64、くおんちゃんねるゲスト回
「こんばんは~久遠で~す」
【ばんわ〜】
【ハジマタ!】
【くおんちゃーん】
ドラマも最終回を迎え、今日はくおんちゃんねるの配信日。
場所は事務所の配信用スタジオである。
ちなみに除霊配信は私が有名心霊スポットを浄化しまくったことで何だか清浄になり、他の心霊系ヨーチューバーから泣きが入ったため、しばらくは自粛中だ。
今後は除霊の依頼を募集して、呼ばれたら行く形にしようと思う。
「みんなドラマ最終回見てくれたー?」
【見た!超面白かった!】
【ドラマなんて久しぶりに見たけど最高だった】
【ストレス展開苦手で途中リタイアしそうだったけど、見続けて良かった】
「私も最初台本見たときはみんなが耐えられるか心配だったよ」
【流石くおんちゃん、俺たちの理解者】
【4歳児にストレス耐性の心配されてどうすんだ……】
【お昼のニュースも見たよー】
「あーうん、あんまり喋らなかったけどね」
【うっそ出てたの?】
【普通の人は仕事のハズだが……妙だな……】
最終回の日、お昼のニュース番組に悟さんと番宣してきたのだ。
とは言え3分ほどしか時間が貰えなかったので、お澄ましモードでニコニコしてただけで殆ど悟さんが喋ってた。
キャスターのお姉さんに「久遠ちゃんの好きな食べ物はなにかなー?」と聞かれたので、たこ焼きと答えておいた。
【くっそー見逃した】
【あのあと日本中のたこ焼き屋に行列ができたんだよね】
【だから帰り買おうと思ってたのにどこも売り切れてたのか】
「あはは、ないない」
【撮影の話聞きたい!特に4話以降】
【ドラマのアクションシーン凄かった!】
【あれ実は編集無しの一発撮りなんだぜ】
「あ、それは本当」
【ウソでしょwwwwww】
【久遠ちゃんの伝説はだいたい真実】
「ほら私、忍じゅ……古武術習ってるからね。習えばあれくらい誰でも出来るようになるよ」
【今忍術って言った?】
【絶対無理だろwww】
【[知ってた速報]久遠ちゃん実は忍者】
何かの役に立ちそうだからと、実は今年始めから月詠家の忍術道場に通っているのだ。
師範は頑なに忍術とは認めないが、あれはどう見ても忍術。
あまりにも面白そうなので私は嬉々として修行に励んでいる。
今回さっそく役に立って良かった良かった。
ちなみにあのアクションシーンは「NINJA Littlegirl」と言う題名で切り抜き動画がアップされ、全世界で5000万回再生されている。
雑に世界デビューしてしまった私である。
余談だが、敵役の俳優さんは「久遠ちゃんに股間蹴られた人」として有名になってしまった。
なんかごめん。
「さて、裏話をいつまでも続けたいところですが、今回はなななんとゲストを呼んでいます!」
【ゲスト?】
【珍しいな】
【誰だろう】
「というわけでさっそく呼んでみましょう。ミナトさーん」
「は、はーい」
私が呼ぶと画面外に待機していたミナトさんが、少し緊張気味に入ってきた。
手には鍋を持っている。
【ママだ!】
【おー白石ミナト?なんで鍋?】
【ようこそー】
【これは意外というか】
【白石ミナトってこういうの出る人なんだ】
「こ、こんばんは、白石ミナトです!」
「えー今更なに緊張してるんですか?沢山テレビ出てるのに」
「い、いやこういうのは初めてなのよ……」
「変わりませんよ、むしろテレビより気楽です。視聴者もみんないい人ばかりです(※ヤバい人は斎藤がBANしてる)」
【ばんわー】
【俺ら全員久遠ちゃんの下僕です】
【こら!お客さんの前で変なこと言わない!】
「クスッ、そうね……コホン、改めまして白石ミナトです。今日はお招きいただきありがとう」
「いえいえ。みんな、私は今回のドラマが初ドラマだったんだけど、そんな私をミナトさんが面倒見てくれて、色々教わったりすっごくお世話になったの!」
「初めてとは思えないくらい馴染んでたけどね」
【へーそうなんだ】
【意外、面倒とか見るんだ】
【うちの久遠ちゃんをありがとう】
「ところでさっきからすっごい良い匂いしてますけど、それなんですか?」
「せっかくだから、差し入れに作ってきたわ」
「わぁー!手料理ですか⁉料理得意って言ってましたもんね!」
「得意って程でもないけど……まあ趣味ね」
「それで、鍋の中身は?」
