマってしまった斎藤である。

今では久遠に言われる前に地方の温泉を調べ、ここに行こうと提案するほどだ。


時間が無いため久遠に教わった通りの半分、サウナ5分水風呂30秒外気浴5分を3セットこなし、ジャグジーで体をほぐす。

本来なら2時間は入っていたいところだが、流石に遅くなるので1時間で出る。

合流した久遠も物足りなさそうだ。

また今度休日に、と無言で頷き合う。


帰りはファミレスで夕飯を食べる。

久遠はお子様セット、斎藤はビッグハンバーグセットだ。運動したから腹が減る。

久遠が「プレゼント」と言い、お子様セットの旗を斎藤のハンバーグにブスリと刺す。

「ありがとうございます」とお礼を言う。

食べ終わったあと、どうにも捨てがたく旗を丁寧にハンカチで包む斎藤であった。

これも仏壇に飾ろう。


ファミレスで今後の予定や計画を話し合い、終わったら久遠を自宅まで送り届け、斎藤は車を会社に返して帰宅する。


「ただいまー」


すっかり夜も深くなってしまった。

久遠の仕事は夜が多い。

それに久遠は銭湯も行きたがるし外食もしたがるので帰りはどうしても遅くなる。


「寝る前にチェックを済ませるか」


銭湯に入ったのであとは着替えて寝るだけだ。

一応明日の仕事の確認と、久遠のSNSチェックをする。

アンチが湧いたら即ブロックして警告である。


「よし、チェック完了。しかし最近はジム、もとい道場に行ってサウナも行ってるからか、気持ちよく寝れるなぁ。明日は取材もあるし頑張ろう」


こうして斎藤の一日は終わる。おやすみなさい。


なんというホワイトな職場。

終業時間は遅いとは言え、ほぼ趣味の時間のようなもの。

前の超絶ブラックな会社とは大違いである。


ただそれももうすぐ終わるだろう。

ドラマの大成功のおかげで久遠の名は大きく広まった。

ニュース番組の顔だしや雑誌の取材、バラエティの出演も控えている。


これから久遠様は忙しくなるぞ、私はあの方の覇道を支える一助となるのだ。

そのためにはまず……。

そうしていつも通り、今後のプランを考えながら眠る斎藤九郎。

ただそのプランは、久遠の突飛な行動よって大きく崩れ去るのだった、ホワイト生活と共に。



翌日。


久遠と斎藤は雑誌の取材の帰り、秋葉原で買い食いをすべく街をブラブラしていた。

写真も撮るため久遠は気合の入ったゴスロリ衣装、斎藤は執事然としたスーツ。

秋葉であっても完成度の高いコスプレは周囲の目を引き、思わずカメラを向けるが、それが久遠だと気付くとカメラを下げ無関心な振りをした。

久遠様を街で見かけても邪魔をしてはならない、その行いをそっと見守るべし。

それが久遠ファンの鉄則。

秋葉の住民の殆どが久遠ファンであった。


道中いかにもなアイドルショップの前を通り過ぎる。

元アイドルマネージャーの斎藤は、つい横目で店を追ってしまう。

それを見て久遠が呟く。


「そう言えば斎藤、スターリーステラだっけ?復活させないの?」


「え?」


スターリーステラは前の職場で最後に斎藤が担当していたアイドルグループだ。

人気も高く、もう少しで武道館というところで濡れ衣を着せられ、活動休止に追い込まれた。

容疑も晴れ、今なら復帰も可能だと思う。しかし……。


「うーん、ずっと気にはなっているし、どうにかしたいとは思ってるのですが……お世話になっているエタプロにそこまで迷惑は掛けれないといいますか……」


それにエタプロは子役事務所なので大人の彼女たちは所属できない。

復帰しても自分が担当することはないだろう。

それはなんだか寂しい。

それ以前に……。


「ふーん。ママに頼めばどうにでもなると思うけど」


「しゃ、社長に頼むなどとんでもない。それに彼女たちがまだアイドルを望んでいるかも分かりません。あんな目にあったことですし……普通に就職したり大学に行った子もいますし」


「なるほど、迷惑かけたから合わせる顔がないってところね」


「う……ま、まあその通りです……」


今更どんな顔して会いに行けばいいのか。

彼女たちには恩がある。特にリーダーには絶望していた時何度も励まされた。

それなのにその手を振り払って死のうとし、そのあげく幼女に救われてのうのうとホワイト生活だ。

気まずい、後ろめたい、申し訳ない。

もう自分には失望してるかもしれない、もう新しい人生を歩んでいるかもしれない。

そう思うと、斎藤は彼女たちを避けるようになってしまった。


「斎藤も数奇な人生送ってるよねー、物語にするならそう……第一部で陰謀により離れ離れになったマネージャーとアイドル。第二部ではそれぞれの道を歩み始めるも、心の中はトップアイドルを目指した日々が忘れられないメンバー達、やがてリーダーと再会したマネージャーは、彼女に励まされ、再び仲間を集めるの。昔のファンやライバルとの邂逅、夢を失ったメンバーの説得、そして最後には全員揃って小さい箱でライブして、改めて皆で武道館を目指すの!そこで第二部完!それで第三部は」


「く、久遠様その辺で……」


久遠のテンションが上がり、咄嗟に斎藤は言葉を遮る。


(ヤバい)


彼女はたまにこうなる。

久遠に自覚はないがテンション高く未来の話をする時、よく見ると目の色が変わっているのだ。


今のところ全て遠い未来の話なので確証はないが、斎藤は未来予知に近い何かだと思っている、だって社長がそうだし。

少なくともこの状態の話を聞くと、ほんとになるかも、その未来に向けて行動しようという気持ちになるのだ。


このままだと斎藤の青春アイドルストーリーが始まってしまう。

止めるか?いやもう確定してるのか?

軌道修正したらどうなる?いっそ身を任せて……。

と葛藤する斎藤の前に、メイド服を着た女性が近づいてくる。


「あの……」


女性が斎藤に話しかける。

そのことに列をなし密かに見守っていた(つもりの)久遠ファン達は「この一般人が!」と憤るも、一部のアイドルオタが騒ぎ出す、「彼女は……」「まさか…!」


「すまない今はそれどころじゃ……」


「もしかして斎藤さん?」


「え?」


懐かしさを感じる美しい声に顔を向けると、斎藤は目を見開く。


メイド喫茶の看板を持った客引きだろう女性。

可愛らしくも意志の強い目をした、共に頂点を目指し歩んだ戦友たんとう

そしていつか恩を返したい人。


スターリーステラのリーダー「新月あらつき美空みそら」だった。

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