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45、久遠とヒーローショー2

私が子役たちと親交を深めていると司会のお姉さんが現れ、今日の流れを説明する。


「はーい集まってー、今日君たちには、怪人に襲われる子供たちの役をやってもらいます」


「「はーい!」」


「うん、返事いいね!それで、君たちの出番は後半から。出番が来たら君たちは舞台の上でかくれんぼをしてもらいます。それで、遊んでいたら悪い戦闘員が現れるので、君たちは逃げ回ってください。それで、誰か1人が悪い怪人のボスに捕まってしまいます、捕まったらかるーく抵抗してください、かるーくね、セリフは、はなせーとか、たすけてーとかね、ヒーローの名前はまだ言わないでね?」


かなりアドリブが多い、まあもともと素人でも出来るようになってるし簡単な内容なのだろう。


「それで怪人の話が終わったら、お姉さんがヒーローを呼ぶように合図するから、会場の子供たちと一緒にテラバイーンって呼んでね。そうしたらテラバインが来て放してくれるから、お姉さんが手を引いて舞台裏まで連れていくね?じゃあ軽くリハーサルしてみよう」


というわけで私たちは舞台で軽く動きの確認をする。ちなみに捕まる役はタイキくん。

私はいつもの調整役。みんながやりやすいようにさりげなくサポートするのだ。

うん、大丈夫そう。

あとは本番を待つばかりかな。


問題は……。


「あの……くおんちゃん、ぼくこういう舞台初めてで、き、緊張してきた」


タイキくんがガチガチに緊張していた。

そういえば私もショーとはいえ舞台は初めてだな。


「大丈夫、私も初めてだけど、本番中は舞台に集中して、私と遊んでればいいから、絶対に観客の方を気にしちゃだめだよ」


「う、うんわかった……ああ大丈夫かなぁ」


「まあなにかあったら私が助けるし、テラバインもいるからね」


「あはは、うん、そうだよね……」


…………


……


さて時間である。


前半は戦闘員が街でゴミ箱をぶちまけたり悪さをするので、そこにヒーローたちが現れあっさり退治、強さと頼もしさをアピールする顔見せ回。


後半で戦闘員がボスを呼んで人質をとり、本番の戦闘が始まるのだ。


もうすぐ出番。

舞台袖から客席を見て見ると超満員。

流石人気のヒーローショーだな、と思い客席の後ろの方を見ると私は白目を剥いた。

『久遠様親衛隊』と書かれた横断幕を掲げた大きいお友だちがいるではないか。

どう見ても私のファンたち。

そういえば先日の配信で今日のことを言ったのだ。

ただ来てもいいけど子供優先、回りの迷惑にならないようにね、と念を推しておいたのだが。

まあ一番後ろにいるので、一応彼らなりに配慮しているのだろう。


「う、うわぁ、人がすごいいっぱい……」


私はファンのおかげで緊張など吹っ飛んだが、タイキくんは緊張がぶり返してしまった。


「大丈夫大丈夫、さあ、行くよ」


「う、うん」


私たち子役4人はキャッキャと舞台にあがり遊び始める。


「もーいーかい?」「まーだーだよ」「もーいーかい?」「まーだだ……きゃあ!」


「ゲハハハ!子供たちよ、本物の鬼が来てやったぞ~!」


怪人が現れ、隠れていた女の子を掴み上げるが、女の子は必死に暴れて逃げ出す。


「こら~まてまて~」


グルグルと逃げ回る私達と追いかける怪人。

私はなるべく広範囲に見栄えがよくなるよう逃げ、小さくなってる子の手を引いたりする。


「あっ!」


タイキくんが予定通りに痛くないよう転ぶ。


「ゲハハハ!もう逃げられないぞ~」


「うわぁ放せ~」


「ゲハハハ!さぁてこの子をどうしてやろうか、そうだ、改造して戦闘員にしてやろう~」


