15、エタプロオーディション3
「「ありがとうございました」」
今ので95人目。
引き続きオーディション会場で面接官をする私。
今の時間は午後七時。外はすっかり夜である。
始まる前は薄っすら、友達できるかな?
とか考えていたが、この頃になると感じるのは「無」だ。
一応笑顔は貼り付けているが、心の中では「早く終われ早く終われ」と、一刻も早く終わって欲しい一心である。
何ゆえ3歳ですでに、終業間際の労働者のような経験をせねばならないのか。
心なしか母も同じような顔をしている気がする。
「次の方どうぞー」
「96番!片瀬瑞希、6歳です!よろしくお願いします!」
お子様方はばっちり昼寝をキメてきたようで元気いっぱいである。
私もお昼寝したい。
「わたしは将来アイドルになりたいです!」
アイドル多いなー。
今日の半分くらいはアイドル志望だ。
ジュニアアイドルは演技の仕事だけでなく、
歌ったり踊ったり、イベントに出たりファンと交流したり、
ただの子役より華々しい。
世間でもかわいい、かっこいい=アイドル。
って感じで、親もそうさせたいんだろうなぁ。
まあ私はアイドルには興味ないけど。
それに私がアイドルになったら大変だ。
仮にグループに入ったら、私が人気を独占してしまう。
それでメンバーの恨みを買って嫌がらせされたり刺されたりするんだ。
やるならソロ……それで伝説のアイドルとして頂点を極めて……。
「くーちゃん終わったよ?」
はっ!妄想してたらもう終わったようだ。
「次は97番?」
「いやもう全員終わり」
なぬ⁉どんだけアイドルの妄想していたのか。
「はぁ~つっかれた~」
「お疲れ様でした伊波様、久遠お嬢様」
「くーちゃん、ママたちちょっとお片付けするから、その辺で休憩してていいよー」
「わかったー」
邪魔にならないように廊下に出る。
まだ人が結構残ってるな。
そういえば結局友達は出来なかった。
母の直感も外れるということか。
「あ、あの子よ!」
「ほんとだー」
「わ、かわいい……」
ん?不意に声をかけられ警戒する。
またコネとか言われるんじゃ……
「こんばんは!ねえお名前何て言うの?」
「なんであそこにいたのー?」
「ふわーすごいかわいい……」
あれ?意外と友好的。
一人はさっきアイドルになりたいと言っていた96番の子だ。
「え、えーっと私天原久遠。エタプロ所属の子役で、今日は見学させてもらってたの」
「えーじゃあもうオーディション通ったんだー」
「う、うん、通ったっていうか、親が社長でそのまま……」
「えーすごい!しゃちょーれーじょーだぁ!」
「う、うん、ちょっとズルだよね……」
「えーずるくないよ、しゃちょーれーじょーなら当然だと思うよー、ね?」
「そうだよ!私もパパのおかげでここにいるんだから、当然の権利よ!」
「それにこんなにかわいいなら絶対受かるから、オーディションの意味ない……!」
なにこの子たちとっても良い子……!
でもそっか、分かってくれる人もいたんだ。
なんだか……すごく嬉しい。
「ありがとう……あなたは蟹江杏奈ちゃんだよね、バラエティに出たいって言ってた」
「おーよく覚えてるねー。うんわたしーお笑いとか好きなんだー」
うーん、そんなにフワフワしててお笑いとか大丈夫なんだろうか。
髪もフワフワしてる。たしか6歳。
「あなたは片瀬瑞希ちゃん、アイドル志望の」
「そうよ!未来のトップアイドルとは私のことよ!」
すごい、ツインテールがこれ以上ないほどよく似合うキャラクターだ。
「あなたは横山悠里ちゃんだよね、ファッションモデルになりたいだっけ?」
「うん、私かわいいの好きだから……!くおんちゃんに色々な服着せたい……!」
悠里ちゃん陰キャっぽい性格なのに見た目は一番オシャレだ。この子も6歳。
多分同い年で気が合ったんだろうな。
今小学1年生ってことは実際は4つ上か。
「あれだけの人がいて私達のことを覚えてるなんて、流石社長令嬢ね!」
「あはは、私記憶力がいいから。それにみんな個性的で、印象深かったよ」
「ほんと?しっかりアピール出来たかしら」
「うんうん、きっと合格してるよ」
実際この3人は評価が高かった。多分大丈夫だろう。
「やった!」
「おー」
「え?私も……⁉」
「ふふ、内緒ね?」
大丈夫だよね?
