28、初生配信
※【 】は視聴者コメント
「みんな~こんばんは~天原久遠でーす」
【こんばんはー】
【くおんちゃーん】
【ちゃんねる開設おめでとう!】
【巫女服かわいー】
【え、なにこれ怖い奴?】
事前にブログやSNSで宣伝していたこともあり、配信が始まるとさっそく数少ない私のファンが書き込んでくる。
ちなみに宣伝はしたが心霊配信だとは言ってない、サプライズだ。
「私のチャンネルでは色んな怖い場所を回って、悪い幽霊やっつけちゃいます!」
【まさかの心霊動画www】
【や、やっつけちゃうんだ……】
【背景がすでに怖いんだが】
【ええ……?ていうか大丈夫なの?】
「保護者兼アシスタントとしてマネージャーの斎藤が付いて来てます。ちなみに幼児は8時以降働いたらダメだけど、これは趣味だから大丈夫です」
「始めまして、久遠様のマネージャーを務めております、斎藤と申します、よろしくお願いします」
【趣味ならいいの?】
【斎藤呼び捨てにされてんのか、羨ましい】
【斎藤ちーっす】
【マネージャーか、頼りになりそうな声してるわ】
【絶対久遠ちゃん守れよ!】
意外と好意的。まあ流石に幼児にガチ恋もないか。
「と、いうわけで、私、美幼女退魔師久遠が、悪い幽霊、退治してあげるわ!」
私は巫女服に木刀を構え、ビシッとポーズをとる。
「行くわよ斎藤!」
「はい、久遠様」
【なるほどーそういう設定か】
【主人と従者って感じでいいね】
【お嬢様な久遠ちゃんもかわいい】
これでキャラが変わったことを印象付けられたかな?
よし、じゃあ探索を始めよう。
「私は今、都内の有名な心霊スポット、ホテルサンズリバーに来ています。うわー不気味ねー」
午後8時、エントランスは荒れ果て、割れた窓ガラスから吹き込む風の音が不気味に響いている。壁には黒いシミが広がり、ところどころに置かれた家具が分厚い埃をかぶっている。
明かりは私の懐中電灯と、斎藤のヘッドライトのみ。
視界は非常に悪く、暗闇から何かが這い出てきそう。
「く、くくく久遠様?やっぱりもう帰りましょうよ、この企画止めて他のにしませんか⁉」
【斎藤ビビりすぎwww】
【頼りになりそうなのは声だけだったw】
「嫌よ、まあ見てなさいって、幽霊が来ても私が倒してあげるから」
そういってゆっくり進む私。
長く先の見えない廊下を歩く。
カタン、とドアが鳴る。
「うわぁぁぁ!!」
「風で動いただけよ」
【くおんちゃん強い】
【頼もしすぎるでしょこの幼女】
【俺、最初クソ怖かったけど、なんか安心してきた】
む、もう少し怖がるべきだろうか、いやでもなあ、斎藤がここまで怖がってると、逆に冷静になるっていうか。
まあいいか、怖がるのは斎藤担当、私は落ち着き担当で。
ゆっくりと一つ一つの部屋を開け、ホテルにまつわるエピソードを語る。
「この部屋では昔殺人事件があってね……それ以来夜中に不気味な影が徘徊するようになって、それが原因でホテルは廃業、オーナーは自殺してしまったそうよ……そしたら、後日影が2つに増えてたんですって、その後も……」
「や、やめてくださいよ……もっと明るい話しましょう?」
斎藤が大げさに怖がってくれるので、私の語りにも熱が入る。
【こえー】
【ひぃぃぃ】
よしよし、大分恐怖を与えることが出来た。
もうそろそろ悪霊に出てきてもらおうかな。
私は悪霊の気配を探り始める。
ちなみにここまで悪霊はいなかった。
心霊スポットだからと、実際に悪霊が沢山いるわけではないのである。
いても一匹か二匹……いた!
「斎藤、見つけたわ」
「え?なにをですか?」
「悪霊、今あなたの後ろにいるわ」
「え?うわぁぁぁ!!!!!」
「オオオオオオオオオ……」
斎藤の後ろに不気味な姿をした悪霊の姿があった。
振り返った斎藤は叫び、尻もちをつきながら後ずさる。
【え?ほんもの?】
【CGすごいな】
【ガチでこわいんだけど⁉】
悪霊は本来以前見たような黒いモヤだが、ここのような思念がうずまく場所にいると、人々が恐れる姿をとるようになる。
つまり、心霊スポットの悪霊はものすごく怖い。
ちなみにカメラに霊気の膜を張ることで、カメラ越しにも霊が見えるようになっている。
斎藤には霊気を張ったメガネを渡してある。
「ちょ!久遠様⁉なんですかこれ⁉ほんもの⁉うわぁぁぁ南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏!!!」
斎藤はへたり込みながらも、懐から数珠を取り出しお経を唱える。
カメラがしっかり悪霊を捉えているのは、偶然なのかプロ根性なのか。
私はカメラの位置を気にしながら斎藤の前に立つ。
「斎藤、悪霊にはお経なんて効かないわ」
「じゃ、じゃあ一体どうすれば……!」
私は木刀に霊気を通す。
「簡単よ……」
青白く輝く木刀をしっかり振りかぶり。
「殴ればいいのよ!!!」
思いっきりフルスイング。
「ギヤアァァァァァ……!」
刀身が霊体にメリ込み、光の粒子をまき散らしながら悪霊は爆散した。
あ、しまった、もう少し苦戦をするべきだったか。
「あ、あわわわわ」
【すっげーーーー!!!】
【殴ればいいのよてwww】
【金かかってんなぁ】
【すごいスカッとした!】
【ありがとう久遠様!!!】
【斎藤頑張れ、超頑張れ】
うん、意外と反応は悪くない。
じゃあ〆に入ろう。
私は木刀を構え勝利のポーズをとる。
「これにてホテルサンズリバーの悪霊退治、完了よ!」
「え?え?なんだったんですか今の!え?久遠様⁉」
「それじゃあみんな、また次回の動画でお会いしましょう。チャンネル登録、高評価お願いします!」
「え?あ、お願いします……!」
よし、撤収!
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【なんだかすごいものを見た気がする】
【どうなってんの?ほんもの?】
【CGに決まってんだろ、ピュアか】
【まあCGでもすごく楽しかったな】
【斎藤が意外といいキャラしてたw】
【幼児子役のほっこりお遊戯動画かと思ったら、斜め上の方向に天井突き抜けて宇宙へ飛んで行ったでござる】
【流石久遠ちゃんだよな】
【初見だけどすごいの?この子、たしかにかわいいけど】
【天才だって一部では話題だね、ものすごく記憶力がいいんだって。ていうか3歳児が漢字駆使してブログ書くのもおかしいし】
【え、あれスタッフが書いてるんじゃなくて本人なの?すごすぎない?】
【マジマジ。証拠のショート動画ペケにあげてたし】
【はえー、俺3歳の頃とか文字すら読めなかったのに】
【今回の動画も全部久遠ちゃんが主導して考えたらしいよ】
【もはや天才の枠超えてない?】
【なんにせよ、俺たちは伝説の始まりを見た。これからも可愛くて天才な久遠ちゃんを推していこう】
【だな】
【賛成。さっそく今日の動画を拡散しておこう】
【俺の推してたアイドル、不祥事で解散して落ち込んでたけど、新しい推しができて生きる希望が湧いてきた】
【ゲスールプロwww】
この日を境に、天原久遠の名は一気に広まるのだった。
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