26、久遠の役割
私以外の子役が全員泣き叫んでいる地獄のような撮影現場。
これ、どうすんの?
「あちゃー泣いちゃったかぁ。じゃあ泣き止むまで待機ー」
「へーい」
どうやらこんなことは日常茶飯事らしい。
慣れた様子でくつろぐスタッフたち。
私はどうしようかな。
「ちょっとブロック触ってみてもいいですか?」
「いいよー、汚さないでねー」
初見の驚きは無くなるが、私、というかタケルは○ゴを極めているのでまあいいだろう。
どれどれ、最新の○ゴは、っと。
ほう歯車機構ですか。
昔からあるにはあるが、あれはもう少し複雑で、対象年齢が高いものだった。
これはサイズが大きく、模様が合わさるようになっていて、幼児でも分かりやすい。
あとは、スロープをつなげて滑り台を好きな形にできたり、色々作れそうだ。
私は軽く構想を練るとさっそく作品を作りだす。
まずは滑り台だな。
柱を何本も立て、スロープを繋げていく。
階段には歯車を利用し、ハンドルを回すと連動して階段が動く仕組み。
小さい人形が自動で階段を登って行き、そのまま滑り台へ。
滑り台は大きくカーブし、滑り降りた人形はそのまま階段下まで運ばれる。
そして動く階段に取り込まれ、また滑り台を登るのだ。
そこに鐘とか、旗等の飾り付けをし、見た目の完成度と遊び心地を高める。
ふ、できた。
ハンドルを回すだけで永遠に人形たちが滑り台を滑り続ける、半自動滑り台城だ。
見た目もカラフルで一目で楽しそう。
「ほう、初見であの形にたどり着きますか」
私が自分の作品に満足していると、それを見ていた監督の隣りにいるおもちゃメーカーの人がメガネをクイっと押し上げて唸る。
「ええ…?久遠ちゃん凄すぎない?たしか3歳って言ってたよね」
「3歳ですか?うーん出来なくはないでしょうが……しかし理解力がすごいですね。まさに我々が理想とした形ですよ。目の前でああして遊んでもらえるのはやはり嬉しいですね」
なんて大人たちが会話しているが、男の子たちはまだ泣いている。お母さんもかなり焦っている様子。
大変そうだなぁ。
なんて、ただ見ているだけの私ではない。
現場の雰囲気を良くし、全体をコントロールするのが良い役者なのだ。
そうして全員で一丸となって作る映像こそが最高の作品になる。
私はタケルからそう学んだ。
よし、やりますか。
私は泣いてる男の子たちに近寄り、笑顔で2人の手を握る。
出来るだけ大声ではっきり楽しそうに。
「ね、こっちにおいでよ、一緒に遊ぼう!」
「え?」「んえ?」
びっくりして一旦泣き止む。
そのまま有無を言わせず引っ張る。
「見て見て!これ私が作ったの!」
そういって私ご自慢の半自動滑り台のハンドルを回す。
カラフルな城の歯車が回り、階段が動きだし、人形が次々と滑り台を降りていく。
その様子を見て驚く子供たち。
満面の笑顔で楽しそうに遊ぶ私に興味が湧いたのか、好奇心が泣くのを忘れさせる。
「すごーい!」「ぼくにもやらせて!」
「いいよー。はい、ここを回すの」
「わぁー」
「楽しい?」
「うん!」
よしよし、すっかり泣き止んだ。
やはり泣いてる子供は別のことに夢中にさせるに限る。
私はさりげなくハンカチで涙を拭いたり、髪を整えてあげる。
「作り方、教えてあげよっか」
「いいの?」「おしえてー」
「じゃあ一旦こわすねー」
これでよし、と。
監督の方に目を向けると、頷いてスタッフに合図を出す。
撮影、始まったかな?