キャー ーーと会場で悲鳴があがる。改造系は普通に怖い。


「う、う……」


「ん?」


あ、やばい、タイキくんがモロに客席を見てしまった。


「ふぇ、ふぇ、わぁーーーーん!!!」


緊張と不安で泣き出すタイキくん。


「む、泣いてしまったか……」


コウジさんも次どうしようか迷ってるな。

仕方ない、私の出番だ。


「待ちなさい!」


「む、誰だ!」


私がバーンと登場するとコウジさんも合わせてくれる。


「その子の姉よ!その子の代わりに私を連れて行きなさい!」


「ほう、勇気のあるお姉さんだ……いいだろう、お前は良い戦闘員になりそうだ」


「と、当然よ!」


私は手をギュッと握り、実は不安で強がってる姉を演じる。

ゆっくりと怪人に近づき、タイキくんと入れかわる。


「大丈夫、あとは任せて」


「う、うん……ごめんなさい……」


すれ違い様に抱きしめて頭を撫でてあげる。


「久遠ちゃん助かった」


「いえいえ」


コウジさんと小声でやりとりし、ショーが再開する。


「勇気のあるお姉ちゃんが悪の怪人に捕まってしまったぁー!これはピンチ!会場のみんなでヒーローを呼んでお姉ちゃんを助けてあげよう!せーの!テラバイーン」


私の登場で会場も勇気づけられ、ボルテージが上がる。

私も必死にテラバイーンと叫ぶ。

後ろの方で久遠ちゃーん!と歓声も上がるが幻聴だと思いたい。


「ゲハハハ!無駄だ無駄だ!誰も助けになどこなゲフーーー!!!」


レッドが「とうっ!」と現れコウジさんに飛び蹴りを喰らわす。

いい感じに喰らったリアクションをしつつ、私を優しく解放するのは流石ベテラン。


「会場のみんなのおかげてテラバインが来てくれましたー!さ、お姉ちゃんこっちよ!」


レッド以外も現れ、混戦になる。

私はお姉さんに手を引かれ、舞台裏まで走る「テラバインありがとー!」とお礼も忘れない。


「ふう……」


なんとかなった。

舞台では怪人とヒーローの戦闘が続いている。

がんばえーと客席から応援が鳴り響く。


と、タイキくんがあからさまに落ち込んでいる。


「なーにいつまで落ち込んでるの、全てうまく行ったんだから気にしないの!」


私は彼の背中を叩きながら慰める。


「でも、ぼく上手くできなかったし、くおんちゃんにも迷惑かけたし……」


「私は全然迷惑じゃないよ、むしろ美味しい役をくれて感謝したいくらいだよ、ありがとう」


「そうなの?」


「ええ、この世界は私みたいな上を狙う子がウジャウジャいるんだから、いつまでも落ち込んでると、あっという間に出番を取られちゃうよ、だから、顔を上げて強くなるのよ!」


「うん…分かった!強くなる!」


「うんうん、流石私の弟ね」


「今日だけだからね!」


とガヤガヤと演者が舞台裏にはけてくる。


「おー久遠ちゃん、おかげで盛り上がったよ」


「お疲れ様でーす」


「あ、あの、すみませんでした!」


とタイキくんがコウジさんに謝る。


「いいのいいの、おかげでよりドラマチックな展開になったし。いいかい?舞台ってのは観客からの視点が全てなの、観客にとって問題がなければ全部オッケーなのさ」


「い、いいの?それで」


「ね、誰も気にしないって。だから今日は自分の中で反省して、次に活かしましょ」


「久遠ちゃんはその歳で達観しすぎだけどな……そう言えば客席の後ろの方のってあれ……」


「ナンノコトデショウカ」


こうして私の小さな初舞台は終わるのだった。


後日、ショーは撮影禁止なため私の凛々しい出番が文章で大げさに語られ、羨ましがったファンは私の出るイベントには、毎回大量に押しかけるようになるのだった。



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