19、夏祭り
ぴ~ひゃらぴ~ひゃらドドンガドン。
祭囃子が響く盆の夜。
私、天原久遠は山の中にいた。
陰陽師のような格好をして手には木刀。
祭り、参加したかったなぁ……
遠い目をしながら、目の前に広がる悪霊の群れに目を向ける。
今日は修行の総仕上げ。
『これより入門最終試練、悪霊100体斬りを行う!』
と祖母に言われ近所の曰くつきの山に登る、徒歩で。
ここは自殺の名所で毎年何人も亡くなってるらしい。
そんな場所に夜中に登山、ガチで怖い。
あれから3日間ひたすら霊気の扱いをみっちり練習し、それなりに身体強化も出来るようになった。
3歳の体で登山なんて虐待以外何者でもないが、こうして登れてるんだから大丈夫でしょ?という祖母に母。
前回のオーディションの時から薄々感じていたが、月詠家の人間にとって、身体能力は霊気で補助可能なものであって、体の幼さなど考慮に値しないらしく、私にも平気で過重労働を強いてくる。
あの時は霊気なんて使えなかったんだが、それでも素質はあったので、一般の幼児よりは体力があったらしい。
まあ頭脳が大人な私にとって、幼児だからと変に制限をかけられるより、大人として扱ってくれた方がなにかと楽なので文句を言うつもりはない。
でもいきなり実践はおかしくない?
我次期当主ぞ?
こんな恐ろしい山に放り出され、100体倒すまで帰ってくるなとは、獅子が我が子を千尋の谷に落とす的なあれだろうか。
流石平安から続く名家だわ、価値観が未開すぎる。
とは言えまあなんとかなるんじゃないかとは思う。
お試しで檻に入った悪霊を倒したことがあるが、霊気を纏った木刀をチョンと当てたら浄化したし。
どうやら私の霊力は相当強いらしい。流石私である。
さて、ブーたれてる間に山頂に着いた。
「うわぁ、ほんとにウジャウジャいるぅ……」
山頂の広場には古ぼけた神社があり、その境内には悪霊が所狭しと蔓延っていた。
なんでもお盆の時期は、先祖の霊に便乗して悪霊も現世に降りてくるのだとか。
それを各地のこう言った月詠家の神社におびき寄せ、結界で閉じ込めてるらしい。
そして夏祭りの夜に一斉に駆除。
難易度も優しいため、初心者の練習用の他、腕試しや、むしゃくしゃした時のストレス発散にも使われるのだとか。
月詠家の悪霊に対する扱いはほんとに軽い。
さってやりますか。
黒いモヤのような悪霊を見つめる。
動きは結界のおかげで鈍い。
中には善良な霊も混じってるので、間違えて攻撃するとペナルティらしい。
まるっきりゲームである。
だから――少しワクワクしてきた。
木刀を構え霊気を纏わせる。
青白い光が薄っすらと灯って綺麗。
ドンドコドンドコドカッカドカッカ
激しい太鼓の音が聴こえる。
いいね、おあつらえ向きのBGMだ。
「でぇぇーーーーい!!!」
幸いタケルは時代劇の出演経験があったので、それなりに殺陣の稽古を積んでいる(悪役Aだったけど)。
記憶を頼りに私は悪霊の群れに飛び込み木刀を振るう。
木刀に触れた瞬間、悪霊は微かな手ごたえを残して浄化される。
反撃はしてこない。してきても遅いから回避は容易!
イケる!全然楽勝じゃないか!流石私!
せっかくだからスタイリッシュに、より魅せる動きを意識して、舞うように霊を斬り続ける。
おっとこれは善霊か。あぶなっ!触れられそうになりバックステップで回避する。
ドカカンドカカンドカッカドカカン
BGMがテンションを上げる。
しまったカメラを回しておくんだった。
たまに混じる善霊は見逃し、次々と浄化させる。
光の粒になるのがまた美しい。
これ……たっのしーーーー!!!!