あとは純粋な気持ちになって全力で遊ぶだけだ。
元気な男の子たちに合わせるように、時にふざけ、時に教え、一つの作品を完成させていく。
もちろんその間に、このオモチャのアピールポイントの強調も忘れない。
歯車でこんなことも出来るんですよー、と露骨にアピールする。
「かんせーい」
「やったー!」「すごいすごーい!」
3人で真・半自動滑り台城の完成を飛びあがって祝う。
私は若干恥ずかしいが、必死で羞恥心を振り払い、精神年齢を下げてリアル幼児に合わせる。
「はいオッケーでーす!」
撮影も無事終わったようだ。
「楽しかったね」
「うん!」
「ありがとう、その、ぼくたち泣いちゃって……」
「いいのいいの。じゃ、お母さんのとこ行こ?」
そう言って送り出す。
「はぁ~」
「お疲れ様でした久遠様」
斎藤がジュースを持って労ってくる。
「上手くやれてたかしら?」
「ええ、とても可愛らしかったですよ」
「その、変じゃなかった?普段こんななのに、あんな子供っぽくて」
「いえいえ、あんな一面もあるんだと、むしろ魅力が増したかと」
「そ、そう?」
幼児の遊んでる姿に魅力も何もないと思うが。
「久遠ちゃんお疲れー。いやー助かったよ。見事な手腕で、流石斎藤ちゃんが見込んだだけある!」
監督だ。
「ありがとうございます。使えそうですか?」
「ばっちりばっちり。どの画を使うか迷うくらいだよ、CMってのは短いから毎回取捨選択が大変でね」
「あはは、それなら良かったです」
「久遠さん、今回はありがとうございました」
メガネクイッのメーカーの人だ。
「売りをしっかりとアピールして頂いて感謝します。子役には難しい指示を出しづらいので運任せでしたが、あなたのおかげで完璧なものになりました。最高の宣伝になりそうです」
「それなら良かったです。おもちゃ、とても楽しかったので、売れるといいですね」
「あとはお任せください」
そういって腰を90度に曲げる。
こんな幼女にもきっちりと礼を尽くす人だ。
伊達にメガネではない。
「久遠さん、あなたは素晴らしい役者です。新商品が出ましたら、是非またお願いをしたい」
「ほんとですか⁉ありがとうごさいます!」
スっと斎藤に目配せをすると、頷いてメーカーの人と話を始める。
流石、慣れたものだ。
「では、私はこれで」
「ああ今日はありがとう。お疲れ様、斎藤ちゃんをよろしくねー」
さて、あとは……
「「くおんちゃん!」」
あの男の子たちだ。
「今回はご迷惑をおかけしました」
お母さんが頭を下げてくる。いや、よく見るとマネージャーか?あまり母親という感じがしない。
「いえいえ、ああいうこともありますよね」
「今日は親御さんがこれなくて、急遽私が保護者代理になったのですが、やっぱりお母さんがいなくて不安だったようで……」
やはりマネージャーだったか。
よく考えれば幼児子役のマネージャーってめちゃくちゃ大変なのでは?
どう動くか予想できないし泣き出すし。
その点斎藤は楽なもんである。
「ではこれで失礼します」
「はい、お疲れ様でした」
「くおんちゃんまたねー」
「またー」
「お二人も久遠さんを見習うんですよ?」
「「えー」」
バイバイ、と手を振る。
さて、と。
「帰りますか」
「はい」
いつの間にか傍に居た斎藤が返事をする。
「斎藤は私に感謝してよね」
「?はい、いつも感謝して拝んでます」
「拝むな拝むな」
こうして私の2度目のCM撮影は終わった。
今回は幼女子役として上手く出来たと思う。
前回の失敗はなかなかトラウマだったからなぁ。
「よし!」と小さくガッツポーズをして、私は今日の成功を噛み締めた。
この調子なら、きっと次の仕事も上手くやれる。私はそう確信出来た。
これからもどんどんお仕事して、使える子役として名を上げていくのだ!
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