44、久遠とヒーローショー1
「おはようございます!エターナルプロダクションの天原久遠です!今日はよろしくお願いします!」
こうして挨拶するのも随分久しぶりな気がする。
今私がいるのは都内にある某遊園地。
今日はここで今放送中の特撮ヒーロー「テラバイン」のヒーローショーがあり、私はその逃げ惑う子供役として出演するために来ているのだ。
子供役は他にも3人ほどいる。
ヒーローショーに子役とは?子供は現地調達するものじゃないの?
と思われるが、ヒーローショーで観客の子供を連れ去るのは過去の話。
今は色んなことに配慮して子供はこちらで用意するのだ。
というかあの観客指名演出、苦手な人は死ぬほど苦手だと思うのだ。
現にタケルは連れ去られるのをガチで怖がってヒーローショーに近寄りもしなかったし、
遊園地のショー型アトラクションがそれだった時は、指名されないよう真剣に気配を消し2度と乗らなかった。
それに思いもよらぬクレームもあるらしいのだ。
連れ去られてPTSDになったとか、なぜうちの子を指名しないのかとか。
もう面倒なのでこうなるのは自然な流れである。
さて、挨拶の続きだ。
「おはよう!今日はよろしく!」
レッド役のお兄さんが爽やかに挨拶する。
「おはよう、ま、ほどほどにな」
ブルー役はサラっとクール。
「かわいい子ねー、何かあったらお姉さんに言うのよ」
ピンク役は胸がデカい。
「ここのカレーなかなかイケる!」
カレー役はカレー食ってる。
間違えた、イエロー役。
「フッ……」
ブラックは陰キャ、そのうち裏切りそう。
な、なんか、濃いなこの人たち……。
「皆さん普段もこのキャラなんですか……?」
「ん?はははちょっとは近いけどそこまでではないよ、本番前でも子役の子達は俺たちを本物だと思ってるからさ、夢を壊さないように裏でもキャラを保ってるのさ」
「へーすごい!プロって感じです!あれ?私はいいんですか?」
「そういうの目で分かるからさ、君にはキャラ作っても意味ないなってね。一緒に仕事をする役者の目だ」
「なるほど……改めて今日はよろしくお願いします」
「ああ、がんばろうな、あ、こちら怪人役のコウジさん」
「ゲハハハハ~よろしくねぇ~」
「きゃー」
私は笑って悲鳴をあげる振りをする。
「ははは良い反応だ」
「コウジさんはこの道何十年のベテランでね。こういったショーではヒーロー役よりも、悪役の方が実力が必要なんだ」
「そうなんですか?」
「子供達の様子を見て適度に怖がらせたり、笑わせたり、場を盛り上げる必要があるからね」
「今はもうないけど、連れ去っても大丈夫そうな子をその場で判断したりな。子供たちとゲームをしたりすることもあるから、司会をやったり色々なスキルが必要なんだ」
「ほへー勉強になります」
こういうプロフェッショナルな現場にいくと色々勉強になり身が引き締まるものだ。
私は最近の幼稚園や月詠家でのあれやこれやを思い出し、遠い目をした。
そうしてスタッフに挨拶をして回っていると、続々と子役が現れる。
「ほら、挨拶をして」
「お、おはようございます!しょ、松竹梅プロの上原タイキです!」
「よろしくな!」
とレッドが片手を上げる。
「ふわーほんものだぁ!」
こ、これが純粋な幼児の目か、確かに私のとは全然違う……!
私が衝撃をうけ慄いているとタイキくんと目が合う。
「私はエタプロの久遠だよ、今日は頑張りましょう?」
「うん!くおんちゃんは何さい?」
「私は3歳、もうすぐ4歳になるけど」
「ぼくも同じ!4さいはもうちょっと先かなぁ」
「じゃあ私がお姉さんね」
「ええー、もう、今日だけだよ?」
素直ないいお子様だ。
私はほっこりしながら今日はこの子の面倒を見る事に決めた。
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