表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/113

16、写真集の撮影

カチャカチャ……


アタシの名前は有栖川蘭子。

このスタジオワンダーランドの社長にしてカメラマン。


アタシは今、この暗い部屋でカメラの最終調整をしている。


そうしながらこの間体験した過酷な修行の日々に想いをはせる。


ーーーーーーーーーー

女王のアリスこと天原久遠。あの方の写真集を作る約束をしたアタシは修行に出る事にした。

今のままでは簡単に呑まれてしまい完璧な写真を撮ることが出来ないと感じたのだ。


修行と言えばそう、山。

山に修行に行こう。

そう思ったアタシは修行に適した険しい山はないかと、撮影スタッフの一人、自称山ガールの山田に問いかけた。


「山田ちゃん、ちょっと修行に出ようと思うのだけど、この辺にそういった山はないかしら?」


「え?社長も山に興味があるんですか⁉丁度よかった!今度ピッタシのツアーがあって、一人じゃ参加し辛かったんですよー、一緒にいきましょう!」


「ツアー?」


そして始まる地獄の山伏体験ツアー。

ツアー参加者は意外と多く、全員女性。

白い清潔な山伏の貸し衣装に身を包み、険しいが風光明媚な山の中腹までバスで登り、それからは一般女性が耐えられる程度によく整備された山道を歩く。


途中途中にある茶屋で団子や抹茶をしばき、道中ではスタンプラリーもあって達成感がアップ。


山頂はお寺風のホテルで美味なご当地グルメ(肉)を頂き、天然温泉で疲れを癒す。


そのままぐっすり眠り、早朝は皆で美しいご来光を拝み、参加者全員で記念撮影。

もちろん撮影はアタシが買って出る。


帰りはリフトでゆっくり自然を眺めながら下山。


仲良くなった何人かと連絡先を交換し、また来ようねと解散。

大自然の不思議なパワーに触れ、身も心もリフレッシュしたのだった。

ーーーーーーーーーーーー

楽しかった、楽しかったけど!アタシの望んでた修行はコレジャナイんだよなぁ……!

皆で撮った思い出の記念写真を前に頭を抱える。


まあ、あのツアーで何も得なかったわけでは無い。

大自然の清浄な気に触れたアタシは今までのアタシではない。


煩悩は祓われ、美少女を見ても心穏やかでいられる。

今ならあの女王を前にしても、最高のパフォーマンスを見せることが出来るだろう。


よし、行くか。


アタシは調整の終わった相棒を手に、スタジオへと向かうのだった。


…………


「おはようございます蘭子さん!今日もよろしくお願いしますね」


うっまぶし……!先制の笑顔ペカーを受けて若干怯むも、ご来光を見たアタシには軽傷だ。


「おはようアリ、久遠様。今日は沢山写真撮るわよ~」


「頑張ります!」


うは~かわええ……いや呑まれるな。

まだ撮影は始まってもいない。


「じゃあまずはこのセットに衣装を合わせて……」


そうして撮影が始まる。

カメラを向けるとすぐ気付く。


「あれ?久遠様ちょっと雰囲気変わった?」


「え?分かりますか?」


「うーんちょっと幼くなったというか」


可愛らしさは相変らずだが、前にあった「可愛く撮らなかったら即処刑」みたいな鋭さが無い。


「この間初めてのCM撮影で、私に求められてるのは普通の3歳児の姿だって言われちゃって。だからせっかく3歳の今をとるなら、3歳らしい態度のほうがいいかなって」


チッ、余計なことを、これだから映像屋は……!


「そうね、CM撮影ならそうでしょうね、あれは商品が主役で演者の個性はあまり必要じゃないもの。でもね、写真集なら別よ。写真集の主役はあなた一人、シナリオも設定もない、あなた自身を撮るのだから。今のあなたの素をそのまま出していいのよ」


「なるほど……流石蘭子さん!すごいカメラマンさんだけあって言うことが深い!」


そういってキラキラ尊敬の目を向けてくるのでそっと目を反らす。

アタシはただ、もう一度あの女王を撮りたいだけなのだ。


「じゃあ蘭子さん、世界一かわいい私を、完璧以上に撮ってくださいね?」


来た!これよ、このプレッシャー!

自分以上にかわいい存在なんていないと信じていて、それを証明するカメラに対する恐ろしいまでの猜疑心。

鏡は自分で最適な姿を調整出来るけど、写真は他人に頼らなければならない。

お前に私の理想の姿を撮れるのか。

常にそう問いかけられている。


「い、いいわよー!最っこうにかわいいわー」


「ふふん」


「ドヤ顔もいいわー」


どんどん撮る。セットを替え、外へ出たりもする。

そうだ、山、山を撮りたい。

ロケバスで山を登り、風に苦労しながら撮る。


日が傾き始め、周囲が夕日で赤く染まる頃、そろそろ撮影も終わりだ。

山頂からの景色をバックに振り返る構図でフィニッシュだ。


「久遠様、今日は笑顔が 特に素敵ねぇ、何か良い事あったのかなー?」


「え?えっと……最近、お友達が出来ました……」


パシャ。


その照れた顔は夕日よりも赤くて、今日最高の1枚を撮り終えた私は、鼻血を出して倒れたのだった。


お気に召したら感想、ブクマ、☆評価お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