67、閑話 くおんちゃんねるお誕生日回
これはドラマの撮影が始まって、しかしまだ放送はされてないある日のこと。
「こんばんわ~久遠で~す」
【ハジマタ!】
【キターー!】
【久遠ちゃん誕生日おめでとー】
「おおー、ありがとー」
【え⁉久遠ちゃん今日誕生日なの?】
【おめでとう!】
【くおんちゃんなんさいになったのかなー?】
「えへへ、4ちゃいです!」
【あざとい】
【あざとい】
【おかしいな、年相応の返しのはずなのに……】
【なんだろうこの違和感】
「なんでよ!」
今日は私の誕生日。
というわけで本来なら今日は配信日ではないが、特別回として配信している。
だってファンのみんなにお祝いしてほしいじゃない?
けっしておめでとうスパチャが欲しいとかではない、ほんとだよ?
ちなみに場所は事務所の女の子のお部屋風スタジオ。
「まあお誕生日特別回といってもね、そんなに特別なことはしないけどね」
【そうなの?】
【久遠ちゃんのことだから派手にいくのかと思った】
【サプライズとかあるんじゃないの?】
「だってもう家に仕事場に幼稚園にと、散々祝われてるんだよ?もうケーキも食べ飽きたよ」
【まあそれもそうか】
【生放送だしな】
「それに考えてもみてよ、私まだ4歳だよ?これから何十回もお誕生日回やるってのに、最初を派手にしちゃったら、今後もずっと派手な企画考えなきゃいけないじゃん、そんなのめんどくさすぎるでしょ」
【あー】
【この番組全部久遠ちゃんが考えてるしな、おかしいことに】
【お誕生日企画くらい他の人に頼んだら?斎藤とか】
「斎藤に頼んだら、何か月も前から準備とかしそうで、重すぎるでしょ?他の人も同じで、きっと凄いサプライズとか用意してくると思うし、それはちょっとやだなぁ」
【サプライズいやなの?】
【久遠ちゃんが驚く顔が見たい】
「だってこの先私がもっと有名になると、きっと色々な番組に出ると思うんだ。それで誕生日が近づくと、気を利かせた番組がサプライズを用意するじゃない?勘のいい子供の私はそれを毎回察していて、ワザと驚くの。わーすごーいありがとうございまーす。ツラい、そんな演技はツラすぎる……せめてこのチャンネルでは、私は自然体でいたい……」
【勘のいい子供は】
【芸能人って大変だなぁ】
【まあ俺もアイドルとか無理してんなぁって思ってた】
【3歳児なのに先を見据えすぎでしょ、あ、もう4歳児か】
「まあそんなわけでね、派手なことはせずにまったりいこうと思うわけよ。でも流石になにもないのもあれだから、ゲストを呼んじゃいました。入ってきて―」
【お?】
【ゲスト?】
「はは始めまして!片瀬瑞希です!」
「蟹江杏奈ですー」
「横山悠里です……!」
お馴染みの3人が緊張しながら入ってきて自己紹介をする。
いや、緊張してるのは瑞希ちゃんだけで、杏奈ちゃんと悠里ちゃんはいつも通りだ。
「3人は事務所の同期でお友だちなの。暇そうにしてたから番組に出てもらったの」
「ちょ、ちょっと!聞いてないわよ!プレゼント渡そうとしたら夜にスタジオ来てっていうから、パーティーでもあるのかと思ったのに動画出演って!」
【おーブログの写真とかでよく出てる子達だ】
【よろしくねー】
【なんで誕生日の主役がサプライズ仕掛けてるんだ……】
「あはは、流石に驚いたよー」
「いやあんなは落ち着き過ぎでしょ、わたしあんたの驚いた顔見たことないわ」
「今日のくおんちゃんの衣装もすてき……!これいつものとこの……?」
「そだよーエデンのゴスロリ風普段着」
「ゆうりもブレないわねぇ!え?緊張してるのわたしだけ⁉わたしたちこれが初ヨーチューブデビューなんだけど⁉」
【瑞希ちゃんが貴重なツッコミキャラな件】
【久遠ちゃん基本ツッコミ不在で突っ走るから、なんだかすごい新鮮だな……】
【3人ともキャラ立ってるなぁ】
「そうなんだよ、瑞希ちゃんはとてもいいツッコミをする最高にツインテールが似合う女の子なんだよ」
