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59、リトルブレイバー4

「ミオ、迎えに来たわよ。あら?スマホ?買ってもらったの?」


「うん、これでゲームしたり動画みたりするの」


「そう、目が悪くなるからやり過ぎないでよ。お母さんありがとう」


「いいんだよ。孫には何でもあげたくなるってのはほんとだね。また連れてきなさい」


「そうね……じゃあまた」


「ばぁばまたね……」


――――――――――――


こうしてわたしはこの部屋に戻ってきた。


「ミオちゃんお帰り。また僕の遊び相手をしてくれよ」


「うん……」


スパイの厳しい訓練を1週間で詰め込まれたわたしにとって、ケイという小者に最早恐怖など感じなくなっていた。

しかしその変化を悟られないよう、以前と同じようにビクビクして振る舞う。


さあ、またわたしに暴力を振るうといい、ただし、その報いは受けてもらうけどね。


わたし達家族を引き裂き、ママを利用し、わたしを殺しかけた、この男だけは絶対に許しておけない。

わたしは心の奥の復讐心に火をつけた。


ケイが生きるか死ぬかの権利はわたしが握っている。

そう思うと暗い愉悦に口角が上がりそうになる。

もしかして、ケイもわたしをいたぶっている時、こんな感じだったのかもしれない。


――――――――――――


ケイの虐待の証拠は簡単に手に入った。

帰った翌日には1週間溜まった分とばかりに激しく殴りかかってきたから。


これだけでも奴を逮捕するには十分だが、まだ足りない。

師匠が言うには、あのような男は大抵他の犯罪にも手を染めているらしい。

だからもっと決定的な証拠を掴み、一生牢屋から出てこれないようにしたい。


それに、もしかしたらママからケイを切り離せば、昔のような優しいママに戻ってくれるかもしれない。

わたしの虐待を知っていて放置した罪は消えないが、もしケイが重度の犯罪者だったら、ママも騙された被害者として多少は罪が軽くなる可能性もある。

いっそ、またパパとママと三人で暮らせたら……。


――――――――――――


「さてと、そろそろパチでも行きますかっと」


とある日、ケイがいつものようにわたしを放置して出かけようとするので、

わたしはケイの裾を掴む。


「お父さん、ミオも行きたい」


「あ?」


「ミオも連れてって?お願い、いい子にするから」


「んだよ、いつもそんなことは言わないのに……」


「お願い、外に出たいの……お願い……グスッ」


「チッ、もう時間が無いってのに……分かったよ、ただし車の中で待つだけだぞ、絶対に出るなよ」


「うん!」


こうしてわたしはケイのお出かけについて行った。

パチンコ店に付くとケイは当然のようにわたしを車に放置して遊びに出かける。

わたしは車の中でスマホを立ち上げイヤホンを耳に付ける。


『ザザ……へへ、どうも黒田さん、ご無沙汰しております』


『ケイてめぇ、よくも俺の前に顔を出せたな、いい加減借金返せや』


感度は良好。

先ほどケイには盗聴器を仕掛けていたのだ。

奴は今日、ここで上役と見られる人物と密会するという情報を掴んでいたので、

無理を言って同行させてもらった。


『まあまあ、こうして返済の当てが出来たから連絡させてもらったんです。その為に働いてたんですから、偉いでしょ?』


『チッ、それで?』


『実は今ある女のヒモやってましてね。その女がしっかり稼いでくれますんで、全部絞りとってから、またあなたの店に流しますよ。ちなみに30近いですけど見た目は若くて美人です』


『またそれか、何人目だよ、女もかわいそうに、こんな顔だけの奴に騙されてよ』


『それが俺の武器ですから。それに、こっちが本命なんですが……』


『なんだよ』


『その女にはとびきりかわいい娘がいるんですよ』


『ほう?』


『今絶賛調教中でしてね。もうほぼ俺には逆らえない状態で、もう一息といった所ですね。そうしたらまたいつもように……』


『クク……金持ち連中の考えることは分からんね。だが金になるから止められねぇな』


『まったくです』


『よし、じゃあ仕上がるのを楽しみに待ってるぜ、一応1週間後に出荷予定だが、間に合うか?もう一人は欲しいんだが。船の用意に手間がかかるから、なるべく一度に済ませたい』


『流石に早すぎます。母親の方もまだ使えますし』


『そうだな……何処かで攫ってくるのもありか、一人くらい元気なのがいても偶にはいいだろう』


『程ほどにしてくださいよ?……ザザ……』


「…………」


なんてこと……。

わたしは思っていた以上に凶悪な犯罪の証拠を掴み、心臓がバクバクと高鳴っていた。

ケイにとって母とわたしは、ただの借金返済のための道具?

あの暴力は調教?

ふざけるな……!

わたしはほんの少しだけ残っていたケイへの容赦の心を、完全に無くした。


それにしても気になるのはケイのバックにいるこの組織だ。

出荷ということは、わたしのような子供が何処かに捕まっていて、何処かに、恐らく海外に送られるということだろうか。


証拠としてはこれで十分だ。

後は師匠と共に警察にこれを提出すればケイは捕まるだろう。

でも今捕まってる子供たちは?

1週間後に出荷だと言っていた。

それに、警察が大々的に動くと、証拠隠滅として子供たちがどうなるか分からない。

だとしたら……。


わたしは車から出て、こっそりと店の中を伺う。

するとケイと人相の悪い黒ずくめの男が談笑していた。

あのような話をしてよくも笑えたものだ。

っと男が外へ出てくる。


ケイから完全に離れたところで、わたしは遊んでいた風を装い男にぶつかる。


「ご、ごめんなさい!」


「チッ、こんなところで遊ぶな!」


「ヒッ……!」


「ったく……」


逃げ出しながら男に盗聴器を付けることに成功。


さらにわたしは身を潜め後をつける。

男が車に乗ったので、こっそりと車に発信機を仕掛ける。

よし。


わたしだけ助かっても後味が悪い。

わたしはこの組織に潜入し、ケイが犯罪に関わっていた証拠を得るついでに、子供たちも助けようと決めた。

それができる技術を持ってるのだから。

やり方は簡単だ。


――――――――――――


「お嬢ちゃん、ちょっとおじさん困っててさ、助けてくれないかな?お菓子あげるからさ」


「え?いいよー」


「ありがとうね優しいお嬢ちゃん、でも……ごめんね!」


「うっ……!」


盗聴器で誘拐計画を聞き、計画を練り準備を整えたわたしは、現場にノコノコ一人で出かける。

警戒心の強まった昨今、子供が一人で出歩くなど稀なこと。

わたしは絶好のカモとして白いワゴン車に乗せられ、当然のように連れ去られるのだった。


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