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61、リトルブレイバー6

「……モガ!」


ミオちゃんが出ていき、しばらくしてから男が目を覚ます。


「モガ!モガモガ!」


男は状況を把握すると、恐ろしい表情で激しく暴れる。

拘束が解けたら私達はどうなるんだろう、怖い……でも。


「うるさい」


バチン!


「モガ!?」


あの子が一度殴るといいと言ってたから、勇気を出して思いっきりひっぱたいた。


「いつもいつも私を変な目で見て!子供だからって逆らえないと思って好き放題!気持ち悪い!」


私は今まで溜め込んだ気持ちをそのまま吐き出し、動けない男を好き放題殴りつける。


「う……モガ…!」


男が許しを乞うような目を向ける。

その姿はとても情けなく、今までの私のようで、

大人も同じ人間なんだと思った。

私……今まで何を恐れていたんだろう。

大人のすることだからと、理不尽な暴力に耐える必要はなかったんだ。

こうして、戦えばよかったんだ。


「代わって、わたしもやる」


他のみんなも男を殴りはじめる。

するとみんな目覚めたようにハッとした顔をする。

みんなにも、戦う覚悟が宿ったようだ。


「モガモガ……!」


男はボロボロになっていくが、所詮小さい女の子の力、死にはしない。

私はあの子が出て行った方向を見つめる。


「頑張れ、ミオちゃん」


――――――――――――――


廊下を歩いていると、先ほどの男から奪ったスマホが震える。

わたしは自分のスマホを取り出し、ボイスチェンジャーアプリを起動、電話に出る。

音声は先ほど取り込んでAIが既に解析していた。


「もしもし兄貴?」


『おう、ガキどもの様子はどうだ』


「全員大人しいもんですわ。新入りもナイフ突きつけただけでブルっちまって」


ちなみに口調は男のSNSを見て学習済み。


『そうか、出荷は明日だからな、しっかり監視しとけよ』


「任せてくださいよ。そういえば、今日って何人くらい来てるんです?」


『今日か?商品が1人増えたってんで、ボスは港に交渉に行ってるからな。今ここに居る主力は俺たちを含めて6人か?まあ詐欺班が別に10人ほどいるが、やつらはずっとパソコンルームに籠ってるからな、喧嘩も弱ぇし数には入らん』


実質あと5人か……。


「パソコンできる奴は羨ましいですねぇ」


『誘拐なんぞするよりずっと稼いでるし、捕まり難い、もう時代が変わったのかもなぁ』


わたしは近くの空き部屋に入り、SNSの内容を頼りに会話を続け情報を引き出す。

もうそろそろ警察が来るはずだ。


『はぁ~、俺も昔はよぉ……ん?』


「どうしたんで?」


『あれは……サツか!』


「え?マジすか?」


『チッ、こんな時にくるたあツイてねぇ……仕方ない、取り決め通り証拠を消すぞ』


「兄貴!データは俺がやっときますよ!」


『ああ?お前パソコンからっきしじゃねぇか』


「壊せばいいんですよね!楽勝ッスよ!」


『んーまあいいか、じゃ、頼むわ、さっさとやれよ。俺はガキの方をやっとく』


「了解です。あ~それで兄貴、どのパソコン壊せばいいんでしたっけ?」


『おいおい……事務室の一番ゴツイやつだ。それがマスターだからそれだけ壊せばいい』


「わっかりました!」


『ああ、頼んだぞ』


…………


さてさて、事務室はっと。

警察が派手に登場してくれたので、残りの敵は全てそちらに行ったようで、

なんなく侵入できた。


「これだね」


一際豪華な机にあるデスクトップパソコンを起動し、

それらしきデータをUSBを刺して抜き取る。

転送中にざっと目を通すと協力者リストにケイの名前もあった。

第一目標達成だ。


急いで子供たちのところに戻らないと。


――――――――――――


「ったく証拠隠滅の為とは言え、子供を消すとかよぉ、胸糞悪いぜ」


俺はそうぼやきながら監禁場所へ向かう。

昔はヤクザとは言えそれなりに仁義に厚い真っ当な極道だった。

それが今の組長に代替わりしてから変わっちまった。

人身売買や素人を使った強盗、老人を狙った詐欺。

信念もなにもねぇ、これじゃただの悪党だ。


「まあヤクザの時点で悪党だけどよぉ、そうじゃねえんだよなぁ……」


はぁ、と溜息をつき扉を見る。

あ、そう言えば鍵はあいつが持ってたっけ。

しまった、テンパってあいつのいうままにデータの方に向かわせたが、最初からこっちに回すべきだった。

今頃嬉々としてパソコンを壊していることだろう。

あいつはパソコン嫌いだからな。


「はぁ、ツイてない。仕方ない蹴破るか……ん?」


覗き窓が塞がれている。

なんだ?嫌な予感がする。


扉に耳を当てるといつもは子供の泣き声が聴こえるのに妙に静か……

いや、男のうめき声が聴こえる……!


「オラァ!」


ガツンと扉を蹴り付けるがびくともしない。


『き、きた……!』


『うぅ、怖い……でも!』


『絶対に守るよ……!』


抵抗されてる!

俺たちがどう動くか分かったのか?

