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17、おばあちゃんち

写真集用の撮影も終わり、今はお盆である。

扇風機の前を陣取り、だらしなく大の字で寝ころぶ。


写真集は完成してもすぐには売らないらしい。

そりゃそうだ。今の私はCM一本撮っただけでまったくの無名。

いくらかわいいとはいえ、だれがよく分からない3歳児の写真集など買うと言うのか。


というわけで私は露出の機会を増やすべく計画を練る。


一昔前はひたすらオーディションに出たりイベントに参加したりしただろうが、今はネット社会。

そう、世界一の動画サイト「Yo! Tube」通称ツベがある。

あれに私のチャンネルを作り、世界一かわいい私が適当にネタ動画を投稿すれば、全世界で再生され知名度が上がり、お金もガッポガッポという寸法よ。

幸いやり方はタケルが知っている。

問題はどういう内容にするかだが……。


「くーちゃん、お盆だからおばあちゃんちに行くわよー」


なぬ?


「おばあちゃんってママの?……え、会っていいの?」


「ええ、本当は行きたくないけど、会社を作る時に約束させられちゃったからね、それに能力のこともあるし」


修行か……一体どんな修行なんだろう、なんせ平安より続く霊能の大家。相当厳しいと予想される。

案外現代人向けにアレンジしてあったりして。まあそんなの修行になんないか。


「ん、わかった、パパは?」


「パパはお仕事よ、稼ぎ時なんですって、どの道出禁されてるし」


やはり駆け落ち……!


「じゃ、行くわよー」


とタクシーで揺られること30分。存外近い。


目の前にはどこまでも続く白い壁と立派な門。

純和風な木の門に不釣り合いなチャイムとディスプレイが付いている。

母がチャイムを押すとピンポーンと意外と普通の音が鳴り、ディスプレイに女中さんと見られる和服の女性が映る。


「ただいまー」


「お帰りなさいませお嬢様」


すると自動で門が開く。

和風なのに完全機会化されていて風情がないなぁ。


「ご案内致します」


待ち受けていた女中さんが案内を務める。

広すぎる庭を歩き、ドでかすぎる本邸に入る。


「まずはこちらにお召し替えください」


おおー着物だ。

しかも幼児用サイズ、わざわざ用意したんだろうか。


「はぁ、いちいちめんどくさいわぁ」


「我慢してください」


どうやらこの家にいる間は和服が正装らしい。

和服は嫌いじゃないけど、確かに毎日は堅苦しいかも。


サイズはピッタリ。流石私、何着てもかわいい。何度も鏡で確認する。


「あらーかわいいわねぇ」


「はい、とてもよくお似合いです」


むふふ。


「ところでこれ買ったの?」


「はい、お嬢様のお古は流石に色あせていましたので」


「気合入ってるわね……」


「それはもう……」


なんの話だろう。


「それではここからは久遠様お1人でお願いします」


「え⁉」


「ママはここでお茶飲んでるから、頑張ってねー」


ええ?こんな厳格そうな家の主とか、絶対一人で会いたくない。


「こ、怖くない?」


「全然大丈夫よ、くーちゃんのかわいさで転がしてやんなさい」


何を言ってるのかこの母は。


孫とは言え私のかわいさが通用する相手とは思えない。


「ではご案内します」


「はーい……」


仕方あるまい、静々とついていくとする。


「こちらでございます」


長い廊下を歩き、ピタリと大きい障子戸の前で止まる。


「失礼致します、久遠様がお見えに参りました」


「おはいり」


「失礼します」


ドキドキ。


いよいよ謎に包まれた月詠家の当主に会う。

神霊を憑依させ、国政を操るというあのぶっ飛んだ家だ。

きっと厳しい修行に耐え、自分にも相手にも妥協を許さない、

そんな当主然とした鬼ババ様に違いない。


いや?よく考えると母のあのポワポワした様子からして、

案外可愛らしいおばあちゃんかもしれない。

そうに違いない、そうだったらいいなぁと私は覚悟を決め部屋に入る。


「よう来たね久遠、こっちへおいで」


豪華な屏風を背に正座をし、私を手招きするのが祖母だろう。

歳は50くらいか。意外と若い。

私は用意された座布団に移動し正座をする。


祖母の顔は真面目な表情のまま一切動かない。

これは怖い方だったか……!


