31、久遠ファンの集い
「お、ノーム氏こっちでござる」
「おおとしあき氏ですか?」
俺の名はノーム。もちろん本名ではない。
趣味は地下アイドルの発掘、故に土の精霊ノームを名乗っている。
今日は最近流星のように現れた、特大の原石である久遠ちゃんの写真集お渡し会に参加しに、わざわざ東京から福岡まで来ている。
東京に参加せず福岡を選んだのは、チケットが比較的取りやすい、気がするからだ。
東京は席は多いが激戦区、かと言って大阪も仙台も東京から行けなくもない距離なので次点に選ばれやすい。
それなら遠いがまだ人が少ないだろう福岡を選ぶのが必然というものだ。
それにうまくいけば東京と福岡、2枚取れるかもしれないし。
まあ残念ながらチケットは開始30秒で売り切れたのだが。
なんとか福岡だけは死守できて良かった。
今回は何としても行きたかったからな……。
というわけで当日になり、新幹線で5時間かけて福岡まで来たのだが、せっかくなので存分に楽しもうと思い、ネットで知り合った福岡在住の地下アイドルオタク、としあき氏と行動を共にすることにしたのである。
ちなみにリアルで会うのはこれが始めてだ。
としあき氏、リアルでもござるっていうんだなぁ……。
「いよいよ今日でござるな」
「ええ、初めて久遠ちゃんを見た時は興奮しました、いえ変な意味ではなく」
「ええ分かります、変な意味ではなくあれは衝撃的だったでござる」
「斎藤、着いてきなさい」
シャラランと髪をかき上げる振りをする。
「殴ればいいのよ!」
としあき氏が剣を振るう振りをする。
「「わははは!」」
あー楽しい、これだからオタク友達とのオフ会は止められないのだ。
「かわいいだけじゃなく、行動力や発想力に驚かされます」
「我々を楽しませようとするエンターテイナーな所も魅力でござるな、ブログ見たでござるか?あの〇ゴ、傑作でござった」
「ええもちろん。そんな彼女のお渡し会、何も起きないはずはなく」
「流石にお渡し会で何が出来るとも思えないですが、何となく期待してしまうでござるな」
そう、彼女、天原久遠は3歳という年齢でありながら、驚くほど我々を楽しませてくれるのだ。
普通あの年齢の子役だったら、親や事務所に言われるがまま、個性なんてまるでないのだが、久遠ちゃんは違う。
自分で考えて、楽しいことに全力で挑み、そしてそれを俺たちに見せてくれるのだ。
こんなの、嬉しいに決まってる。
長年地下アイドルを追いかけて、芽がありそうな新人を見つけては応援してきたが、彼女たちの多くは受け身だった。
事務所の言う通り行動し、ファンや事務所が売ってくれるのをただ待っているだけのアイドル達。
もちろんそうでない子もいたが、多くはそのように過ごし、売れないまま事務所を恨み、去っていった。
それに何の疑問も抱かず、推しが売れないまま卒業し、また新たな原石でも見つけようかと思っていた時、出会ったのが久遠ちゃんだった。
自分がかわいくて天才だということを堂々と自称し天真爛漫、元気いっぱいで突っ走ったと思ったら、大人のような冷静さで周りを観察し、困ってる人に優しく手を差し伸べたりする。
それに生まれが良いようで、自然と人を従わせるオーラを持っている。
「はあ、それにしても斎藤氏はほんと羨ましい」
「激しく同意でござる。拙者も久遠様の下僕に生まれたい人生だったでござる」
俺も呼び捨てにされてアゴで使われてみたい。
「まあ斎藤氏も苦労したみたいですけどね。まさかあのゲスールプロの伝説のマネージャーだったとは。ていうか俺、彼の担当アイドルのファンだったし、実はめちゃくちゃお世話になってました」
「アイドルに手を出したとかで濡れ衣きせられた事件でござるね。当時は伝説のマネージャーに殺意を向けたものでござるが、真相を知れば納得でござったな」
「全てを奪われ、公園でホームレスになって死にそうなところを、久遠ちゃんに助けられたらしいですね、そりゃ忠誠も誓いますわ」
「久遠様に仏を見たとか命を救われたとかで、仏教に帰依したとか。意味不明なとこもありますけど、何度聞いてもいい話でござるなぁ」
ちなみにこの話はゲスールプロ崩壊後、週刊誌がした斎藤氏インタビューである。ネットでも読める。
「俺も久遠ちゃんに拾われたーい」
「でござるなぁ」
としあき氏おすすめ、本場の博多ラーメンを啜りながら益体も無い話をする。
最終的にはどの話も久遠ちゃんに仕えたいで〆られる。
「よし、博多ラーメン食べたし、行きますか!」
「その前に歯を磨いて漫喫で身を清めるでござるよ」
いざお渡し会へ。
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