表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/114

47、薔薇百合戦争

ひゅおぉぉ~~……

バラ組とユリ組。にらみ合う両者の間に、5月のまだ肌寒い風が吹く。

東西に別れそれぞれの砂場に陣取った彼らは、リーダーの指示に従い動き始める。


「製造班は壁と泥団子の生成を急げ!足の速いものは特攻班だ!三人一組を作れ!投げるのが得意な者はこちらへ」


「ハッ!」


久遠ちゃんの命令を受けてバラ組は班を作り始める。ちなみに運動の得意な女子もいる。

戦いに参加した人数は両者とも20人といったところか。


久遠ちゃんに耳打ちされた何人かは、コソコソと移動を始める。

数が少ないのにさらに班を分けるようだ。


「くおんさま、準備が整いました」


「よし、敵がくるまで待機!」


「ハッ!」


どうやら体制が整ったらしい。

鮮やかすぎる指揮だ。まるで熟練の指揮官のよう。

対するユリ組は全員で団子を作り、全員で攻めるようだ。

うん、普通こうだよね、なんだか安心した。


「うちの子たちはまだまだねぇ、あれではバラ組に簡単に負けてしまうわ」


どうやら数々の戦いを見てきたアオイ先生には、勝敗が見えているようだ。

腕を組んで真面目な顔で解説してくれる。


「でも全員で攻めれば数が多い方が有利なのでは?」


「いえ、今回バラ組は砂で壁を作って籠城するようね。籠城されると普通攻め手は3倍の数を要すると言われているわ」


「なるほど」


アオイ先生が戦記物好きだってことはわかった。

ちなみにルールは泥団子を投げ合い、当たったら退場、自軍が全滅したら負けと言うシンプルなものだ。

一応子供たちはスモックを着てるので汚れても大丈夫。


「あ、ユリ組が動いたわよ!」


「全員でこられると迫力がありますね」


20人からなるユリ組の子供たちが一斉に走り出す。

あっという間にバラ組側の砂場にたどり着き、壁に向かって泥団子を投げるユリ組の子供たち。

しかし泥団子は砂でできた壁にあっさり防がれる。


「くっ!」


「なんて丈夫な壁なんだ!攻撃が通らない!」


どうやら壁となった砂山には少量の水が含まれていて、簡単には崩れないようだ。


「まだ、攻撃するなよ……いまだ!」


と久遠ちゃんが合図を送ると、東西の砂場の間にある水飲み場の影から、先に移動していた別動隊が現れ、ユリ組の背後から一斉に遠距離攻撃を始める。

なるほど、あの時移動させていたのはこのためか。


「伏兵だ!引け!引けぇ!」


「今が好機!殲滅しろ!一人も逃すな!」


久遠ちゃんも戦いに参加し、泥団子を投げ合う。


「前からも攻撃が!うわぁ!」


「顔は狙うなよ!親御さんに説明が面倒だ、腹だ!腹を狙え!」


久遠ちゃんはよく親御さんを気にする。


「くっそぉ、せめて玉砕覚悟で……!」


「ダメだ!もう弾(団子)がない!」


「なんだと!なぜあいつらは弾切れしないんだ!」


泥団子を無くし、一方的にやられるユリ組たち。

ちなみにさっきから全然子供らしくないセリフのオンパレードだが、これも当然久遠ちゃんの影響だ。


「兵站を怠るからこうなるのよ……」


「兵站?」


「補給活動のことよ、戦争で最も大切なのは兵站とも言われるくらい重要なことよ」


「へー」


ほんと詳しいなこの人。


「久遠ちゃんは特攻班と製造班、防衛班に班を分けていた。全員一緒ではなく、得意なことは得意な人に任せている。そして子供たちは得意なことだから自信を持って力を発揮してる。ふ、最近の幼児教育はみんな一緒が当たり前、それではいけないと言うメッセージを込めているのかもね……」


「久遠ちゃんそこまで考えてないと思いますよ」


絶対適当にやってる。


「この戦い、我らバラ組の勝利だ!勝どきをあげろ!」


「「うおおおお!!!!」」


「「く、おん!く、おん!」」


どうやら決着が付いたようだ。

子供たちは大いに盛り上がり、勝利の立役者である久遠ちゃんを称える。

敵だったユリ組のみんなも相手の実力を認め拍手を送る、

ここに第何回目かの東西戦争、いや薔薇百合戦争は両者の合意のもと、一時停戦条約を結ぶのだった。


さて、と。


「はーい、みんな勝利おめでとー、着替えてお昼の勉強始めるわよー」


「はーい」


園児達は素直に従い、スモックを脱ぎ、両組仲良く教室に戻るのだった。

はぁー今日もみんな元気ねー。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「こんな感じですね」


私は教頭先生に久遠ちゃんがどんな子か、普段どんな遊びをしているのかの説明を終えた。


「…………」


教頭先生、顔ポカーン。


「あの、やっぱり変ですよね?」


「…………」


教頭先生はメガネを外して眉間をモミモミ。

そしてメガネをかけガシっと私の肩に手をかける。


「ミドリ先生、あなたはとってもよくやってるわ、自信を持っていい」


「え?ええ」


「だからその子の面倒、3年間頼むわね!」


「えええーーー!」


ニッコリ衝撃発言をする教頭先生。


「ていうか天原久遠ってあの伊波ちゃんの娘……どおりで……」


と教頭先生はブツブツ言いながら去っていった。


「さ、さんねんも……」


幼稚園の担任は持ち上がりが多いとは言え、あの子たちの面倒をこの先3年も見れるのか、その時私の精神と常識はどうなっているのか。

とても心配だ。


「でも」


予想外で楽しい毎日が待っていることは、間違いないのだろう。

私は心を強くもって、久遠ちゃんの担任を3年務めようと誓うのだった。


後日、あの天原久遠の恩師として全国報道され、伝説の幼稚園教諭と呼ばれることになるとは、この時の私には知る由もなかった。

そして、このベルばらと薔薇百合戦争の話は、私の鉄板ネタとして、この先何度も語ることになるのだった。



お気に召したら感想、ブクマ、☆評価お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