「始めましてばぁば、久遠でしゅ、です!」


噛んだ……!


「ばぁば?」


「あ!いけなかった?え、と、おばあちゃま?」


「いや、いいよ、あたしはあんたのばぁばの月詠琴だ。始めまして久遠」


あ、ちょっと笑ってる。

うん、絶対優しい人だ、私は安心して力を抜く。


「あんたのことは聞いてるよ。憑依されて自力で祓ったんだって?しかも完全記憶能力があって、霊の記憶を全部自分のものにしちまったって?滅茶苦茶だね」


「あはは……変だよね?」


「いいや?我が月詠家は能力の強さを何より尊ぶ。滅茶苦茶な程、有難がられるんだ」


「そうなの?」


「そうとも。あんたの能力は過去に類を見ないほど強力だ。というわけで次の当主は久遠だ」


「はい?」


なんて?


「あたしの次の月詠家の当主、そしてツクヨミグループの次期総帥、久遠に決定したから」


「いやいやいやいやいおかしいでしょ⁉え?ママは?ていうか妹さんがいるんじゃなかった?」


祖母はやれやれと溜息をつく。


「月詠家の当主は代々憑依能力があるのが絶対条件でね。それは長女にのみ現れる。なのに伊波にはその能力が無くてね。妹の伊万里も次女だからもちろん持っていない」


「そうなんだ……でもママの能力は?あれこそ滅茶苦茶じゃないの?私のよりチートだよ?」


「チート?まあ能力は確かに凄まじい。だから誰もがあの子を認めてるんだけど、本人が気にしちまってね。親族たちも、そろそろ掟を改める時じゃないか、と調整しているうちにあの子は結婚して出ていっちまった」


「おぅ……」


「初めは連れ戻そうと躍起になったもんだけど、なんせあの子が選んだ男だろう?これはもしかしたら大いなる意味があるんじゃないかって話になって、しばらく放っておいたらあんたが産まれた。あんたの話を聞いた時は震えたよ。流石あたしの娘だってね」


「ママ……」


「ってことで、次の当主はあんたね」


「う、うーん……」


月詠家の当主か、日本有数の歴史と権威を持つ一族。

その力は果てしなく、財界、政界はもちろん、海外にも顔が利くという。

そんな家の当主に私が?

世界一かわいくて大天才で未来の大女優たる私が、

この家の当主になったらどうなる?


女優業もいつまでも出来るものではない。

当然引退する日もくる。

その後に当主の座を継いで、今まで芸能界で培ったコネで日本を裏で支配するの。

総理大臣も私の機嫌をとって、各国の王だって私に頭を下げてくる。

そうだ、無人島を買って世界に通用するリゾート島を作ったらどうだろう。

某夢の国なんて目じゃないくらい私好みのファンタジー世界を作りあげるの!

それからそれから……


……案外悪くないのでは?


「分かりましたおばあ様、その話、受けさせて頂きます」


「おおそうかい!なんだか一瞬不穏な気配がしたけど、受けてくれてなによりだよ!」


流石鋭い。


「とは言え久遠、我が家は神霊を憑依させてこそ。今のアンタでは憑依させたら大変なことになるだろう。だからこの盆の間に基礎的な訓練は受けてもらうよ?」


「もちろんです、ばぁば」


こうして私は日本有数の大家、月詠家の次期当主に内定したのだった。


この作品異世界でもファンタジーでもない?のでジャンルを文芸(純文学)にしてたのですが、よく見ると(純文学)を変更出来ることにやっと気付きまして。

どう考えても純文学ではないのでヒューマンドラマに変更します!

引き続き、文芸 (ヒューマンドラマ)として当作品をお楽しみください。


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