「ビーフストロガノフよ」
「おおー、名前は聞いたことある。斎藤!」
私がパチンと指を鳴らすと斎藤がササッとテーブルを整え食器を用意する。
【料理するんだ】
【俺も名前は聞いたことある】
【名前がもう高級料理って感じだよな】
【斎藤はもうマネージャーというより執事だな】
「名前は厳ついけどロシアの家庭料理だから、全然高級じゃないのよ?」
「へぇー、ビーフシチューの高級版だと思ってました」
「まあ高級にしようと思えばいくらでも出来るけどね」
話しながら皿に盛り付けるミナトさん。
準備完了だ。
「では、いただきまーす。ん~おいしーい!」
「うん、まあまあね」
めちゃくちゃ美味しい。
ビーフストロガノフには色々種類があるようだが、今回はハヤシライスに近い感じで、日本人にも馴染みやすくした模様。
【うまそー】
【ビーフストロガノフの素ポチった】
【くっ、マップ見てるけど近くに店がない……!】
「では食べながらドラマの話でも。ミナトさん何かありますか?」
「じゃあ久遠ちゃんが大活躍した話でもしましょうか」
「えー?」
【是非お願いします!】
【聞きたい聞きたい!】
【尺足りる?】
食事をとりながら和気あいあいと思い出話を語り合う私たち。
ミナトさんもすっかり肩の力が抜け、私や視聴者を適度にいじりながら楽しそうにしている。
【白石ミナトってこんな風に話すんだ】
【トーク上手いな、楽しい】
【意外、もっと怖い人かと思った】
「それよ!」
「え⁉なに?」
【なんぞ⁉】
私は今流れたコメントにズビシと指をさす。
「ミナトさんはほんとーーーに優しくて面倒見のいい良い人なんです。それなのにちょっと悪役が多いからって怖い人扱いして、かわいそうです」
「久遠ちゃん……いいのよ、もう」
「よくありません!例えばこれ!このビーフストロガノフ!ものすごくお肉が柔らかくて味に深みがあって、これ、一体何時間煮込んだんですか?」
「え?うーん朝から仕込みをしたから、10時間くらいかしら?」
「じゅ、十時間⁉聞きましたかみなさん!こんなしょーもないちゃんねるの為に、朝早くから10時間コトコト煮込むとか、人が良すぎるにもほどがあるでしょう!」
「いや別に早朝でもないし、ずっと鍋の前にいたわけでもないんだけど……」
【(涙)】
【ママ……】
【めっちゃいい人やん】
【誤解していた、ということか……】
【しょーもないw】
「私はそんなミナトさんの、世間の誤解を解いてあげたい!」
「久遠ちゃん……」
「ということでミナトさんには料理系ヨーチューバーとしてデビューしてもらいます。斎藤!」パチンッ
「ハッ!」
「はい?」
ちゃ~んちゃ~んらちゃ~ら~ら~ら~と結婚式のテーマ曲と共に斎藤がタブレットをトレイに乗せてゆっくり入場してくる。
そのディスプレイには「白石ミナトのまごころ料理」と書かれたヨーチューブチャンネルが表示されていた。
「く、久遠ちゃんこれは……?」
「ミナトさんの本当の為人を知ってもらうには、ヨーチューバーになるのが一番!ということで作らさせてもらいました」
「つ、作ったって言われても……」
「ミナトさんの事務所には連絡済みです、けっこう乗り気で全面的に協力してくれるみたいですよ?あ、名前は適当に付けたので好きに変えちゃってください」
「うそでしょ⁉」
【で、出たーコンサル久遠ちゃん!】
【なにこの展開www】
【4歳児にドッキリを仕掛けられヨーチューバーデビューさせられる白石ミナトw】
【結婚式で爆笑したwww】
「ミナトさん、あなたならきっとおもしろ……素敵なチャンネルにすることができます。私も協力するので、ププッ……頑張ってみましょう」
「てめぇ絶対面白がってるだろ!ふざけんなこらぁーー!」
「キャー!あはは!」
最後にキレ芸を発揮したミナトさんに追いかけ回され、今日の配信は大盛り上がりで終了するのだった。
後日。
ミナトさんは真面目に料理動画を投稿し、
様々な業界の友人や後輩を、食事に招待という形でゲストに招いた。
美味しい料理に軽快で楽しいトーク、
更に番組や芸能界の裏話が聞けると評判になったチャンネルは大ヒット。
一躍料理とトーク上手な面倒見の良い女優として有名になった。
そしてその頃には、彼女を悪役女優とは、誰も呼ばなくなるのであった。