21、公園で拾い物2
砂場に着いた私はおもむろに道具を取り出す。
ヘラやブラシ、スプーンなどだ。
バケツに水を汲み、砂に水を含ませる。
「さて、今日はどんな作品を作ろうかな」
この私が作る砂像だ、妥協は許さない。
やはりスタンダードに城か?
この前はノイシュヴァンシュタイン城を作ったから、今回はエディンバラ城、いや初心に返って姫路城なんかも……
「お嬢さん……」
土台を作り作業に入ろうとする私にかすれた声がかかる。
誰だこの私の作品作りの邪魔をする奴は。
顔を上げると砂場の前のベンチに男が横たわっている。
「お嬢さんかわいいね……」
完全に不審者。
ボロボロのスーツに伸びっぱなしの髭、脂ぎった髪、何日も風呂に入ってなさそう。
いわゆるホームレスである。
この公園にはいないと思っていたが、どこにでもいるものだ。
「…………」
私は半身に構え、いつでも鳴らせるよう防犯ブザーに手を伸ばす。
ついに使う時が来たか……
ぶっちゃけちょっと鳴らしたかった。どんな音がするのだろう。
「あ、いやまって!怪しいものじゃないから……」
私が今まで出会った中で一番怪しい男がそう言う。
「ただお嬢さんアイ……いや、そうだ、お腹が空いたから、何か食べるもの持ってないかと思って」
なんと物乞いか。
3歳児に物乞いとは世も末である。
確かに頬は痩せこけ、目は落ちくぼんで今にも死にそうである。
ふむ。
「仕方ない、おじさん可哀そうだから、私のたまごボーロを恵んであげるよ」
ポケットに入っていたとっておきのお菓子をあげる。
「あ、ありがとう、おじさんもうここから一歩も動けなくてね……」
たまごボーロを受け取り袋を切ろうとするも、なかなか切れない。
「仕方ないなぁ、ほら」
袋を切ってあげる、もはや3歳児以下の力しかないようだ。
袋を渡すと傾けて一気に食べ始める。
「美味しい、美味しいねぇ、こんなに美味しいたまごボーロは初めてだよ」
たまごボーロでこんなに感動する人初めて見た。
「う、ゴホッゴホッ!」
「おじさん⁉」
トドメを刺してしまったか⁉
「み、水を……」
ああ……たまごボーロは水分持ってかれるからね……
「やれやれ」
私は公園の水道に水を汲みに行く。
あ、器が無い。
まさかバケツに飲み水を汲むわけにもいくまい。
仕方ないから両手のひらを合わせ水を汲み、苦労して水を止める。
こぼれないように霊気でカバーする、ほんとに便利だ。
「ほら、おじさん」
「ああ、ありがとう……」
手のひらから口に水を注いであげる。
それを3度くり返すとおじさんはゆっくり起き上がる。
「ありがとう、もう大丈夫だよ」
穏やかな顔でそういう。
「かわいいだけじゃなく、何て心の優しいお嬢さんだ。ああ、俺がまだ現役だったら、キミをトップアイドルにしてあげるのに……」
「アイドル?」
「ああ、おじさんはこう見えても、昔は芸能事務所で働いていたんだよ、マネージャーとしてね」
「マネージャー⁉」
なんとこの不審者マネージャーだったのか。
丁度探してたところに野良のマネージャーを見つけてしまった。
なんというご都合展開。
マネージャーといえば芸能人を公私ともに支える相棒。
そんな相手を公園で見つけるなんて……
まるっきりラノベによくあるあれである。
異世界転生したらまず奴隷を救うみたいなお約束展開。
もしくはスラムで死にそうな少年を救って従者に取り上げるパターン。
「○○、着いてきなさい!」「ハッ!お嬢様!」
「○○!死なないで!」「お嬢様が無事で良かった……」
「○○、こんな歳になるまで、よく仕えてくれました……」「勿体ないお言葉です、奥様……」
もやんもやんと私の頭の中で、お嬢様と従者の定番シュチュエーションが流れ始める。
私はそういう関係が大好きである。恋愛関係にならず、最後まで忠誠心で繋がるのが良い。
目の前にいるのは今にも死にそうな元マネージャー。
ここで助ければきっと私に忠誠を誓い、生涯私のために身を粉にして働いてくれるだろう。
うん、ここで会ったのも何かの縁。
私はこの男に決めた。
私は高貴さを滲ませた顔で不審者に問いかける。
「おじさん、名前は?」
なんだかブツブツ言ってるおじさんに問いかける。
「え?斎藤九郎だけど……」
「そう、斎藤、あなたを私の専属マネージャーにしてあげる」
「え?」
そういって手を差し出す。
「あ、ありがたき幸せ」
斎藤はひざまずき、私の両手を持って、手の甲に額を付ける。
「これであなたは私のものよ」
ムフーっと主従の誓いに満足する。
なんだか楽しくなってついお嬢様口調になってしまった。
「着いてきて」
「あ、はい……」
ということで私は颯爽と斎藤を侍らせ、母の元へ向かう。
気分はもうお姫さまだ。
「ママ~人間拾った~」
「くーちゃん人間は拾うものじゃないわよ」
「これ飼いたい」
「人間をこれとか飼いたいとか言っちゃダメでしょくーちゃん」
「ママ~いいでしょこれ飼っても~」
「だぁ~め、元の場所に戻してらっしゃい」
「ちゃんとお世話するから~」
「え、えっと……」
急に始まったホームドラマに戸惑う斎藤。
「ごめんなさいね、くーちゃんが変な事言って」
「い、いえ、お嬢さんには助けて頂いたのでこれくらいは……」
「ママ、この人元マネージャーなんだって、私この人に決めたの」
「マネージャー?」
ジッと斎藤を見つめる。
「えーっと、それはお嬢さんのごっこ遊びで……」
「ふむ、いいわよ」
「え?」
「あなたをくーちゃんの専属マネージャーとして雇います」
「ええ⁉」
「やったー流石ママ!」
どうやらママの御眼鏡に叶ったようだ。
「じゃ、さっそくお話を伺いましょうか」
「どういうこと⁉」
こうして私は道連れ、もとい生涯の大切な相棒となる、斎藤九郎と言う男を手に入れるのだった。
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