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71、後継者たち

「というわけなのだよ」


「へー」


宿敵が自分の父だったという衝撃の事実を知り、ありったけのコンボを叩き込んだあと。

応接間のふかふかのソファに座り、祖父から父の悲しき過去を聞かされた私。

きっかけこそ父だが、それをネジ曲げ、世に蔓延させた者こそが真の敵ということか。

どうやら私のガチャ根絶の旅は新章に突入したようだ。


「ひどいよ久遠……」


「つーん」


世界に蓄積されたガチャの恨みはこんな程度ではないのだ。

でもまあ、反省はしてるみたいなので一応許してやろう。

私は霊力で父の傷を治してあげる。


「おお……これがあの……」


「え?」


「ごほん、いや何でもない。ところで今日は何しに来たんだ?ただ孫を紹介しに来たわけではないだろう?」


「ああそれは……」


と父が放そうとしたら突然ガチャリとドアが開いて2人の男が入ってくる。


「失礼します、父さん」


「親父、邪魔するぜー」


「お前らもノックしろ……」


日本トップ企業の総帥なのに軽んじられすぎである。


「父さんこの前の話……む、来客中でしたか……いや、もしかして凪、か?」


「おお!ほんとだ凪じゃねえか!いや何でそんなボロボロなの⁉」


「やあ兄さんたち、久しぶり」


どうやら父の兄弟らしい、ということは私の伯父か。


「この子供はもしかして……」


「ああ娘の久遠。久遠、この二人は俺の兄、つまり伯父さんたちだよ」


「初めまして、天原久遠、4歳です」


「そうか、私は天原高彦(たかひこ)、君のお父さんの上の兄だ」


メガネにオールバックで目つきの鋭い男。スーツもきまっていていかにもエリート風だ。


「俺は下の兄の辰巳たつみ、よろしくな」


もう一人は金髪ピアスのダボっとしたチンピラ。

え?一応お坊ちゃまだよね?なんでグレちゃったの?


「はい、よろしくお願いします」


よかった、けっこういい人そう。


「ふむ、小さいのにしっかりしている。ところで久遠、君の才能は?」


「え?えーと、記憶力が良い?」


「そうか……便利であるが地味だな」


その瞬間、高彦伯父さんの私への興味が下がった気がした。

なんだ?


「なあ久遠ちゃんってあの子役の?最近ドラマで話題になってた」


「ええ多分そうです、子役やってます」


「おおスゲーじゃん!流石凪の娘!そうか記憶力がいいなら天職だな!」


「ほう役者か……芸能人はうちでは珍しくないが、確かにその方向でなら……」


高彦伯父さんの興味が上向いた気がした。

ええー?なんなの?


「これやめんか!すまんな久遠、コイツは才能至上主義でな。才能で人を区別する困ったやつなんだよ」


「当然です父さん。この世界は才能のある人間の下で、適切に管理されるべきなんだ」


伯父さんエリート思想拗らせたやべーやつだった。


「兄さん相変わらずだねぇ」


「その点凪は素晴らしい。コントロールが効かないのは難点だが、その才能は突出している。で、今回は何を成功させたんだ?」


父のことは一応認めてるのか。

兄弟仲は悪くない様子。


「そうそう、たこ焼き屋やってたんだけどさ、飽きたから次の仕事貰おうと思って」


「た、たこ焼きか。まあいい次だ、次は半導体なんてどうだ?最近外国勢力も調子づいてきてな」


「うーん、興味ないなぁ」


「たこ焼きってもしかしてたこ焼き高天原⁉急に出てきたから驚いたけど、凪が関わってたなら納得だわ。相変わらずヤベーな……じゃあ次は金融はどうだ?お前の才能で革命を起こそうぜ」


「興味ない」


「今度はたこ焼き部門が増えたか……ふーむ、レストランはどうだ?外食業は興味あるだろ?」


「しばらくはいいかなー」


才能はものすごいが気分屋の父に色々やらせたがる親族たち。

猫の機嫌をとろうとする飼い主みたいな光景だな……。


「じゃあさーパパ、スマホ作ってよ。Pフォンを駆逐するような女子受けするやつ。私も協力するからさ」


「あ、いいねそれ、それやろう」


「ほんと?やったー」


「「「⁉」」」


私のPフォン駆逐計画が、現実味を帯びてきたぞ!


「あ、あの凪を動かすとは……娘とはいえ……」


「今まで何度もスマホすすめても断ってたのに……⁉」


「流石久遠ちゃん……天使!」


「?どうかしました?」


「い、いや何でもない。そうかスマホを選んでくれるか、ではさっそく席を空けてこよう」


「えらいことになったぞ……親父、話はまた今度で!」


そう言って伯父たちは出て行った。

なんだったんだろう。


「はぁ、まったく……すまんな騒がしくして」


「いえ……あれが私の伯父さんですか。高彦伯父さんが長男ってことは、次の総帥は高彦伯父さん?」


「いや、うちの総帥は必ずしも長子がなるわけじゃない」


そう言って高天原グループの総帥について説明する祖父。

どうやら一族の中から適した才能と人格を持つものが選ばれるらしい。

でも基本は本家の人間がなるようだ。


「才能で言うなら凪だが、気まぐれすぎて向いてない」


「まあそうだね、俺も嫌だし。兄さんたちに任せるよ」


「かと言って高彦はあの性格だから任せたくない。才能はまあ悪くないのだが」


「才能至上主義者はヤバそうですね」


「辰巳はむしろ才能には否定的だな」


「そうなんです?」


「自分の才能が気に入らなくて拒否してるんだ。だが向いてないことをしても結果は出ない。今までいくつか会社を任せてみたが、どれも上手くいかないのだ。まあ気持ちは分かるがな、天原家の人間は良くも悪くも才能に振り回される」


