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天才子役!天原久遠のオーバーワーク  作者: あすもちゃん
飛翔の幼稚園児編

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63、完成記念パーティー

「えー本日はお忙しい中、ドラマ『リトルブレイバー』の完成記念パーティーにお越しいただき誠にありがとうございます。お陰様で放送も早終盤、なにやら大反響の大ヒットだとか。嬉しい限りでございます。えー、まあ、ということで、今日は制作の思い出も語りつつ、みんなで飲んで騒ぎましょう、おつかれ!乾杯!」


「「「かんぱーい!!!」」」


ドラマの撮影も無事終わり、テレビ放送分も残り最終回のみというところで完成記念パーティーが開かれた。


身内だけの打ち上げ会とは異なり、正式なホテルを借りて、スタッフからスポンサーまで関係者全員を呼んだ豪勢なパーティーだ。

しかしこうしてみるとものすごい関係者の数。

テレビドラマというのは本当に沢山の人の手で作られているのだなぁ、とオレンジジュース片手にしみじみする私だった。


本来なら新参の私は奥の方で気配を消し、壁の花となりたいところだが、そうもいかない。

なにせこのドラマの真の主役と言われる私だ。

監督の隣に立ち、先程からひっきりなしに来場者から声をかけられている。


「いやぁ久遠ちゃんのあの演技、子役とは思えないくらい自然で、素晴らしかったよ」


「ありがとうございます」


笑顔を張り付かせ、ありがとうございますロボと化す私。


「わたくしこういうものでして、今回の活躍を見て、是非お仕事を依頼したいと。今日は時間が無いので、後日改めてご相談したいと思います」


「ありがとうございます」


積み重なっていく恐ろしい枚数の名刺たち。

斎藤に助けてーと目を向けると、奴にも名刺を持った業界人が殺到していた。

多分私よりも具体的な話がされて、それどころではなさそうである。


そんなこんなで、斎藤に渡された名刺入れが二箱目に差し掛かる頃、ようやく流れが落ち着いてきた。


「はぁ〜」


「ははは、おつかれ久遠ちゃん」


「疲れました……パーティーっていつもこうなんですか?」


「まさか。ここまで盛り上がったのは久々だね。お通夜の時もあるし」


「お、お通夜……」


「作品のウケが悪かったり炎上したりするとね……」


監督が遠い目をしている。


「その点今回は大盛り上がりで大ヒット!最近低迷ぎみの業界だから、この明るい話題にみんなテンション上がってるのさ。それもこれも久遠ちゃんのお陰だ」


「私だけじゃ……」


「おっと謙遜なんかしてくれるなよ。作品がここまで面白くなったのは、間違いなく久遠ちゃんの力だよ」


「そうですよ!」


「わ!あ、脚本家さん」


ニュッと出てきたのはこのドラマの脚本家さんだ。

毎回現場に来てはいたが、目立ちたくないらしく極力気配を消している。

そんな彼がテンション高く語りだす。


「この脚本、本来はもっと地味なものでした、戦うと言っても子役には難しいことが出来ないので、これくらいなら出来るかな?あとは定番のテンプレドロドロ劇で尺を埋めればいいや、程度のしょうもないストーリーだったんです!」


「は、はあ」


「それが!久遠さんのお陰で!理想を遥かに越える素晴らしいドラマになったのです!」


「その節はご迷惑をおかけしました」


そう、確かに初めは地味な脚本で、ミオの活躍もそんなでもなかった。

特に覚醒後は。

当初は最新ガジェットに強い祖母がミオにスマホの使い方を教える程度で、スパイのスの字もなかった。

なのに日向先生が「ねえ、折角ならスパイとかにした方が面白くない?」と言いだし、

私が、スパイならこんな展開はどうです?こんな動きもできますよー、

と実演を交えながら意見を言ったら脚本家さんが目を輝かせ、

その場でストーリーを大幅に書き換えたのだ。


え、大丈夫なの?と監督を見たらどんどんやれって感じで、キャスト陣含めスタッフ一同が車座になって、こんな展開は面白い、こうしたらどうだ、久遠ちゃんこれ出来る?と話し合ってどんどんカオスな展開になっていったのだ。


「いやー正直今までは、子役なんて使いづらい、全員ベテランにして欲しいと思ってましたが、あなたのお陰で新境地を開けたと思います、今は子供が主役のお話を書きたくてたまりません。他の脚本家たちもきっとボクと同じだと思いますよ、子供が活躍する話を書きたいって人多いですから。まあ久遠さん以外は無理だと思うので、これからあなたは大変かも知れませんね」


