13、エタプロオーディション1
「はぁ~ダルぅ~」
CM撮影を終えて一週間。
私はなんだか気が抜けてひたすらダラダラしていた。
仕事は今のところ一週間後の写真撮影のみ。
今までのゴリ押しがおかしいのであって、デビューしたての子役に仕事なんてそんなにあるわけ無いのだ。
というか私の本来の仕事はよく食べよく遊んでよく寝ることのはずである。
だからこんなゴロゴロしても問題ないのである。
はぁ~ゴロゴロゴロゴロ。
「くーちゃん暇そうね」
ゴロ?
「回って返事をしないの。暇なら今日のオーディション見学にくる?」
「オーディション?オーディションがあるの?なんの?」
「くーちゃんのじゃないわよ。エタプロの子役オーディション。ほら、うちもいつまでもくーちゃん一人じゃダメでしょ?」
「まあそうだね。一応本気で運営する気あったんだ」
「そりゃそうよ。くーちゃんのために建てた事務所だけど、他の子たちにも平等にチャンスをあげるべきだわ。それに事務所が大きくなれば、くーちゃんの仕事も取りやすくなるし。もちろん他の子もね。相乗効果よ」
なるほどなー。
「見学って、私それ行っていいの?」
「いいわよー。くーちゃん私の娘だし、直感力を鍛えるためにも、色々と経験するべきだと思うの。それにお友だちも出来るかもしれないわよ?」
「お友だち?」
お友だち……ありましたねそういう概念。
思えば今まで家の中で鏡ばかり見ていたから、友だちなんて一人もいない。
タケルも割と一人で平気な人だったし、意識したことなかったな……
友達、ねぇ、ふーん……。
「うーん、じゃあ行ってみる、あ、別に友達が欲しいとかじゃないけどね?勉強にね?」
「うん、じゃあ準備してね」
というわけでタクシーで事務所へ向かう。
「おお~……なんか凄い人いっぱいいない?」
「ツクヨミプロの傘下だしね。募集したらかなりの数が集まったわ」
エターナルプロダクション事務所、通称エタビルのロビーには200人近い人間がいた。
大抵は母親と子供のセットだから候補は100人ということか。
ふわふわのドレスや色とりどりの衣装を着た子供たち。お堅いスーツを来た親たち。熱意が伝わってくるようだったけど、同時にピリピリした空気が漂っていて、ちょっと息苦しい。
「申し込みは全部で1万通はあったの……皆我が子が天才だと疑わない親たちばかりで、選考が非常に大変だったわ……」
「い、いちまん……」
この少子化の時代に凄い数である。
親にとって子供を芸能界に入れることは、誰もが一度は夢見ること。
ダメ元もあるだろうけど、本気の人もかなりいそうだ。
ただ……
「びぇぇぇ~もうやだぁ~!」
「こら!静かにしなさい、もうちょっとだから!」
子供はそうでもない場合もやはり多い。
けっこうな数の子供が泣き叫んでいる。
そうだよなぁ、普通3歳くらいだとああなるよなぁ。
もう少し大きい、6歳くらいの子は割と我慢が出来ている。
だからこそ私のような存在は貴重なわけで。
まあ、それで思いあがって前回失敗したわけだけど。
「じゃあくーちゃんこっちね。一緒に面接会場に行きましょう」
「え、見学って、面接官するってこと⁉」
「うん、だってなんか面白くなりそうだし」
「うそでしょ?親御さんびっくりしちゃうよ……?」
「どんな反応するかしらねー。まあくーちゃんは座ってるだけでいいから」
うう……これも母の直感か?きっとなにか意味があるんだろうけど、結果が出るまでわからないのが困る。
はぁ……無事に終わりますように。
「ふふ、良い事あるわよきっと」