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70、総帥、天原高千穂

儂の名前は天原高千穂(たかちほ)、日本に君臨する巨大企業「高天原グループ」の総帥だ。


高天原グループは家電をはじめ、メディア、金融、医療、ホビーなど多岐にわたる事業を展開しており、今も尚拡大し続けている。


それと言うのも、我が天原家は“天才が生まれやすい”家系だからだ。


その才能は実に多様で、剣の達人の子が商人になったり、職人の子が芸術家になったりと、親の才能など関係なく発現する。才能は完全にランダムで、一人に複数現れることもある。


そんな天原家であるが、天才と〇〇は紙一重とも言う。

我が一族の人間は、みな癖が強く、興味のないことには一切関心を示さない。作っても売らない。売れても続けない。

なので産まれた子は才能を伸ばすべく得意なことを好きにやらせ、成果をグループとして引き取っていく内に、高天原グループは何でもありの大企業に育ってしまった。


高天原グループ総帥とは、一族の中からまとめ役に適した才能をもつ者が就き、問題児たちを適切に配置し、調整し、まとめ上げる超絶ストレスフルな役職である。


だから……


「総帥やめたい」


これは儂が1日10回は口にする言葉だ。そうぼやきながら、豪華な会長室の椅子にふんぞり返りPCで日課のYo!Tubeを眺める。


最近の推しは天原久遠。

ドラマ「リトルブレイバー」でミオ役を演じた子役だ。

あの堂々とした演技とめちゃくちゃな展開に興味を持ち、調べてみたら配信もしているというので見たらどハマりしてしまった。


天原姓だしうちの血縁かもしれんな……。


今では分家も多く、野に出た親戚も沢山いる。

オリンピックのメダリストが「実は血縁でした」なんてことも珍しくない。


『みんな~こんばんわ~久遠で~す、今日はモンパラのガチャ配信しまーす』


【くおんちゃーん】


『ぐあぁぁぁ!』


【無茶しやがって……】


画面の中の久遠ちゃんは今日も元気にガチャで爆死していた。

天真爛漫でかわいい。


「はぁ~こんな子が孫だったらなぁ~」


儂にも子供がいて孫もいる。

しかし長男次男は性格に難があり、三男は5年前に出てった切り一度も顔を見せに来ない。

上二人には子供もいるが、どの子も将来が心配になる要素がある。

まあ可愛くないわけではないし愛してもいるが、それはそれ、これはこれである。


そういえばガチャと言えば三男の凪である。


凪は昔からゲームが大好きで、子供の頃からグループのゲーム部門によく顔を出していた。

凪には商才があり、どうすればより売れるか、よりウケるかを的確に意見し、社員にも可愛がられていた。

それで大成功したゲームも多い。

モンスターを狩るゲーム、森を開発するゲーム、カードゲームも凪が関わっている。


だが、凪は天才すぎた。


スマホが普及しだし、時代はスマホゲームだと企業は開発を急ぐも、イマイチパッとせず行き詰まる社員に向けて、凪が言ったのだ。


「ガチャってさ、すごい可能性があると思うんだ」


ガチャガチャの中毒性、射幸性に注目した凪は、スマホでガチャのような楽しいゲームが出来るかもと軽く提案したのだろう。

しかしそれをきっかけに出来上がったのは、えげつない悪魔の集金システムだった。


ガチャは面白いほどスマホゲームにハマり、とんでもない売り上げを叩きだした。

それを見た他社も真似をしだし、次々と大成功。

次第にメーカーは低予算で簡単に稼げるスマホゲームばかりを作るようになり、凪が楽しみにしていた大物タイトルも続編はスマホで出るようになった。

日本が誇るゲーム業界は、ガチャに染まってしまったのだ。


それに、凪は絶望した。


ゲームを心から愛していた凪にとって、自分の提案が文化を壊す原因になったことは耐え難かったのだろう。凪はゲーム事業から離れ、無気力になった。

あいつの才能はものすごいが影響力が強すぎたのだ。


その後凪は、ふらりと現れて興味を持った分野で仕事をしては、成功させて去るという妖精のような生き方をするようになった。


フィットネス、タピオカ……どれも大成功しているのが恐ろしい。

ただ興味をもった事しかやろうとはせず、こちらが「これをやってほしい」と頼んでも、一切やる気を見せなかった。

まあ、それも天原家らしい。


なので凪には好きにやらせ、放置することにした。


その結果いつの間にか月詠家の娘と結婚し「ちょっと新婚生活漫喫してくる、5年くらい」と家を出て行った。

自由すぎる。

そろそろ5年経つが、いったい今どうしているやら……。



「ただいまー」


そんなことを考えてたらいきなり凪が帰ってきた。


「ノックぐらいしろ、凪」


あまりに自然に入ってきたので、思わずいつも通りに返してしまった。

でもまあ、元気そうで何よりだ。


「まあいいじゃん今更。それよりほら」


凪が連れてきた小さい女の子を前に出す。


「娘の久遠」


…………は?


「あ、えーっと、久遠です……」


久遠ちゃん⁉

アイエエエーー⁉ナンデ⁉久遠ちゃんナンデ⁉

えまってまって?凪の娘ってことはじゃあ……


「…………儂の、孫?」


「えと、多分、はい、孫です」


マジかよ。


5年ぶりに帰ってきた三男の娘で孫が推しの女の子だった件。


「……そ、そうか、儂はお爺ちゃんだ、会えて嬉しいよ、久遠」


動揺しながらも、必死に平静を装って言葉を返す。

そっかー、久遠ちゃんが孫かぁー。

そっかー……。


うおぉぉーーーでかしたぞ凪!

お前はほんと昔っからできる奴だったが、今日ほど誇らしく思ったことはないぞ!


そう思って改めて孫を見ると困惑しつつも色々飲み込んで納得している様子。

動画で見た通り本当に頭が良さそう。

流石儂の孫、間違いなく天原の血。

ああーかわいい。

孫というのはなんでこんなに可愛いのか

もう何でも買ってあげたい。

ジジになんでも言ってみ?

女の子だしやっぱり服かな?

そういえばあのアパレル会社経営が苦しいって言ってたし、買収して会社ごと……。


と色々妄想しているうちに凪がボコボコにされていた。

そういえば久遠ちゃんはガチャ配信で爆死するたび、発案者を殴りたいとよく言っていた。

その発案者は華麗なアッパーカットを喰らって宙を舞っている。


「ぐはーーー!!!」


「この!諸悪の根源め!」


うむ、見事な昇〇拳だ。

悲願の叶った爆笑シーンを今、儂だけが見ている。

すまんファンのみんな、久遠ちゃんは儂の孫なんでな。

儂は申し訳なさと優越感に包まれながら、せめて動画に撮ろうとスマホで息子が殴られる様子を撮影した。


……さて、そろそろ止めるとするか。

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