73、天原の従兄姉たち
※70話の総帥視点の話で、総帥が孫は男ばかりとか言っていましたが、いとこが男ばかりなのもあれなので少し改変しました。
引き続きパーティー会場である。
無事挨拶を終えた私は料理の置かれたテーブルに直行。
ざわめく会場を横目に、一人ローストビーフを山盛りにしてもきゅもきゅと食べていた。
ちなみに立食形式だ。
うん、美味い、ていうか美味すぎる。これが最上級のパーティーで出されるローストビーフか……、
私が静かに感動に打ち震えていると、男の子がこちらにズカズカと歩いてくる。
「おい、お前」
「はい?」
「総帥を目指すなんて本気か?俺よりも小さいのに」
「ええ本気です」
「そうか、ならお前は俺の敵だ!」
それさっきも聴いたな。
とりあえずお皿を置いて相手と向き合う。
「もしかして私のお兄様でしょうか?」
「お、おに……⁉ああ、俺は高彦父様の息子、高明だ」
「そうでしたか。従妹の久遠です、よろしくお願いしますね?高明お兄様」
「お、おう、なんだかやりにくいな……とにかく父様の邪魔をするな!次期総帥は父様に決まってるんだからな!」
ふむ、改めて従兄らしい高明を見る。
高彦伯父さんを幼くしたような見た目で、鋭い目をした少年だ。
歳は9歳くらいか。
この年頃の男の子らしく、父を尊敬し、父の真似をしているのだろう。
だが伯父は伯父で、信念を持ってあの態度なのだ。
表面を真似しても、ただの嫌なやつなだけである。
「そうですね。私よりも総帥に相応しければ、自然と伯父様が総帥に収まるでしょう」
「なんだよ、父様が総帥に相応しくなっていうのか?」
「いえいえ、伯父様は総帥に相応しいと思いますよ?ただ、私の方がもっと相応しいと思ってるだけです、あなたの父より、ずっとね」
「なんだと!この、女のガキのくせに!」
挑発にのって私に殴りかかる勢いの従兄。
ククク……さあ私に勝負を挑むがいい、返り討ちにしてお前も竹丸のように下僕にしてやろう!
「まあまあ兄さん落ち着いて」
私が目を見開いてワクワクしていると、いつの間にか近づいていた男の子が高明を止める。
「チッ……」
命拾いしたな高明。
「怖いなぁ、僕は辰也。辰巳父さんの長男だよ」
「初めまして辰也お兄様、久遠です。あなたの父と同じく、次期総帥を目指しています」
止められた恨みを込めて、少し挑発してみる。
「あはは、僕は敵対するつもりないから、仲良くしてね」
「あら?うふふ、ええ従妹として仲良くしてくださいませ」
あのチンピラの息子とは思えないくらい爽やかで穏やかな、王子様のような少年だ。
歳は高明の一つ下といったところか。
一見優しい男の子だが、こいつは相当な腹黒と見た。
幼いながらもかなり頭が回りそうで、要注意人物だろう。
そして……
「くおんちゃん!」
「おわっ!」
辰也の隣りにいた派手なドレスを着た少女が私に抱きついてくる。
「はわー本物ですわ!くおんちゃんがわたくしの従妹だなんて!なんてハッピーなんでしょう!」
「え、えっと?」
推定従姉からの好感度が最初からMaxな件。
「妹は君のファンでね、さっきから声を掛けたくてウズウズしてたんだよ。ほら木花、挨拶」
少女はハッとしてホールドを解除し、優雅にお辞儀をする。歳は6歳くらいだろうか。
「失礼しました。わたくしは辰巳お父様の長女、天原木花ですわ」
思ったより丁寧に挨拶をされたので、私も負けじと丁寧に挨拶を返す。
「凪の娘、天原久遠です、木花お姉さま、よろしくお願いしますね」
「お、お姉さま……わたくし、妹が欲しいとずっと思ってましたの!しかもそれがくおんちゃんだなんて……」
「久遠と呼び捨てでいいですよ、お姉さま。私も姉が欲しかったので嬉しいです」
「まあ久遠……!久遠もわたくしを本当の姉と思って接してくださいな」
「ありがとう木花お姉さま。お姉さまは可愛いですね」
思わずホストみたいなことを言ってしまった。
だってこのお姉さまほんとに可愛いし。
「も、もう、久遠ったら……」
もじもじしてる、かわいい。
しかしこれが従兄弟たちか。
私が総帥戦を勝ち抜くにあたって、まずは敵対する従兄弟を懐柔、あるいは服従させてやろうと思っていたが、存外普通に仲良くやれそうである。
高明は敵意丸出しだが、こういう相手は得意な方だし。
問題は辰也。
頭が良さそうだし、場合によっては協力者となりえそう。
でも土壇場で裏切って、自ら総帥に名乗りを上げそうな怖さもある。
とりあえずはスキを見せずに、私に協力した方が得だと示し続けるのがいいだろう。
と木花に抱きしめられながら考えている私。
いかんいかん、私ったらまだ4歳の美幼女なのにこんなこと考えて。
私も子供らしくキャッキャッと遊びたいですわ。
む、お姉さまの口調が移ってしまった。だってキャラ濃いんですもの。
