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22、斎藤九郎という男

俺の名は斎藤九郎。

芸能事務所に勤める敏腕マネージャーだ。


しかしそれも昔の話、今は公園で死にかけ、謎の幼女に食べ物を恵んで貰っているホームレス。


初めは天使がお迎えに来たのかと思った。

死のうと思っていたから。


でもよく見ると人間、それもどこか神秘的な可愛らしい幼女で、それでいて砂遊びに全力すぎるというツッコミどころしかないキャラクターの強さに、つい声をかけてしまった。


「お嬢さん、アイドルにならないか?」と。


だが途中まで言いかけて、自分にはもうその力は無いんだと思い出し、咄嗟にごまかしたら、つい食べ物を要求してしまった。


せっかくあと少しで死ねたのに、まったく意地汚いことだ。


そうして恵んでくれたたまごボーロは栄養価たっぷりで消化にもよく、瀕死の体に染みわたるようだった。


あまりの美味しさに夢中になってると、今度は水分不足により粉が喉に張り付き、むせてしまった。


そんな俺を見た幼女は、その小さな手のひらに水をくんで、俺に飲ませてくれた。


ああ……天使かと思ったが仏であったか。

心なしか水が輝いて見える。


俺自身は無宗教だったが、田舎のじいちゃんばあちゃんは毎日仏壇に向かい、熱心に御経を唱えていた。

「仏さんは見てくれているからね」「いつかきっと助けてくれるよ」

と語っていたが俺はそんな2人を信じていなかった。

ああ、じいちゃんばあちゃん……俺は……。


と陶酔していたところで、異変に気付く。


なんかこの水おかしくない?と。


飲むと異様に活力が湧き上がってくる。

幼女の手から飲むことによるプラシーボとかではなく(俺にそんな趣味はない)

実際にあれ程死にかかっていた体が回復していくのだ。


まさか、ほんとに仏?


謎の不思議体験に戸惑いつつ、段々と意識がはっきりしてきた。


「ありがとう、もう大丈夫だよ」


助けてくれた幼女に対しお礼を言う。

そして不審者ではないんですよ、と言い訳をする。


「マネージャー⁉」


そして俺が元マネージャーだと言うと反応する。

そう、元マネージャーだ。

俺はポツポツと身の上話を始める。

幼女に聞かせる話ではないが、この御仏の化身に己の人生を聞いてもらいたかったのかもしれない。


「俺は元芸能事務所のマネージャーでね、知ってる?ゲスールプロって言うんだけど」


俺は業界でも中堅のゲスールプロダクションで働いていた。


あまり業績のいい事務所では無かったが、一生懸命に営業をし、アイドルに合わせた育成をして、何人ものトップアイドルを産みだした。

いつしかアイドルと言えばゲスールプロ、と呼ばれるほどになり、その功労者は間違いなく自分であった。


しかし社長は儲けた金で、派手に遊び歩くようになっていった。

いかがわしい店に通い、自分のお気に入りの嬢をアイドルにするよう要請してくる。


だが当時の俺は「スターリーステラ」というアイドルに全力を注いでいた。

それに、才能も無く、目に暗い光を宿した水商売の女なんて俺はアイドルとは認めない。

そう言って俺は同僚に任せて自分の仕事に集中した。


そして努力が実を結び、ステラが遂に武道館ライブを行おうとするその寸前、俺の全てが失われるのだった。


俺はアイドルに手を出し、いかがわしい接待を強要しているという濡れ衣を着せられた。


ネットは大炎上し、俺やステラたちは何度も否定したが、誰も信じてはくれなかった。


この時事務所は、俺が拒否した水商売の女たちにすっかり乗っ取られ腐敗しきっていた。

社長も同僚も、自分を拒否した俺と、人気のあるステラを排除しにかかったのだ。


ステラの映ったCMは取り下げ、冠番組もラジオも終了。

決まっていた企画も全てキャンセル、俺は多額の賠償金を支払うハメになり、事務所を追い出された。


許せない……。

俺だけならまだいい、だがステラのメンバーや過去の担当達にまで汚名を着せ、今ものうのうと俺の稼いだ金で遊んでいるこの事務所の奴らが!


しかし今の俺にはなんの力も無かった。

濡れ衣で借金を返すのも馬鹿らしい。

俺は働く気力もなく日々ダラダラと過ごした。


ステラのメンバーは時折り様子を見に来てくれたが、俺は申し訳なくて顔も見れない。

どうやら今はスーパーでバイトをしているらしい。

俺がこうならなければ、今頃輝かしい舞台で歌っていたというのに。


そうこうしているうちに俺の財産は全て差し押さえられ、アパートも追い出されてしまった。


もう、いい。

死のう。


せめて目立つところでみすぼらしく死に、俺をはめた奴らを呪いながら逝こう。


そう思って公園で死を待っていたら、キミに救われたのだ。


そう長々と己の人生を語り終わると、仏の化身たる幼女は目を閉じうんうんと頷き、俺に手を差し出してきた。


「斎藤、あなたを私の専属マネージャーにしてあげる」


ああこれは……この子が俺を憐れんで、最後はマネージャーとして死なせてくれると言うことか。


俺はその優しいごっこ遊びに付き合う。


「あ、ありがたき幸せ」


俺はひざまずき、忠誠を誓うポーズをする。

こんな感じかな?


「これであなたは私のものよ」


幼女が嬉しそうに微笑んだ。


その笑顔はとても可憐で心強く、守りたいとも、守ってもらえるとも思えるものだった。


「着いてきて」


「あ、はい……」


遊びの相手かな?短い間だけど、俺はこの子のマネージャーとして、最後の仕事をしよう。


そう思ったのだけど。


「あなたをくーちゃんの専属マネージャーとして雇います」


「ええ⁉」


いつの間にか俺、いや私は本当に仏、久遠様のマネージャーとして雇われていた。


一度は諦めた命、俺は今まで培った全てを使って、久遠様を最高の女優にしようと誓うのだった。


「これからは私の為に働くのよ」


「はい!」


しかしこの時はまだ気付いていなかった。

久遠様は女優の枠だけに収まる器ではなく、その全ての仕事に付き従う私は、多大な苦労をするハメになることを。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


後日、今までの経歴を聞いた社長は「そう、あとは任せて」とにっこり微笑んだ。


なんだろう、疑問に思ったが今はここでの仕事を覚えるのが先だ。

しかし私は過去の事件のせいで表に出られない、どうやって久遠様を支えるべきか……。


そう考えていた数日後。


ゲスールプロは今までの全てが明るみになり、大炎上して一瞬で潰れた。


私の誤解も大々的に報道、世間には好意的に受け止められ、

私は堂々と表を歩けるようになった。


え、何が起こったの?こわい。


私は社長には絶対逆らうまいと、強く心に刻むのだった。


ちなみに斎藤と恋愛関係に発展することはありません


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