24、エタプロ始動2
「それじゃあ自己紹介といきましょうか、私は社長の天原伊波です」
堅苦しい話が終わったところで、母から自己紹介が始まる。
「そこにいる久遠ちゃんの母親です、よって、当然贔屓します、親なので」
いきなりぶっちゃける母。
ざわめく会場。
えーこれどうするの?
「でも同じくらいみんなも贔屓します。だって私は社長で、この事務所みんなの親だからね。
責任もって全員を大スターにして見せるわー、よろしくねー」
パチパチパチパチ!
おおーと歓声が上がり拍手がなる。
ほっ、そういうことか。
確かに贔屓しないというよりこちらの方が信用出来る。
流石は母である。
次は楓さんが前に出る。
「わたくしはメイドの榊原楓と申します。社長の代わりを務めることも多いので、何かありましたらわたくしにお願いします」
母が横から口を出す。
「メイドじゃなくて社長秘書ね。この人はあの名門・月詠家の元メイドだから誇りを持ってるの。だから妙な格好でも気にしないでねー」
「現役ですが?」
楓さんがさらりと返すと、親御さんから納得の声が上がる。
「あの月詠家の……」「月詠家ってあんななんだ……」
納得……?
まあ月詠家は超名門だが謎も多い。
多大な誤解を産んでるような気もしないでもないが、受け入れてくれたらそれでいい。
楓さんに続いて他のスタッフも挨拶をしていく。
お、斎藤だ。
「マネージャーの斎藤九郎です。皆さんを精一杯サポートをさせて頂きます。基本的にはお忙しい社長の代わりに、久遠様の専属マネージャー兼保護者代わりをさせて頂きますが、他の方に着くことも多々あると思います、よろしくお願いします」
あの死にかけだったホームレスが、随分とまともになったものである。
あの時は50代くらいに見えたが、実際は30半ばといったところか。
「くおんちゃんもう専属マネージャーがいるんだ……すごい……!」
「ふふん、やつは私が拾ってきたからね、みんなも探してみるといいよ」
「マネージャーって落ちてるものじゃなくない⁉」
そうこうしているうちに私たちの番だが。
まあここは割愛していいだろう。
私たち以外の子も挨拶をしていく、みんな可愛くて個性が豊かだ。
男の子も何人かいるな。
気になるのは……
「この子は水無瀬紫苑、1歳です。みなさん、可愛がってあげてください」
赤ちゃんまでおる!
そっか子役事務所って赤ちゃんもいるのか。
オーディションの時は、お母さん無茶するなーと思ったけど、あれは普通のことだったのか。
そういえばCMでは赤ちゃんってよく見かける。
需要はかなりありそうだ、下手したら一番仕事あるんじゃなかろうか。
レッスンとかも不要そうだし。
「では本日はここまでとします。レッスンは来週から始まるので、それまでに服や靴などの準備を整えておいてください、では解散」
はぁ終わったー。
「ねぇねぇ、赤ちゃん見に行こうよ!」
「そうだね」
みんなも気になっているようだ。
「紫苑ちゃん見せてください!」
「いいわよー、ほらしーちゃん、お友だちよー」
「あう~」
「きゃーかわいいー!」
うーむ確かにかわいい。
ほぼ全員が一目見ようと集まり、次々と魅了されていく。
「あう~キャッキャ」
こんな大人数に囲まれて笑っている。
なるほど流石1万人の中から勝ち上がった赤子、この様子ならお仕事先でも安心だろう。
扱いやすい3歳児という私の売りがピンチである。
だが私は嫉妬などしない。
何故なら扱いやすい3歳児というのは今だけの武器であり、小学校にあがる頃には既に私自身の魅力で盤石の地位を築いているに違いないからである。
うむうむ、この子は私の妹分として可愛がってあげよう。
「だうだう~」
しかしほんと物怖じしない子だな。
私も大概だが、私のチートと違ってこの子は天然もの。
この子は将来大物になるかもしれぬ。
いやまてよ?
私はソソっと近寄って紫苑ちゃんの耳元で囁く。
「あなた、実は転生者なんでしょう、隠しても無駄よ、私にはわかるんだからね……」
「あう?」
紫苑ちゃんの何言ってんだこいつという顔。
ふ、まあそんなわけないか……って待って⁉
これ私父と同じことしてない⁉
『パパさ、時たま久遠が頭良い事するたび、転生者じゃないかと思って『お前には前世の記憶があるんだろう?知ってるんだぞ』って話かけてたんだよね~』よね~よね~ヨネー……
「ぐおぉぉ~……!」
「どうしたのくおん!」
私はあの父とまったく同じ行動をしてしまったことを恥じて、床を転げまわるのだった。
何はともあれ、こうしてエタプロは将来有望な20人の子役を迎えた。
さあ、本格的にお仕事開始だ!
お気に召したら感想、ブクマ、☆評価お願いします!