ヤバい、ハマりそうだ。
将来は美少女退魔師もいいかも……。
ドコドン!
む。
太鼓がひと段落した時、霊たちの様子がおかしくなる。
なんだ?
おや?悪霊の様子が……?
一つに集まって……?
合体!なんと巨大化して悪霊王なった!
「うそでしょ⁉」
ドコドコドコドコドコ
太鼓の演奏が再開されフィナーレに入る、どうやらボス戦らしい。
「やったらぁ~~~!!!」
美幼女退魔師天原久遠の最後の戦いが始まった。
ーーーーーーーー
「はぁ……はぁ……」
静寂。
「手ごわ……くはなったな、あんまり」
巨大化したとは言え、所詮は結界の中の悪霊。
動きは鈍くていい的だった。
ただタフで、きっと108回は叩いただろう。
洒落の利いた設定だ、どこまでもゲームっぽい。
「あーつかれた」
ゴロンと寝ころぶ。
星空が良く見える。
空が近くて、届きそうだと星に手を伸ばす。
ま、無理だけど。
さて、100体以上は倒したし、これでゲームクリア、いや試練完了だ。
帰って寝よう。
ひたすら修行して、なんてお盆休みだ。
って幼児に休みも何もないか。
幼稚園は来年からだし。
ひゅ~~~~~
お?
ドォン
「あ、花火!」
私は急いで立ち上がって花火が見えやすい位置に移動する。
その間もドンドンと矢継ぎ早に打ち上げられる。
「わあ~」
夜空に咲く色とりどりの光の花。
花火会場からほど近い山の上から見る花火は、それはそれは大きく美しく。
今度こそ届きそうだと、私は花火に手のひらを向け、
ギュッと手中に納めるのだった。
ーーーーーーーーーーーー
「ただいまー」
「「お帰りなさいませ!」」
花火を最後まで堪能したあと屋敷に帰ると、使用人全員でお出迎え。
「くーちゃんお帰りー」
「久遠お疲れ様」
母と祖母も出迎えてくれる。
「なにこれ?」
「お祝いよ、一族が最初の試練を突破したら毎回やるのよ」
「試練は夏祭りの時期にやるから便乗して祭り仕様だ、ほら屋台の焼きそばもあるよ」
「わあー!ありがとうばぁば!夏祭り行きたかったの!」
「そうだろうねぇ、仕方ないとは言え、悪いことをしたよ。さ、しっかり楽しんでおいで」
「うん!」
「試練も無事突破したし、あんたも立派な月詠家の一員だ」
私は眠気も吹っ飛び使用人が用意した屋台を楽しむ。
私一人で遊ぶのかと思ったら他にも子供が何人もいて遊んでいる。
お盆だから親族だろうか。使用人の子供らしき子も何人もいるな。
「くーちゃん、楽しかったでしょ」
「うん、正直またやりたい」
「残念ながらあれは一人一回なのよねぇ、お盆の時期に新人が誰も居なかったら、もう一度出来るかもだけど、みんなやりたいから毎回抽選が激しくて」
「月詠家って悪霊をなんだと思ってるの?」
その時わぁぁっと歓声が上がる。
「なんだろ」
野外スクリーン?映画でも見てるのかな?
「んな!」
そこに映っていたのは私が山でスタイリッシュに戦っている映像だった。
「いたの⁉」
「そりゃいるわよー、ママもお母さまも大興奮だったわ!」
あの時テンション上がってたし、ゲームの剣技を真似したり、まるっきり中二病だった。
は、恥ずかしい……。
まあ、でも存外悪くない映りだ、なんたって役者が世界一の美幼女で未来の大女優にして月詠家の次期当主様だ。
うん、あとでデータもらっておこう。
色々あったけど、こうして私の初おばあちゃんち行きは終わったのだった。
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