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75、専属マネージャーのホワイトな一日 1

久遠のマネージャー、斉藤九郎の朝は早…くもなく普通だ。


時刻は朝7時30分、勤め先にほど近いアパート、その一室にアラームが鳴り響く。

斎藤は2秒でアラームを止め、モソモソと起き出す。


顔を洗い簡単に身だしなみを整えてから仏壇の前で正座をし、お経を唱える。


初任給で奮発して買った仏壇はそれなりの豪華さで、扉を開くと彼の担当タレント「天原久遠」の写真、それと高級な指輪ケースに入った青白く輝く齒が飾られており、お供え物の皿にはたまごボーロが置かれている。

久遠は別にたまごボーロが好物と言うわけではないが、彼の命を救った思い出のお菓子である。


たっぷり30分、仏と久遠に感謝と祈りを捧げると、眠気や昨日の疲れが取れ、不思議と意識がシャッキリし始める。


信仰の効果……ではなくおそらくこの歯の効果であろう。

久遠の霊気がしこたま込められたこの乳歯は、無病息災家内安全の効果があるだけでなく、500年後に20本全てを集めると何でも願いが叶うという曰くつきだ。

この歯のお陰で斎藤は疲れ知らず、病知らずで健康な日々を送っている。

恐るべき効果であるが、この歯を巡るであろうアレコレを考えると頭が痛い。


今はまだこの一本だけだが、オークションに社長のご実家、月詠家が参戦してくるのは間違いない。

歯の効果を正確に把握してる日本トップクラスの大富豪が、一体いくらで落札するのか。

最終的にどうなってしまうのか、今から戦々恐々である。


ちなみに久遠が普通の石に霊気を込めてもこうはならない。

元々久遠の体の一部だった歯だからこその効果なのである。


お経が終わったら朝食を食べ、食後のコーヒーを飲みながら今日の予定を軽くチェック。


(今日は久遠様の仕事は無しか……午後に稽古があるから迎えに行ってその後は……)


ニュースを見たり少しボーっとしてから8時40分に出社、徒歩5分だからこそ出来る優雅な朝である。


「おはようございます」


「斎藤さんおはようございます!」


事務所に入ると同僚に元気に挨拶される。


「斎藤さん少し相談があるのですが」


「ええいいですよ」


斎藤はマネージャーとしてそれなりに名の知れた存在のため、よくマネージャーの同僚に相談される。


「なるほど!流石斎藤さん、頼りになります!」


「いえいえ」


「斎藤君これどうしたらいいかね」


「これはですねー」


他の部署の人からも相談を受ける。

前の会社ではマネージャー業だけでなく、一人で色々やらされていたので割と何でもできるのだ。

斎藤のメインの仕事は久遠の専属マネージャーであるため、久遠が幼稚園に行っている間や仕事が無い時は、こうして何でも屋として必要な所にヘルプに入ったり、各所に連絡を入れたり、交渉をしたりと様々なことをしている。


それなりに大変な仕事であるが、それを楽々こなす斎藤は同僚たちから非常に尊敬されていた。


(前の職場に比べると楽すぎて心配だ、こんなに簡単でいいんだろうか)


前職より遥かに楽をしているのに業績はうなぎ登り。

これも全て社長の采配のおかげだろう。


社長が「あそこの会社、子役を必要としてる気がするわー」と言うので営業をかけてみると、面白いほど簡単に仕事を取れるのだ。


相手の社長も「え?なんで分かったんですか?怖い」と驚いている。


(私も怖い)


普段はポワポワしてる社長だが、その仕事ぶりは有能を通り越してもはや神。

この事務所では絶対の存在としてあがめられている。

そんな社長だが近々産休に入るらしい。

おめでたいことだ。


社長が産休となると業務に支障が出そうなものだが、普段から雑務はメイド、もとい社長秘書の榊原楓女史がやっていて、本人はゴロゴロしてたまに口を出す程度なので問題はない。

産休中は必要があれば電話をしてくる手筈だ。

じゃあずっとリモートでいいじゃんと社長はごねるが楓が却下している。


そんな楓だが、暇を見つけては斎藤に秘書の仕事を教えている。

斎藤は何で?と思うが楓が「将来絶対必要になるから」と言うので従う。


(そう言えば久遠様は月詠家の次期当主だと言うから、その為だろうか)


当主の秘書など想像もつかないことだが、もとより久遠に忠誠を誓った身、何処までもついていく所存である。


(それに他の人が秘書に就くのも面白くないしな)


どんな仕事であっても久遠の右腕は自分でいたい。そんな独占欲もあり、斎藤は真面目に秘書の仕事を学ぶのだった。

後日、高天原関連の仕事の秘書も兼任することになり、流石に過労死を意識することになるのだが、それはまた別のお話。


さて昼も過ぎ、そろそろ幼稚園が終わる時間、斎藤は社用車で久遠のお迎えに行く。


「先生、お疲れ様です」


「あ、斎藤さんお疲れ様でーす。くおんちゃーん、斎藤さんきたよー」


「はーい」


教室からとてとてと久遠が現れる。


すると園児たちが並んで道を作り、全員でお見送りを始める。


「くおんさま、今日もお疲れ様でした!」


「くおんさま!おけいこ頑張ってください!」


「くおんちゃんまたねー」


「くおんさま!またご指導お願いします」


その中を威風堂々と手を振りながら通り抜ける久遠。


親御さんも子供の後ろで拍手をしている。


いつもの光景だが相変わらずカオスである。

一体久遠様は幼稚園でどうお過ごしでいらっしゃるのか。

久遠に聞いても「普通に過ごしていただけ」としか答えない。

遠い目をしながらも、同級生を羨ましいと思う斎藤だ。


久遠が近づいて来たので斎藤は車のドアを開け、恭しく頭を下げる。


「お迎えに上がりました久遠様」


「ええ斎藤、ご苦労様」


皆が見守る中、ここでへまをするわけにはいかない。

斎藤は楓にならった秘書スキルを総動員し、精一杯出来る使用人を演じる。

久遠としてもこの状況はまんざらでもなく、髪をかき上げたりしていつもよりお嬢様を気取る。

ふわりと乗った久遠の乗車を確認し、斎藤は静かにドアを閉め、聴衆に向かって一礼。何故か拍手が鳴り響く。

運転席へ戻り、ゆっくりと発進。


まるで漫画の中の世界のよう。

走り去る車を見て、残された親御さんや先生は溜息をつく。

園児たちもよくわからないが凄いものを見た、と目を輝かせている。


日々の日常にも娯楽を提供するエンターテイナーな子役久遠と、それを察して付き合う有能なマネージャー斎藤だった。

※ものすごく長くなったので分割します!

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