42、小話 久遠とスマートフォン
これは夏休みが終わり、そこそこ仕事にも慣れてきた頃の話。
「ママ~スマホ買って~」
「そうねぇ、まあそのうち必要になるし、今のうちに買っちゃいましょうか」
「やったーーー!」
「でもくーちゃんのことだから、子供用スマホとかじゃないんでしょ?」
「当然だよ、ちゃんとゲームとか遊べるやつね」
「そう、じゃあやっぱりPフォンかしら」
「は?」
Pフォン。それはアメリカのピーチ社が開発したスマートフォンである。
独自開発のPOSによる素人にも分かりやすい操作性、シンプルかつ洗練されたデザインでブランド力が高く、世界、とりわけ日本で圧倒的な人気を誇るスマホだ。
「ママ、あんなのはスマホとは言えないよ、ただのブランドロゴの入った写真付き携帯電話だよ。真のスマホとはサイボーグOSが入ったもののことを言うんだよ」
隣で父がうんうんと頷いている。
サイボーグOSとはPOSと対をなすOSだ。POSがピーチ製品限定で高い親和性を持つのに対し、サイボーグOSはオープンソース化されカスタマイズが自由。そのためピーチ製品以外のあらゆる製品と連携出来、その拡張性は無限大の夢のあるOSなのだ。
ただそんなカスタマイズとかどうでもいいと思ってる機械オンチの女子とか、とりあえず皆持ってるからとブランドものを持つ女子とかは、こぞってPフォンを求めるのだが。
「とにかくPフォンを持ってる時点で、コイツは世間に流されやすい受け身な人間、自分の意思が無い、クリエイター失格、という見方をされるんだよ」
「ええ?くーちゃんの記憶の人前世で何があったの?」
「久遠、その通りだ、男なら皆サイボーグ。これが常識だ、Pフォンはクソ」
「流石パパ」
私は女だが。
「よし久遠、パパに任せておけ。超玄人向けのサイボーグスマホを用意してやる」
「ありがとうパパ」
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そうして渡されたのが高天原社製の国産スマホ、オモイカネシリーズのハイエンドモデルだった。
お値段20万円ほど。
しかも技術者向けに色々ロックが外されており、やろうと思えばなんだって出来るらしい。
流石に多趣味のタケルでもそんな技術は知らないので、使う事はないだろうが、色々出来るというのがワクワクする。
というか技術者向けって、父は一体どこからこれを手に入れてきたのだろう。開発者に知り合いがいたとしても、普通に持ち出し禁止では?
まあいいや、有難く使わせてもらおう。
とりあえず話題のソシャゲとか使えそうなアプリをいくつか入れるか。
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そうして瑞希ちゃんたちと再会し、いよいよお友だちにお披露目となった。
「みんな、スマホ買ってもらった?メラン登録するわよ」
「買ってもらったよー」
「わたしも……!」
「私も買ったよ」
来たか……この時が!
「じゃーんPフォンの最新モデル!少しわがまま言っちゃったわ!」
「私もPフォンー、一つ前のだけどねーPフォン高いよー」
「私もPフォン……!すごくオシャレ……!」
「私はオモイカネのハイエンドモデル!」
「え?」「おもいかね?」「オシャレじゃない……」
「見てみて!このゴリゴリに改造したホーム画面!ここをタップするとね色んな便利アプリが立ち上がるの!ほらこれ!様々なタッチ決済に対応していて支払いもラクラク!SDカードによる拡張でほぼ無限の容量!超マニアックな個人開発アプリも遊べるし、防水防塵も完璧なんだよ!」
「そう、すごいのね」
そういってまるで憐れむような目を向ける瑞希ちゃん。
な、何故そんな目を向ける……!や、やめろ……私はオタクじゃない……!
「でもごめんね?私たち、多分メランと写真しか使えないと思うの」
「それ以外必要かなー?」
「その二つがあれば、外見がかわいいの選ぶかな……!」
女子……!
小学生と言えど心は既に女子であったか。
シンプル&オシャレを重視する女子に機能性、拡張性を説いても効果は無い。
この子達には私渾身のスペシャルカスタマイズスマホの魅力は一生伝わらないだろう。
恐るべしPフォンの浸透力。
日本の女子の心を掴んで離さない。
「うん……じゃあ、メラン交換しよっか……」
私はいつの日か、超絶便利で女子にも使いやすく、圧倒的オシャレなサイボーグスマホを作り、日本からPフォンを駆逐しようと心に決めるのだった。
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