38、ロリータデザイナー幡多円華
私の名前は幡多円華。ロリィタ専門店「エデン」の店長にしてデザイナー。
専門はロリータ服全般。
私がロリータ服を作るようになったのはもちろん好きというのもあるが、私自身があまりロリータの似合う容姿をしていないからだ。
顔立ちは凛々しく、背も高い、男装の麗人といった風貌で、周囲に求められるまま、私は男役を演じていた。
だが本当の私はかわいいものが大好きだった。
そんな悶々とした高1の夏、公園でボーっとしながら可愛らしい女の子を眺めていたら出会ったのが、隣りで同じくボーっと同じ女の子を眺めていた有栖川蘭子だ。
同族の臭いを嗅ぎ取ったのか蘭子は私にしつこく付きまとい、私も蘭子には自分を偽る必要もなく自然体で居られたので、いつしか私たちは友人になった。
そんなある日蘭子が言ったのだ。
「円華、そんなにかわいいのが好きならクリエイターになればいいのよ!」と
「私は写真家になるわ。プロの写真家になって、かわいい子を合法的に撮りまくるの!」
言ってることは完全にヤバい奴だが、その言には一理あった。
そうだ、私が理想のかわいい服を作って、それを沢山の人に着てもらえれば、私は自分の欲求を満たすことが出来るかもしれない。
そう思った私は、かねてより興味のあった服飾の道を志したのだった。
そうして数年後、私は夢を叶えこのエデンを立ち上げた。
かわいい少女に私の趣味全開の服を着せれるこの仕事は最高だ。
私は毎日が充実していた。
だが、正直売り上げはよろしくない。
路地裏で立地が悪い上にロリータ服自体がマニアックだからだ。
それでもなんとか続けていられるのは、私の服を気に入ってくれてるファンの人達のおかげだろう。
自分で言うのもなんだけど、私の作る服は世界最高だと思ってる。
可愛さの中に退廃的な切なさを感じるデザインは、一部の人には非常に評価が高く、一度着ればだれもが好きになってくれる自信がある。
でもロリータ服はマニアック。
熱狂的なファンは多数いるが、逆に熱狂的すぎて一般の人は非常に入りづらい。
このままでは色物ファッションで終わってしまう、なんとか起死回生の一手を……
と考えていた時に出会ったのがめちゃくちゃかわいい天原久遠という女の子。
こんなかわいい芸能人が興味を持ってくれた!
と一瞬喜んだが、よく見るとまだ3歳の幼女、しかもデビューしたてだと言う。
気に入ってくれたのは嬉しいけど、宣伝にはなりそうもないかな、と残念に思いつつ、蘭子から渡された写真集を開く。
頭をハンマーで殴られた気がした。
目を見開き、震える手でページをめくる。
か、かかかかかかかわいいーーーーー!!!!
写真から感じる魅力と気品に圧倒される。
自分が世界一かわいいのだという自信があふれ、その通りでございますと跪きたくなるオーラ。
店で見た時はただのかわいいだけの子供だと思ったが、これが彼女の本気なのだろう。
ああなんて尊い。こんな子に私の服を着せるなら……。
ふう。
私は夢中で最後まで読み込んで一息つく。
……やるわね。
確かにこの私が腕を振るう価値がありそうだ。
まあ?多少ね?かわいいのは認めましょう。
でも3歳児に、私の服の真価を発揮できるかと言うと、微妙ね?
まあ?お仕事はしっかりしますけど?
私は幼女に魅了されたことを認めたくないのか、必死で平静を装う。
そういえば彼女、ヨーチューブもしてるって言ってたわね。
そう思い出した私は、店のパソコンで彼女の動画を再生する。
『えー今日は某廃病院に来てまーす』
え?心霊配信?
『斎藤、着いてきなさい』
リアルお嬢様キャラかわいい!主従関係も萌える!
『飛び散りなさい!悪霊退散!』
ええ……⁉急にファンタジー⁉
そういえば依頼に戦闘服を2着ってあった!
こういうこと⁉
『これにて廃病院の悪霊退治、完了です!あ、そうそう、写真集で人気だった一部を、額に入れてグッズ販売することになりましたー、みんな買ってね?』
急に小悪魔⁉買います!
気付けば私はすっかり久遠ちゃんのファンになっていた。
「あー店長くおんちゃんの動画見てるー」
と、夢中になってるとスタッフの子に気付かれる。
「え?この子知ってるの?」
「ええ、最近すごく有名ですよ。めちゃくちゃ可愛いですよねー、私サイン本持ってますよ。こんな子が私達の服着てくれたらなぁ」
サイン本⁉
いやそれはあとで問いただそう。
「着てくれるわよ」
「え?」
「今度のオーダーメイドの依頼人、天原久遠ちゃん」
「ま、マジですか?」
「マジよ」
私たちはテンション高く、どんな服がいいか営業時間が終わるまで話し合うのだった。
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その夜。
『もしもし円華?見た?』
「見た。最高だった」
『でしょ』
「うん」
私達の間ではこれで全てが伝わる。
趣味のあうオタクとはそういうものだ。
「動画と写真を見たらインスピレーションが止まらないわ!作りたい服があり過ぎて決められないのよ!」
『分かるわぁ、アタシもそうだったもの。そういう時はテーマを決めましょ』
「テーマ?」
『ええ、撮影スタジオはどこにするの?』
「廃洋館にするつもりだけど」
『じゃあまずはそこにターゲットを絞ることね、そこで全力を出し切れば、また依頼してくれるようになるはずよ』
「なるほど」
確かにあのサイズではオーダーメイドは必須。
気に入ってもらえればまた作る機会がやってくるだろう。
じゃあ洋館のお嬢様風に焦点を当てて……あ。
「せっかくだから斎藤さんもスーツ着て出てもらおうかな、お嬢様と執事な感じで、きっといい写真になると思うわ」
『そうね……悪くはないけど……あんた、せっかくだから自分が執事役やりなさいよ』
「え?」
『だから、あんたも自分の服作って、一緒に写真撮りましょうよってこと』
私が?でも私は眺めてるだけで満足で……
「私にはかわいい服なんて似合わないわよ……知ってるでしょ?」
『カッコイイ服なら世界一似合うってことも知ってる。せっかくだから円華風の執事服、作ってみてよ』
私がロリータを着て写真を?……そうだ、別に服を着るだけがロリータの楽しみ方じゃない。
背景やセット、小物を使って写真を撮り、世界観を楽しむのもロリータだ。
――洋館に住むのは幼い主人の久遠様、そして彼女に献身的に仕える男装した私――
いいかも知れない。こんな私でもあの世界に参加する資格があるのかも。
どんな服にしようか、世界で私だけが似合う私だけの服。無いならば作ればいい。なぜなら私はデザイナーなのだから。それが出来る実力は十分にある。
「ふ、流石は蘭子」
『でしょ?はぁん、男装の麗人に傅かれる久遠様、絶対絵になる』
この友はいつも私に道を示してくれる。
本人は欲望に正直に生きてるだけだけれど。
「ありがとう、やってみる」
『期待してるわ』
よし、方針は決まった。
あとは死力を尽くすのみだ。
私はこの仕事で何かが変わる予感がした。
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