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30、遠征温泉旅行

某月某日金曜日。

明日はいよいよ写真集のお渡し会である。

今日は初日のお渡し会会場となる福岡に前日入りするため、我が家は非常にバタバタしている。


「えーとあと何が必要かしら、くーちゃんハンカチ持った?飛行機なんて久しぶりだから、何が必要か忘れてしまったわー」


主に母自身の準備で。

最初は斎藤と2人で行く予定だったが、流石に3歳児はホテルに一人じゃ泊められないとかで、急遽母も着いてくることになったのだ。

ちなみに斎藤と一緒の部屋は「そんな恐れ多いことは出来ません!」と死にそうな顔で拒否された。


それに3歳児は温泉も一人で入れないのだ。

そう温泉。

タケルは温泉がことのほか好きだった。毎週のように地元のスーパー銭湯に通っていたし、地方ロケなどがあるとその地方の温泉を調べ、必ず帰りに寄っていた。

そんなわけで温泉の良さを完全に理解している私は、温泉に入りたくて仕方なかったのだが、この3歳という体が邪魔をする。


今まではそうでも無かったのだが、最近遠出することが増え、無性にその地方の温泉に入りたくて仕方がないのだ。

しかし3歳児はどこも一人で入れない。

かと言って大人並みに羞恥心のある私は斎藤と一緒に男湯なんて言語道断。

通り過ぎる地方温泉の看板を、車の中から恨みがましく見ていたのだ。

4歳になったらOKなところもあるから、それまで我慢である。


そんなわけで今日は母と一緒についに念願の温泉に入れるのだ。

せっかくなので泊まる旅館は温泉で有名なところにしてもらった。

温泉、楽しみだ。

え?お渡し会?も、もちろん忘れてないよ?

明日のためにサインの練習もしたんだから。

わーファンと会えるの楽しみだなー。


「はぁーパパも着いていきたかったなぁ」


「何言ってるの、パパが着いてきても何も出来ないじゃん、経費の無駄だよ」


「娘の正論パンチが心に染みるよ……娘はいつかは父を邪魔に思うものだと覚悟はしてたけど、いくらなんでも早すぎるよ……」


「そこまで思ってないって。パパ大好きよ。じゃあ仕事休んでくればいいじゃん」


「久遠、飲食業ってのはね、世間が休みの時こそ働かなければならないんだ。もしデートコースに俺の店が入っていて、休みだったら悲しいだろう?」


「……そうだね」


父が遠い目でそう言うので適当に返事をしておいた。

でも最近、何やら父のたこ焼きが人気だという話を事務所でチラホラ聞き始めた。

父は父でうまくいってるようだ。


「準備出来たわー、行きましょう」


「はーい、じゃあ行ってきます、パパ」


「2人とも行ってらっしゃい、お土産は明太子でいいよ」


「常温でもつのかしら……」


「ダメだったら私たちだけで食べよう?」


「そうね」


「ひ、ひどい」


ダメだったら明太子せんべいでも買ってこよう、あるのか知らないが。


というわけで母と一緒にタクシーに乗り込み、空港へ向かうのだった。


ーーーーーーーー


「あ、社長!久遠様!こちらです」


空港に着くと全ての準備を整えた斎藤が待っていた。

流石出来るやつである。


「斎藤君ご苦労様、今回はよろしくね」


「はい、お任せください。こうして地方に行くのは前職で慣れてますから」


「頼もしいわー」


確かアイドルのマネージャーをしていたんだったか。

確かに遠征ライブとかよくやってそうである。


「ではこちらです」


と異常に手際のいい斎藤にエスコートされ、私たちは快適な空の旅を過ごし、2時間ほどで福岡に到着。

空港からタクシーで移動し、予約をしていた旅館につつがなくチェックイン。

いよいよか?いよいよ入れるのか?


「くーちゃんさっきからそわそわしてどうしたの?」


「温泉だよ温泉!」


「そんなに温泉入りたかったの?」


「あー、毎回車で温泉通り過ぎるたびに睨んでますもんね……3歳だと入れないのでスルーしてますが」


気付かれてたか。


「そう、じゃあさっさと荷物置いて、温泉行きましょうか」


「やったー!」


そうして私は年甲斐もなく、いや年相応に女湯までダッシュ。

スポポンと服を脱ぎ、温泉への扉を開いた。


「おおー広いし良い景色」


ふむ、とここで冷静になり数々の温泉をレビューしてきたタケルの記憶が品定めを始める。

泉質は単純温泉で刺激の少ないタイプ。

歴史のある温泉宿だけあって露天風呂は風情がある、しかし設備は少し古いか。

サウナは……一応小さいがあるな、水風呂は無し、減点。

アメニティはしっかり補充してあり洗い場も清潔。

総じて温泉宿としては及第点。

ただスーパー銭湯マニアには物足りないといったところか。

もっと設備を現代風にアップデートしたらよいでしょう。


と体を洗いながら寸評してから露天風呂に入る。


「ふわぁ~~」


これよこれ。

ああ今生初めて入るというのに帰ってきたというこの感じ。

これはタケルだけじゃなく私もハマるよ。

決めた、小学生になったら日本各地の温泉入りまくろう。


「はぁ~いいお湯ねぇ、温泉なんて久しぶりだわ~」


母も追いついてきたようだ。


「ママ、私温泉奉行になるわ」


「いきなり何言ってるのくーちゃん」


ちなみに露天風呂をしっかり堪能したあと、サウナに行こうとしたが幼児は入れないと宿の人に止められた。

ぐぬぬぬ……早く小学生になりたい。


「ふう」


温泉入って料理も食べて、大満足の旅だった。

じゃ、あとは寝て帰るとするか。


「くーちゃん明日はサイン会頑張ってねー」


……そういえばそんなのあったね。

私はこの旅の真の目的を思い出し、軽くおさらいをしてから寝るのだった。


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