「それは……望むところですね」


「さっすが久遠さん」


ふふふ、大子役時代が来てしまうかも知れないね、ふふふ。


「これはお金儲けを企んでる顔だな」


流石監督、伊達に私のチャンネルを見ていない。


「久遠ちゃーん、こっちおいでー」


ケイ役の亮太さんから声がかかる。

どうやら役者陣で固まってるようだ。


「あ、はーい。じゃ、監督、ちょっと行ってきます」


「ああ、楽しんでおいで」


監督たちと別れ、集団に近づくとマサト役の悟さんが話しかけてくる。


「や、大人気だったね」


「疲れました……」


「あはは、お仕事お仕事」


相変らず良い人だ。撮影中もなにかと優しい声を掛けてくれた。


「真の主役さまの登場だ!我らのミオちゃんにかんぱーい」


チャラ男の亮太さんは最高にこの場が似合っている。

グラス片手にウェーイとさっきからお酒をカパカパ空けている。


「さっきから何回乾杯してるのよ……」


カオリ役のミナトさんは呆れ顔。

この3人はよく共演するようで仲がいい。


「しかし今回の現場は楽しかったなぁ」


「ホントホント。辛気臭いドラマだと思ったら、まさかの痛快活劇でめっちゃ楽しかった!」


「最初私の役、普通に暴力ふるって復讐される役だったのに、結局それがなくなってハッピーエンドになったのよね。ここまで結末が変わることってある?」


「展開、当初からガラッと変わったよね。それでよく尺に収まったよ」


「まあその代わり悟さんの出番めっちゃ減ったけどな」


「あはは、すみません……」


「いいのいいの、どうせウジウジしてるだけの尺稼ぎパートだったし」


「俺もただのDVヒモ男から凶悪犯罪者にランクアップしたしな」


「もっと刑期伸ばしたいってミナトさんが言うから」


「それで何で人さらいのアジトに侵入してバトルする展開になるのか、まったく分からなかったわね」


「久遠ちゃんのアクションシーンも分けわかんなかったけどね」


「やってみたら出来ました」


「どんな運動神経してるのよ……」


一緒に仕事をした仲間たちと、撮影の思い出話で盛り上がる。

ああ、いいなあこういうの。

そういえば私が子役になろうと思ったのは、タケルがこんな風に仲間と楽しそうに笑ってた光景を、羨ましいと思ったからだった。


今実際に体験して、思った。

仲間と一緒に一つの作品を作り上げ、良い作品だった、楽しかったと語り合うこの瞬間は、私にとっても最高に幸せで、充実した瞬間だった。

きっとこの一瞬を味わうために、私はこれからも役者を続けるのだろう、と。


「久遠ちゃんもこれでしっかり正義役のイメージが付いたわね。今後も悪役は絶対やってはダメよ?」


ミナトさんが安心したようにそう呟く。


「え?何でですか?」


「悪役ってのはね、一度やると世間ではそのイメージが付いちゃうのよ、ヒット作ならなおさらね。役も悪役しかとれなくなるし。次第に私自身も悪い人なんだって言われるようになって、私は何度も誹謗中傷されたわ……」


「そんな……ミナトさんすごくいい人なのに」


「分かってくれる人の前では自然に振る舞えるけど、私のことを最初から怖い人だって決めつけてる人の前ではダメね。イライラしてつい当たってしまうわ」


「あー、マネージャーさんとか?」


「いや、あの子はほんとに使えないから、言ったこと全然覚えないし。あなたの斎藤さんが羨ましいわ」


どうやら理不尽なことで怒られていた訳ではないらしい。

でもあの怒りようを見たら誰でも勘違いをしてしまいそう、悪役女優なら尚のこと。

そういうことか、私も勘違いしてたな。

実際に話してみると気が強いけど優しい世話焼きお姉さんなんだけど。


しかしイメージの払拭かぁ、

手が無い訳ではないが……。


「ねえミナトさんの得意なことってなに?」


「え?うーん、キレ芸?」


キレ芸⁉需要はありそうだけど払拭にはなりそうもない。


「じゃ、じゃあ、休日は何してるの?」


「料理かしら?」


「それだ!」


「どうしたの?」


「ふふふ、ミナトさん、この件、私に任せてください!」


「なんの件?」


そうと決まればいろいろ準備しないと。

あ、一応向こうの事務所にも話を通さないとね。

お世話になったミナトさんのため、私が一肌脱ぎましょう。



シナリオの部分はだいたい実話

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