4、たこ焼き高天原
(私が主演のドラマ、視聴率40%!……それで賞とかとっちゃって、果てはハリウッドデビューとか、うへへ)
子役でお金をがっぽり稼ぐ未来を想像しながら、鏡の前でポージングを決める。
でもふと気づいた。
──そもそも、うちの両親って何の仕事してるんだっけ?
この家、都内の新築で良い場所だし、お金に困ってる様子もないけど……
あんまり稼いでないようだったら私が養ってあげよう。
そんな孝行娘な自分を想像しムフーっと笑う3歳児。
とは言え家はこんな家だ、かなり稼いでいるに違いない。
大企業に就職してるんだろうか、
もしかしたらベンチャー企業の若き社長かもしれない、
そしたら私は社長令嬢⁉
「ママぁ~パパってなんのお仕事してるの?」
とりあえずキッチンで料理をしている母親に聞いてみる。
「あ、くーちゃん鏡はもういいの?パパの仕事?言ったことなかったっけ、たこ焼き屋さんよ?」
……え?たこ焼き屋?都内の新築で?たこ焼き屋でこんな家建つの!?
「ママ、冗談だよね?例えば、すごい高級たこ焼き専門店とか……」
「んーん、普通の屋台よ」
マジか。こんな都内の良い所に住んでるのに職業たこ焼き屋とか。
いや中には大繁盛してる屋台もあるだろうけど、
たこ焼き屋で都心に家を建てるイメージは無い。
そういえばやけに夕飯のたこ焼き率が高いと思っていたけど、あれは余り物だったのか。
というか今思えば夕飯にたこ焼きは変ではないだろうか。
美味しいけれど。ていうか結構好きだけど。
「えーっと、儲かってるの?」
「うーんどうかしら?学校帰りの学生さんがチラホラ買っていくみたいね」
「えー……この家大丈夫なの?」
「あら、3歳なのに家の心配して、変なアニメでも見たのかしら……
一応パパもママも貯金がいっぱいあるからしばらくは大丈夫よ」
「そうなんだ……」
薄々は感じていたけど、この両親、そうとうな坊ちゃん嬢ちゃんなのでは⁉
だってなんか2人ともふわふわしてるし、呑気だし。
タケルみたいに、生きるために苛酷な日雇い労働をしていたような苦労を感じられない。
食事はしょっちゅう外食か出前サービス。
近所に出かけるにもタクシー。
ちょっと直せば使えそうな掃除機も「寿命かしら」とすぐ買い換えるし。
とてもたこ焼き屋で生計を立てている家の生活ではない。
そこで私はハッと気付く。
(思えば私は産まれてこの方祖父母や親戚に会ったことがない)
実家のことを聞いても毎回はぐらかされるし。
(つまり)
──駆け落ちだ。
胸の中で一つの仮説が浮かび上がる。
家同士の対立に阻まれ、それでも愛を貫き、逃げた二人。
その証拠に、こんな都心の新築を買っちゃう感覚とか浪費クセとか、もう貴族そのものだ。
きっと家同士が敵対していて結婚を反対され、
二人で家を飛び出したのだろう。
お金は使ったら無くなるなんて思ってなくて、道楽で庶民の仕事、たこ焼き屋をしてみようとか、
きっとそんなところだろうそうに違いない。
「え、なぁにその透き通った目は、ほんと今日は変よくーちゃん」
腕を組みうんうんと納得している私を母が不思議そうに見つめてくる。
(大丈夫、2人の生活は私が支えてあげるからね!)
天原久遠、3歳。
家族の将来を憂い、この先も何不自由なく暮らせるよう、
改めて子役になる覚悟を決めるのだった。