なるほどなぁ、辰巳伯父さんはそれでグレてしまったのか。

でも反骨心はありそうである。


「困ったことに2人とも次期総帥を狙っているんだ」


はぁ~、と溜息をつく祖父。


「辰巳伯父さんは割といい総帥になるのでは?」


「いや、思想は立派だが、天原の天才たちをまとめるには適した才能がないととても勤まらん」


どんだけ問題児揃いなんだよ。


「他の親族は?沢山いるんですよね?」


「全員総帥なんて死んでも嫌だと拒否したわ。あいつらはとにかく自由奔放で癖が強いんだ。はぁ、さっさと後継者を決めて、楽隠居したいんだがなぁ」


ふーむ。色々問題がありそうである天原家。

祖父も後継者がこれではお困りだろう。

というかもうこれ……


「じゃあ私がなってもいいですか?次期総帥」


「何?」


「ちょ、久遠?」


さっきから聞いてると私でもなれる気がしてならない。

お困りなら私がやった方がいい気がする。

日本トップの高天原グループ総帥、もしなれれば色々と楽しいことが出来そうだ。

目の前で特大の餌をフリフリされたら飛びつかずにはいられない私である。


「いやいや、久遠は月夜家の次期当主じゃないか」


「月詠家の次期当主⁉」


「社長掛け持ちとかよく聞くし、できそうかなーって。それに私がいれば両社と色々提携したりして、面白くなりそうだし」


「う、うーむ。とんでもない話になってきたな……」


「可能なら確かにうちにとってプラスだけど、大変だよ?」


「まあ記憶力がいいだけだと、ちょっと難しいかもしれないけどさ」


この才能で天原家の天才達に太刀打ちできるかどうか……。


「それなんだが久遠」


「はい?」


「儂の才能は『人間の素質を見抜く』というやつなんだが」


え、すごい、それ鑑定じゃん。


「まあなんとなく分かる程度だけどな。久遠を見てみると、どうももう一つ才能がありそうなんだ」


「ほんとですか⁉」


流石私だな。既に十分チートなのにさらにチートを重ねてしまうとは。

確かに父のとんでもな才能に比べ私の才能は地味だと思っていたんだ。

この第2の才能こそが天原家の真の力に違いない。

で?その驚くべき才能とは?


「おそらくだが、久遠には”扇動”の才能がある」


「扇動?」


「人を思い通りに動かす才能だな」


マジかよ。

絶対遵守の王の力じゃん。

流石にそこまでいくと人間離れしすぎて怖いんだけど。


「そんな超能力のような力ではない、あくまで才能。人をノせるのが上手い、くらいだな」


「あー、確かに。なんか久遠に説得されると、すごいその気になるんだよね」


そう言われてみると私も心当たりがある。

お渡し会とか動画配信とか幼稚園での演説会とか、みんなノリいいなーと思ってたけど、あれは私の才能だったのか。

しかしノせるのが得意とか、まさに役者向けの才能だ、それに……。


「総帥に適した才能だな」


私なら天原家の問題児たちをコントロール出来るかもしれない。

俄然私が次期当主やった方がいい気がしてきた。


「じゃあ本当に私が目指しても?」


「えーマジで目指すのー?」


「そうだな、やってみるといい」


「やった!じゃあ……」


「ただし、次期総帥は指名ではなく多数決だ。この高天原グループで働き、結果を出し、一族に認められなければならない。久遠はまだ4歳だろう?伯父たちに比べると不利だが……」


「うーん、まあ子供なりにやってみますよ」


「そうか。儂は立場上贔屓ができんが、期待してるぞ」


「はい!よろしくお願いします、おじい様!」


「お、おじい様……!(久遠ちゃんが儂のことを……すごくイイ!)」


「はい、これから偉い人とも沢山会うだろうから、お嬢様らしく行こうと思ったんですけど……変でした?」


「いや!悪くない、悪くないぞ?うん、おじい様で頼む」


「はい!おじい様!」


「父さん……我が娘ながら末恐ろしい……」


こうして私は日本トップ企業、高天原グループの次期総帥の座をかけ争うこととなった。

大女優兼月詠家当主兼高天原グループ総帥。

きっと前代未聞の波乱万丈な人生になるだろう。

それってすっごく楽しそう。


私はワクワクな未来に胸を躍らせ、ビルを後にするのだった。

実現したら常人には到底不可能な程の、超絶過重労働が待っているとも知らずに。


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