「言っとくけどわたしがこうなるの、あんた達が相手の時だけだからね?普段は真面目な委員長タイプなんだから。あんた達がツッコみどころしかない行動ばかりするから、自然とこうなってるだけだからね」
「またまた御冗談を。瑞希ちゃんほど素晴らしいツッコミは見たことないよ」
「わたしもみーちゃんのツッコミすきー」
「みずきちゃんいつもありがとう……!」
【俺瑞希ちゃん好きになったわ】
【久遠ちゃんの友達やってる時点で只者ではないよな】
【ぜひ久遠ちゃんの相方として頑張ってほしい】
「あ、あんたたちねぇ……はあ、もういいわ、くおん、誕生日おめでとう!はいこれプレゼント」
「おーなになに?」
「うちの会社で作ったリップよ。まああんたにはまだ必要ないかもだけど、女の子の嗜みよ、持ってなさい」
「おおーありがとう」
【うちの会社って言った?】
【あのリップ私も使ってる!ちょっと高いやつ!】
【そういえばあそこの社長の苗字が片瀬だったような……】
瑞希ちゃんはさる有名化粧品会社の社長令嬢だ。
以前からお金持ちな雰囲気を匂わせていたが、ガチのお金持ちである。
「くーちゃんおめでとー、わたしからはこれー」
「なにこれ、ヘアバンド?」
杏奈ちゃんからは動物の付け耳ヘアバンドだ。
丸い耳だけどなんだろう。くま?
「ライオンだよー。くーちゃんにはライオンが似合うと思って」
「そ、そう?ありがとう、自分では思ったことも無かったけど」
一応付けてみる。
たてがみも無いし、言われないとライオンって分からなくない?
【あー確かに】
【まあ王だからな】
【かわいすぎんか?】
【めっちゃかわいい】
「わたしからは服だよ……!」
「うん知ってた」
「絶対そうだと思ったわ」
「ゆーちゃんと言ったら服だよねー」
「大丈夫?高かったんじゃないの?」
「ううん、これはそんなに高くないから気にしないで……!」
「そうなんだ、えーと、これは?」
「動物パジャマだよ……!」
「おーあのかわいいやつ?一度着てみたかったんだ、なんの動物?」
「ライオン……!」
「…………」
なんだろう、そんなに私ライオンっぽいのだろうか。
ちなみに2人は別に示し合わせてはいないらしい。
「着てみて着てみて……!」
「う、うん」
というわけで着替えてみた。
フードを取ったライオンの着ぐるみパジャマにライオンの付け耳、折角だからリップも塗り鏡を見る。
うん、流石私、何着てもかわいい。
唇もぷるぷるだ。
「じゃーん見て見てー、がおー」
お披露目してポーズをとってみる。
【おおおおおおおおお!】
【かわいーー!】
【スマホの壁紙に設定した】
【100万回キュン死した】
コメント欄大盛り上がり。
「あはは!似合うじゃない」
「くーちゃんかわいー」
「か、かわ、可愛すぎ……!」
可愛いもの好きの悠里ちゃんのテンションがものすごい。
まあライオンなのは釈然としないが、私も可愛い格好をするのは嫌いではないからね。
ファンのみんなにもサービスして愛嬌をふりまいてやろう。がおがお。
「ありがとうみんな!さ、ケーキ買ってもらったから好きなの選んで」
「おおーわたしいちごー」
「モンブランかな……!」
「くおんはいいの?主役なのに」
「もう今日はこれでケーキ3個めだからね、余ったのでいいよ」
「そう、じゃあチョコもらうわね」
私のはチーズケーキか。
今日はクリーム過多だったから丁度いいや。
いや?そういえば瑞希ちゃんはチーズケーキが好きだったような……?
まったく、本当に気が利く優しい子である。
「じゃあ改めて、くおん、誕生日おめでとう」
「おめでとー」
「おめでとう……!」
そして定番のバースデーソングを歌い、
私たちはケーキを食べながら雑談や仕事の話をした。
視聴者にも瑞希ちゃん達は好印象な様子。
彼女たちはまだチャンネルを持っていないが、出来た暁には良いスタートダッシュを切れるだろう。
3人ともレッスンを真面目にこなし、小さい仕事も増えてきた。
これからの活躍が楽しみである。
さて、私もまた一年頑張りますか。
こうして私の4歳の誕生日は、お友だちとファンに囲まれて、楽しく和やかに過ぎていくのだった。