それともあいつが恐怖を与えるために教えた?


「チッ!開けやがれ!殺されてぇのか!」


何度もガンガンと蹴り上げるが、余程丈夫なもので塞いでいるのか開く様子がない。

しかし扉自体はボロボロになっていき、隙間が見えた。


「ん”ーん”ん”ーー!」


そこには縛られたあいつがいた。


え?


さっきまで俺と電話してたのになぜここに?

あの一瞬で捕まった?

いや、それならこんな丈夫なバリケードを作る暇など無いはず。

じゃあ、俺が電話してたのは、だれだ?


驚愕していたらタン、タン、と軽い足音が響く。

そこにいたのは以前ぶつかってきた幼女だった。


「お前……が?」


いや、信じられないがコイツしかあり得ない、それに長年の戦闘勘が警鐘を鳴らしている。

俺は素早く懐に手を入れ銃を取り出し構え……バン!


「ぐっ!」


銃身を撃たれ衝撃でとり落とす。

撃ってきやがった……!しかも正確に……!

かなりの凄腕、恐らく秘密裏に育てられたエージェント。


「まったくツイてない……」


俺は徒手空拳の構えをし、銃を持った幼女に相対する。

すると幼女は銃をしまい、同じような構えをとる。

恐らく俺の人生最後の喧嘩相手。

俺に合わせてくれるとは、ありがたくって涙が出るぜ。

だがなぁ……。


「舐めるなぁぁーーー!!!」


俺は必死に戦った、と思う。

しかし長年の特殊訓練を受けたエージェントにただの喧嘩屋が敵うはずもなく、

俺はいつの間にか意識を失い、

気付けばパトカーの中にいた。


―――――――――――――――


「えーそれでミオちゃん?話を聞かせてもらえるかな?」


全てが終わったあと、わたしは警察の事情聴取を受けていた。

警察の出現で10人の詐欺班は即座に投降し、

抵抗を続けていた残りの4人もあえなく制圧された。

本来その間に消されるはずの犯罪の証拠はばっちり無事で、

わたしがデータを提出するまでもなかった。


しかし子供たちに異常に感謝される姿や、倒された男たちを見て、

こりゃあなにかあったな、とわたしは取り調べを受けているのである。


「えーっと……」


「大丈夫、捕まえたりするわけじゃないから。ちょっと事情を聞きたいだけだから。あ、かつ丼食べる?」


困った。

子供だから分かんない、と躱しながらかつ丼を食べていると、警察の偉そうな人が現れる。


「あっキミキミ!その子はいいから!」


「あ、本部の!お疲れ様です!えー、いいとは?」


「その子はその~、とにかくいいから!」


「え、どういう……」


「ミオ、迎えに来たよ」


「ばぁば!」


やっと師匠が迎えに来た。

迎えに来るまで黙っていろと言われて何も話せなかったのだ。


「え?いやそんな迎えに来たって言われても」


「お前は黙っとれ!えーご隠居様、捜査の協力ありがとうございます」


「今回私がしたのは警察への通報くらいさ。他は全部この子がやった」


「でしたらその子が……」


「わたしの孫で弟子さ。恐ろしい才能でね、一週間で試練に合格しやがった」


「い、一週間⁉あの苛酷な試練を……」


「そんなわけで、今後も世話になるだろうから、良くしてやってよ」


「は!承知いたしました!」


「じゃあ帰るよミオ」


「うん、あ、かつ丼ご馳走様でした」


…………


「なんだったんですかあの子?」


「まあお前もそのうちわかる……またすぐ会うことになるだろう」


「は、はぁ」


――――――――――――――


「パパ、ただいま」


「おかえり、ミオ」


そうして、わたしはようやくパパと暮らせるようになった。


子供を海外に売るというセンセーショナルな事件は日本を揺るがし、

それに関わった人間は厳しく裁かれた。

ケイは当然重罪。ママは直接関わってはいないが、普通の虐待放置の罪より重くなりそうだ。

子供たちは施設に行ったり親戚に預けられたり色々だ。

もしそこが苛酷な場所でも、もう大丈夫だろう。

戦う勇気を身に着けたのだから。


パパはあれから子育てに適した仕事に転職し、親権を得るために奔走したり色々していたみたい。

なんにせよ、この暖かい家に戻ってこれて嬉しい限りだ。

ようやく、わたしの戦いも終わり。

これからはパパと一緒に、普通の女の子として生きるんだ。


「えーそれでだなミオ」


「?」


「ミオにはまだ母親が必要だと思うんだ、それで、こんなパパでも結婚してもいいって言う人がいてだね」


パパと2人の食卓に知らない女の人が入ってくる。


「始めましてミオちゃん。ミサトって言うの。マサトさんとは近いうちに結婚しようと思うから、私のことはママって呼んでね?」


「ミサトさんはご両親が病気で大変なようでね。手術が終わったら結婚ということになるかな」


「この度は手術代まで出していただいて本当にありがとうございますー、なんと感謝していいか……」


「ははは、いいんだよ、ご両親を大切にね」


「あのーそれでですね、実は弟も同じ病気でして……」


「なんだって⁉」


「…………」


なるほど……。


どうやらわたしの戦いはまだ終わっていないようだ。


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