「じゃあじゃあ!私たちみんな一緒の事務所で働けるのね!」
「うん!私3歳だけど、仲良くしてくれる?」
内心ドキドキしながら言ってみる。
「当然よ!私達は仲間なんだから!えーっと」
「呼び捨てでいいよ」
「くおん!一緒にトップアイドル目指しましょ!」
「いや、私はアイドルはやらないから瑞希ちゃん」
「なんで⁉」
「くーちゃんよろしくねー」
「うん、杏奈ちゃん」
「く、くおんちゃんよろしく......!こんど服買いにいきましょ……!」
「いいよ、悠里ちゃん」
…………
「「えへへへ……」」
4人全員で照れる。
おお……一気にお友だちが3人も……。
これからの事務所生活が俄然楽しみになってきた。
「じゃあ、もう遅いから気を付けてね。また正式に決まったら会おうね」
「ええ、あなたもお疲れ様、っていうか1日中見学してたの?ヤバくない?」
ヤバいです。
「くーちゃんまたねー」
「くおんちゃんお疲れ様でした……!」
バイバイと手を振って別れる。
えへへへ。
締まりのない顔で面接会場へ戻る私。
しかしげに恐ろしきは母の直感よ。
本当に良い事があってしまった。
我が母ながらチートすぎる能力だ。
この調子だとこの事務所が大成長するのは間違いないだろう。
一体この先どうなってしまうんだろうエタプロは。
「ただいまー」
「くーちゃんお帰り。丁度片付いたし帰ろっか。あれ?何か良いことあった?」
「うん!お友だちが出来た!」
「そう、良かったわねー」
うふふと笑って荷物を取りに行く母。
私はすぐそばの楓さんに近寄って耳打ちする。
「ママってほんとヤバいよね……」
「ええ、あの調子で正解を次々と引き当てるので、グループでは神のように信仰されています」
ツクヨミゲームスがあんな調子なのも納得の理由だった。
「さ、いくわよー」
「伊波様、久遠お嬢様、本日は大変お疲れ様でございました」
「楓さんもね、バイバイ」
母と手を繋いで外に出ると真っ暗。
「うーん疲れたー、あんなに働いたのママ初めてよ」
「私も初めてだよ……おかしいでしょ色々と」
「まあまあ、おかげで得るものもあったでしょ?」
まあ候補者全員の顔と名前、プロフィールとか覚えたし、
子役を目指す子がどんな子なのかも色々見れた。
それにお友達だって出来たし。
再会が楽しみだ。
そういえば私スマホ持ってない。
今度買ってもらおう。
それでお友だちとメアド交換とかしちゃうのだ。
「それにしてもいよいよエタプロが本格始動するわねー、憂鬱だわー」
「大丈夫なの?このままだと会社すごく大きくなるんじゃない?」
「楓に丸投げするから多分大丈夫よー」
何だかんだで付き合いの長そうな楓さんだ。
きっと上手いこと手綱を握って母を働かせるのだろう。
「そうだ、くーちゃんのマネージャーも考えないとね」
「マネージャー?」
「うん、専属マネージャー。ママも忙しくなるし、いつも着いていくのは難しいと思うのよね。
それにマネージャーは営業とか送迎とか色々やってくれるし、いるととっても便利よ。
くーちゃんの願いも、きっとなんでも叶えてくれるわ」
「マネージャーかぁ……」
そういえばタケルもお世話になったっけ。
兼任だったから、大体のことは自分でやってたけど。
私の専属マネージャー、どんな人になるんだろう。
若い女の人かな、それで姉のように慕って、
姉妹みたいに仲良くするとか悪くないかも。
それともおじさん?
おじさんだったら……犬?
忠犬のように私の傍に侍って。
私は貴族令嬢のように男を顎で使うの。
「○○、行くわよ」「はっ、お嬢様」って。
これも悪くない、悪くないよ。
「ただいまー」
妄想をしていたら家に着いた。
「とりあえず、今日はもう寝ましょう……ママもう限界だわ……」
「うん……私も……」
家に帰ると父が寂しそうにたこ焼きを作って待っていたが、
さっさと食べて風呂に入って泥のように眠る私たちだった。