「ね、ね、久遠、今度うちに遊びに来なさいな」
「いいですよお姉さま、何して遊びます?」
「だったら……」
「ふん、無能が」
「は?」
私達がイチャイチャとじゃれていると空気を読めない男、高明が悪態をついてくる。
私ではない、木花に向かって。
「今、なんと?」
「無能が騒いで耳障りだと言ったんだ。だいたいそいつは敵だぞ、仲良くしてどうするんだ」
へー、ほー、ふーん、今日は見逃してやろうと思っていたが、どうやらコイツはどうしても私の下僕になりたいらしい。
私が手をポキポキしながら高明に向かって歩くと、木花がフワッと手を包み込んで止める。
「いいの、久遠、本当のことだから」
「はぁ⁉でも!」
「わたくしね、才能がないの……」
「え?」
「そいつは天原なのに才能がない無能なんだよ。一族の面汚しだ。こんなやつが従妹だなんて」
「お前少し黙れ」
「っ……⁉」
思わず素が出て睨みつけてしまう。
止めようとしていた辰也も動きが止まる。
きっとこうして何度も妹を庇っていたのだろう。
だが今回は私に任せてほしい。
「才能、ないの?まだ開花してないとかじゃなくて」
「うん……おじい様に見てもらったから間違いないと思う……お父様もお兄様も気にするなっていうけど、わたくし……」
天原家だからと全員が才能持ちというわけでないらしい。
しかしそうなると辰巳伯父さんの反才能主義は、娘を想ってのことかもしれないな。
才能ねぇ……
「お姉さま、お姉さまはむしろラッキーです!特別な存在です!」
「え?」
「才能なんてあっても、それに縛られて将来が決まってしまうようなものです!そんなのつまらないじゃないですか、才能がないなんてむしろ自由!お姉さまは何にでもなれるのです!」
「自由?でも才能がなければ何も上手くできないわ……」
「何言ってんですが、この世の中、才能がないのに活躍する人はごまんといます!才能ある人の方が稀です、天原家がおかしいのです!」
月詠家もおかしいが、天原家も別の方向で異常だ。
産まれた時からこの家にいたら分からないかもしれないが、凡人のタケルの記憶がある私ならこの異常さがよくわかる。
「それに私はお姉さまが無能とはとても思えません。先ほどの挨拶の姿勢や言葉遣い、とても幼女のものではありませんでした。これを習得するまで、相当努力をしたのでは?」
実際かなり洗練されてたし、言葉遣いも丁寧だ、ですわ口調だけど。
「それは、まあ、せめて行いは恥ずかしくないようにと頑張りましたけど……」
「やっぱり、お姉さまは努力の才能がおありです!それがあればなんにでもなれる、万能で最強の才能です!」
「努力の、才能……」
月並みな慰めのようだが、実際私は努力すれば何でもできると思っている。
まあ天原のとんでもな才能を目にすると、その考えも揺らぎそうになるが。
今回はそこは置いといて、私は勢いのまま押し通す。
「ええ!普通の幼児は到底お姉さまのようには出来ません!これって絶対すごいことですよ!お姉さま、将来なりたいものはなんですか?」
「ま、まだ考えてないけど、でも高天原で働いて、お父様のお手伝いをしたいと思っていますわ」
「だったらいっぱいお勉強しましょう!お姉さまの力ならきっと何でもできる凄い人になりますよ!大幹部間違いないです!あ、総帥は私がなるので譲りませんけどね?」
「まあ!……ありがとう久遠。そうね、特定の才能がないのなら努力次第でなんにでもなれる、か。うん、今までずっとモヤモヤしていたけど、何だかすごくスッキリした気分だわ」
なんとか説得出来たかな。
しかしこういうことになると口がよく回る。
これで人の役に立つのなら、扇動の才能というのも悪くない。
「ふふ、私、動画でいつも前向きな久遠を見て憧れてましたが、本物の久遠もやっぱり素敵な子で、もっと大好きになりましたわ!最高よ、久遠!」
そう言ってまたも抱きついてくるお姉さま。
「あはは、元気になってよかったです」
「チッ……」
そんな私たちの様子を見て、高明が舌打ちをする。
こいつも矯正が必要だろうか。
「兄さんはちょっと僕と話そうか」
「う、辰也……」
そう言って辰也が高明の肩を掴む。
「この兄のことは任せてよ久遠ちゃん。木花のことありがとう」
「ええ、次会う時はもう少しマシな人間にしておいてください」
「ははは、任された」
「なんだよお前ら……!」
そのまま高明を押して何処かへ連れていく辰也、笑顔が怖い。
辰也は読めない男だが、少なくとも妹想いではあるようだ。
「さて気を取り直して、と。お姉さま、ローストビーフを食べましょう」
「クスクス、さっきあんなに食べてたのに?」
こうしていとこ同士の顔合わせは終わった。
この先敵となるか味方となるかはまだ分からない。
でも私は、せっかくなら仲良くなりたいなと思うのだった。